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その4 JKはドワーフと釣りをする

 ピギーピギー……


 うららかな陽気。そのとてつもないうららかさに、山川空はこれでもかというほど、うららかな気持ちになる。

 

 ピギー……ピギギギギー……


 日本ならば、小鳥のさえずりでも聞こえてくるかなという気持ちの良いアフタヌーン。だが異世界では、小鳥の代わりに小ドラゴンの鳴き声が響く。

 ドワーフと一緒に釣りを始めて、そろそろ2時間が経つだろうか。陽気が眠気を誘う。


「ふいー。落ち着きますなあ」


 紅茶が飲みたい。そんな欲望に素直にしたがって山川空は紅茶の香りのする紫ダージリンを……


「君、全然釣れないなあ!」

「はっ! しまった! うららかすぎて目標を忘れてた!」


 いかんいかんと、心のたすきを締め直す山川空に、ドワーフは冷たい目を向ける。


「君、釣ってくれないと困るよ」

「もちのろんですともさ!」

「もう針が無いんだよ」

「準備不足ですねえ」

「君のせいでしょ!? 君がルアーとかっていう疑似餌を全部根がかりさせて無くすから針貸してあげてるんでしょ!?」

「てへー。申し訳ない! でも釣るから!」


 山川空はルアーを全て湖の地面に引っかけて無くしてしまっていた。そこでドワーフに頼み込んで針とウキを貸してもらい、急遽ウキ釣りチャレンジにしているのだが……虫が気持ち悪くてドワーフにつけてもらったり、何かと手伝ってもらいすぎて信頼が揺らぎまくっているのである。


「あのねえ、魚釣れないと今夜は飯にありつけんのよ。本当に頼むよ」

「当然ですとも。でもほら、焦っても仕方ないから。こう、のんびり構えましょうよのんびり」

「うーん、君さっき寝そうになってなかった? それはもう、釣り諦めてる人よ」

「あははー、あれは瞑想です瞑想。うん。瞑想!」

「瞑想ねえ……」


 やはり冷たい目を向けてくるドワーフに山川空はとりあえず話題を変えた方がよいなと判断する。同じ釣れない時間を過ごすなら、楽しく過ごしたほうがいいに決まっているからだ。


「そういえば、お互い自己紹介まだでしたねえ。私、山川空です! よろしくお願いしまっす!」

「名前より、魚が欲しいんだが……俺はバグスだ」

「おお、バグスさん。おけまるです。この辺に住んでるんですか?」

「いんや。旅をしている」

「おお! 私と一緒だ!」


 テンションが上がってしまい、よそ見をしてしまう。


「いや、ちゃんとウキ見て!? こういう時に限ってツンツン魚が餌つついてきたりするんだから!」

「いかんいかん。へっへー、ごめんなさい。同じく旅人同士ってのが嬉しくて、つい~」

「全く……」


 魚を釣らないと、バグスさんはひもじい思いをしてしまう。

 どうにかして、釣れてくれないかなあと祈る山川空。異世界から転移してきた者、はぐれ者について話を聞くために魚を釣っているはずが、バグスの今夜の食事に思いを馳せている。

 結局のところ、気のいい少女である山川空は、糸を垂らすポイントを変えていき、調べていく。


「釣り動画で、ラン&ガンって言ってたもんね。意味わかってないけど。動けって事っしょ」


 必死の必死に釣りをしてくれる山川空の本気度に、バグスの心の扉が少しだけ開く


「ふむ。はぐれ者は、勤勉だというが、その通りだな」

「え! はぐれ者勤勉説!?」

「ま、勤勉に、元の世界に戻る方法を探して旅にでるって話だよ」

「ほえー。案外、日本人多かったりして。はぐれ者」

「日本人?」

「あー、私がいた世界の、私が住んでた国ですね~」


 釣りをしながら、山川空は自分がどんなところからやってきたか、なぜここにいるのか、をバグスに話した。

 

「ほおお……」

「とにかくあと30日ぐらいで帰りたいんですよねえ。学校が始まっちゃうから」

「こっちの世界にも学校はあるぞ。そっちに行けば……ってもんじゃないんだな。元の世界の学校がいいんだなあ」

「そうですねえ」


 ふむ。とバグスは何かを考えるとゴソゴソと懐を漁り出す。


「これを受け取れ」

「え?」


 魚を釣るべく見つめるウキから目を離したそこに、古ぼけたメダル。

 バグスの懐から出てきたので、少し湿っている。


「メダル? なんですかそれ」

「これは……むむ、っていうか魚を釣ってからじゃないと……まあいいか。これは俺んちに代々伝わるメダルだよ」

「いや、貰えませんから! そんな代々伝わってる家宝みたいなやつ!」

「これがあると、入れるんだよ。ヴォヴォリアに」

「ボボ……? なんです?」

「ヴォヴォリア。ここから遥か北にある、ドワーフの王国だ。小さいけどな。これがあるとヴォヴォリアの図書館に入れる。ヴォヴォリアの図書館は物凄く有名だよ。かなり歴史ある図書館で、ドワーフの学者か、このメダルを持ってるものしか入れない」

「え、バグスさんって、学者さんなんですか?」

「俺は学者じゃないよ。だけど、まあ俺のずーっと爺さんが、図書館関係の仕事についてたのかなあ。詳しくは知らんし、最悪売って路銀にしようと思ってたぐらいだし。君やるよ」


 その図書館に行けば、もしかすると色々情報が得れるかもしれない。そんな選ばれた人、っていうかドワーフしか入れないところなんて凄そうだし。

 そう思った山川空は、ぶんどりたいぐらいにメダルが欲しくなったが、躊躇ってしまう。


「でも、私が貰ってもいいのかな……そんないいもの」

「じゃあ、いつか返してくれたらいいし、むしろ他に必要そうなやつがいたらあげたらいい。そのメダルが俺と縁があるなら、いつか返ってくるさ」

「うわあ、じゃあ、マジで貰っちゃいます! ありが……!! ああ!」


 目を離してる隙に、ウキはしっかりと沈んでいた。

 つまり、魚がかかって、引っ張っているということだ。


「あああ! お、大きい! 大きい!」

「君ぃ! ゆっくり! 大物だぞ! ゆっくりいいいいい!」


 山川空が釣り上げた魚は、その湖のヌシと言ってもいいほどの迫力と、あまりにキラキラしすぎてて美味しくなさそうだったが綺麗な虹色の巨大な魚だった。

 バグスは大喜びで魚を抱えて近所のキャンプに行くと言う。


「君も食うか? ドワーフ以外が食ったら確実に腹下すけど」

「いや、それはいいです……メダル、ありがとうございました!」


 バグスはニッコリ笑うと、またな、と言ってとことこと去っていった。

 山川空は、一刻も早くドワーフの国へ行こうとポセイドン号を走らせる。


「あ、もっと転移してきた人について聞けばよかった! けど、まあ、いっか! 図書館で色々わかるっしょ!」


 バルルルルルルとポセイドン号を走らせながら、山川空はバグスとまた会えるといいなぁと思った。

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