その3 JKはドワーフと出会う
バルルルルル……バルルルルルルルルルルルルル……
煙が見えてから、結構な時間ポセイドン号で走り続けているがなかなか到着しない。
「ふいー。見えてからが遠いんだよなあ。こういうのって」
気が早っているので体感時間としては長く感じているが、小一時間ほど走ったところで煙を起こしている主と遭遇することができた。
身長は120センチぐらいだろうか。160センチは無い山川空よりもかなり低い。
そして剛毛。髭モジャ。大きな鼻が特徴的な、ドワーフのオジサンが大きな湖の畔で焚火をしていた。
「あー。エルフ村って感じじゃないなあ」
「おいおい、なんだ君は。初対面でいきなりトホホな感じ出すんじゃないよ」
てっきりエルフ村から立ち昇る煙だと思っていた山川空はがっかりしてしまったが、そのがっかりを指摘されて申し訳なく思う。
「ごめんなさい。いやー、思ってたのと違ったんでー。ちょっとショックが」
「村じゃなくて悪かったな。それにエルフじゃなくて悪かったな。俺はドワーフだ」
「あら、ドワーフさん。初めまして」
「君は……ヒトか」
「あー、はい。ヒト族ってやつですね。こっちでいう。まあ、あっちでもヒトだけど」
「あっち? ああ、はぐれ者かね」
「はぐれ者?」
なんとも悪そうな言葉である。ハングレ感もあるし、刑事感もあるその言葉が気になり聞き返すと山川空の現状をさっくり言い当てられる。
「違う世界から来たんだろ? たまにあるんだ」
「そうなんっすか!?」
よくあることだったのか!
山川空は驚きつつ、もっと情報を聞き出すべく話を続けたかったが……
「すまんが、俺は忙しいんだ。エルフ村は知らないが、ここからもっともっと北に行くと集落があるぞ」
「北ですか? エルフ村は西って聞いたけど……っていうか、はぐれ者について聞きたいんですけど!」
「西? ここはヴァルダイン荒野の北の端っこのほうだぞ。もうちょっと北に行くと荒野を抜けて、集落がある。っていうか、忙しいんだ! ほらほら、とにかく集落で情報を集めな」
「ぎゃあ! やっぱり方角がズレてたんだ! ひえええ……っていうか、はぐれ者について教えてください!」
「しつこいね君!」
全然引かない山川空にドワーフもたじろがざるをえない。
「はぐれ者ってのは、違う世界からこっちの世界に何故か来ちゃったやつらのことを指すってだけで、それ以上でもそれ以下でもないよ!」
「そのはぐれ者ってのはどのぐらい居るもんなんですか!?」
「どのぐらい居るって……調べてるわけじゃないから知らないけど。噂とかで聞く分には何人か聞いて事があるよ。もういいだろ! 釣りをしないと、今夜の飯にありつけないんだ!」
そう言ってドワーフはすり寄る山川空の手を引きはがし、大きな木の枝に糸をとウキと針を付けた簡単な竿で釣りを始めだす。
「あ、じゃあ釣り手伝います! その間、お話させてください!」
「むむ。釣った魚をくれるなら、交渉成立だ」
「もちのろんっす!」
「よし来た。というか、君、釣り道具はあるのかね?」
「へっへー。もちろんですよ」
不敵に笑う山川空が、リュックから取り出したのは、携帯用の釣り竿とリール、そしてルアーという疑似餌である。
「ほお。見たことないが、すごそうな釣り道具だ。これは疑似餌かね。ほほお……素晴らしい」
「ふっふっふ。これでバンバン釣っちゃうんで、ガンガンお話しましょうね!」
えらそうなことを言ってるが、山川空はこれが人生で初釣りである。
ただ、動画配信で釣り動画をやまほど見ているので、自信に満ち溢れているのだ。
「よーし、釣るぞー!」
「期待してるぞ、はぐれ者の君!」