その24 JKは雨ごいをする
貝を拾い、辛い大根と酸っぱいイチゴを取る。
火の中に貝をぶちこんで、取り出すのに超絶苦労をし、大根を生で齧り辛さに震えた。そしてイチゴの酸っぱさに震えた。
「お腹減るなあ……」
貝は大量にあるし、大根とイチゴも山盛りある。だが、大根は辛すぎて量が食べれない今、貝が主食になるのだが、貝は小さいので食べても食べても腹が膨れるものではなかった。
腹ペコは一番萎える。腹ペコが一番萎える。寒さよりも暑さよりも、大人も子供もお姉さんも、腹ペコが一番萎えるのだ。
そもそも山川空は食に興味があるタイプではない。基本的に腹が膨れれば文句はないのだ。晩御飯がバナナだけになったって、朝ごはんがすき焼きだったって、なんら問題はない。朝からハンバーグが食べれるし、夜にコーンフレークでも何の問題もない。ただ、腹が膨れたらいい。
と言われると、味も気にしないのかと言われるとそうではない。もちろん美味しいに越したことはない。だが、だいたい美味しいと思えちゃう素敵な子なのだ。
「もっと食べたい……」
なにはともあれ、腹ペコな山川空は弱っていた。結局、宇宙よりも何よりも、腹ペコなのだ。困っちゃうし弱っちゃうのは腹ペコなのである。
ぼんやりと空を眺めると、雲が綿あめに見えてくる。こんなベタな現象が腹ペコ極まると起こりえるのかと山川空は驚愕した。
「綿あめだ! あれ綿あめだ! 本当に綿あめに見えたりするんだ! すごーい!」
想像とは創造であり、そのヤバさ無限大である。
だが、腹は膨れない。
「ふいー。困ったちゃん」
とりあえずガブガブと水を飲む。が、これ飲めそうではあるが生水大丈夫……? という恐怖を感じるが、とりあえずタフな胃袋を持っていると信じ込んでいる山川空はがぶ飲み無人島ウォーターを楽しんだ。楽しむというか、楽しんではいないが飲みに飲んだ。
しかしいくら水を飲んでも腹が膨れるのは一瞬である。
辛すぎる大根をかじり、辛いなあと思いながら遠い眼になる山川空。
「辛いってぇ……」
辛さをなくすにはどうしたらいいだろうか。調味料があるわけではない。そして調理能力があるわけでもない。つまり、大根をどうこうするのは愚策だ。
つまり、己が変わるしかないのだ。
心頭滅却すれば火もまた涼し。お爺ちゃんが言っていた。山川空は、その境地に辿り着けば心頭滅却すれば辛さも甘し、となるのでは? と考えた。
すなわち、感謝の正拳突きを始めた。




