その23 JKは無人島にいる
無人島での生活はもちろん初めてだが、YouTubeでキャンプ動画を見続けた山川空にとっては少なくとも監獄や時の狭間や宇宙空間に比べたら天国かと思われた。
しかし問題は、キャンプ道具の一切合切を詰め合わせたリュックがポセイドン号と共にある、ということである。
ポセイドン号とリュックの無い山川空は、ただのJK。いや、のほほんとしたJKである。
「いやあ、こりゃ参ったなあ」
小さい島である。ど真ん中に嘘だろう? ってぐらい大きなヤシの木が生えていて、水も沸いている。奇跡的に塩水じゃない。こんな小さな島で、どういう風に普通の湧き水が……? と思うが、そんなこと気にしても仕方ないし、びっくりするぐらい辛い大根っぽいやつや、びっくりするぐらい酸っぱいイチゴみたいなやつも発見したので、飲食に関してはなんとかなりそうだった。超巨大ヤシの木の下に居れば雨も防げそうである。
とりあえず、ちょっとの間は生きてはいけそうだが……長い間は持ちそうにない。気がする。
さすがにのほほんとした山川空も、のほほんとしていられない。無人島とはそういうものである。
「とりあえず、火を起こしたいなあ」
若干、寒くなってきている。夜になると結構冷えそうなので、火を付けたいと思うのは当然であるが……山川空は絶望する。
「やっべえ。ナイフも何もないと、私火も起こせない疑惑ある!」
疑惑ではなく、確定事項であった。その確定事項に震えつつも前に進まなくてはならない。
「と、とりあえず枝を探すか……」
枯葉や枝を探すものの、生っぽいやつしか見つからない。ただでさえ道具もないのに、生木で火をつけるなんて無謀すぎる。
しかし、どうにかするしかないので山川空は必死に枝と葉を集める。
「ふいー。こりゃ無理かもなあ」
必死に集めた枝葉は、みずみずしいにも程がある。これは困ったなあと遠い眼をする山川空の目に映ったのは、小さな砂浜に流れ着いた小さなグラスであった。
「ややー! 奇跡! っていうか、こんなのが流れ着くってことは近くになんらかの文明があるってことなの!?」
社会の授業以外で初めて文明という単語を日常口語として使うほどに興奮した山川空は、そのグラスを使って太陽の光を集め、なんとか火を起こそうとする。
が、生木はそんなもので燃えやしない。
「きいい! 枯葉! 枯葉とか、なんか燃えそうなやつ!」
ポケットをまさぐると、こんもりとした何か。そこにはガリパツの髪の毛のひとかたまりが。あの、モワっとしたひと固まりがあることに、若干気持ち悪さも覚えつつ、いつの間にか引きちぎってたのか……と申し訳なさも覚えつつ、とりあえず燃やしてみる事にした。
ものすごい悪臭がするも、しっかりと燃え、それを種火にとんでもない量の煙を吐き出しつつ、山川空は無事に火を起こすことに成功した。
「ふいー。さて、どうしたものかなあ」
山川空の無人島生活は始まったばかりだ。