その21 JKはスピードの向こう側へ行っちまった
一方その頃、山川空はガリパツから運転を変わってスクーターを爆走させていた。
ガリパツは荷台に立って、亡霊たちを追い払おうと扇子を取り出してくねくねしながら踊っている。
「それが本当に効くの!?」
「風を操ってバリアを張っているんだ! 君は運転をしっかりしたまえよ!」
「わかってるけどさあ!」
ポセイドン号以外のバイクを触るのは初めてだし、これは浮気にならない、よね? とポセイドン号のことを想いつつ、必死にポチョムキン号を操る。
基本は一緒だ。とにもかくにもアクセルをぐいいと回すこと。とんでもない速さが出ているはずだが、風の加護が効いているのか山川空的には60キロぐらいにしか感じない。だが、60キロは60キロで山川空としては十分速いのだ。
「わわわ、クタァ時計の残骸がいっぱい! 怖い!」
「多少強引にハンドルを切っても大丈夫だ! 風の加護で多少は緩和されるし補助される!」
「わわわ、わわわ!」
「それよりも、こっちのほうがまずいぞ! とんでもない量だ!」
山川空が振り向くと、おぞましい量の亡霊が寄ってきていた
「ちょっと! その変な踊りのせいで寄ってきてない!?」
「どんどん仲間を呼び込んでいるようだ。このバリアもいつまでもつかわからない。ぬううう」
「ひいい、とんでもないピンチじゃん!」
「こうなったら、あれを使うしか……」
「そんなこと言ってる暇があったら、それを使って欲しい!」
「しかし、あれを使うと大変なことが!」
「じゃあ使わないで欲しい!」
「だがあれを使わないともう亡霊から逃げることはできない!」
「ああもう! じゃあ、使って!」
ガリパツがシリアスな顔で頷くと、もう一つ扇子を取り出した。
まさかのW扇子で踊るつもりらしい。
「ぐ、おお、あ、ぐわあ!」
「が、ガリパツ!?」
ガリパツは今、両手を扇子に奪われている。つまりポセイドン号にも山川空にも捕まっていない状態なのでヨッタヨタにふらついていた。
「ぐうう、やはり、大変なことが起きてしまった。バランスが取れなくて非常に怖い!」
「大変なことってそれ!? 頑張ってとしか言えないから頑張って!」
「そりゃああああああ!」
ガリパツは扇子を両手で振り回して踊り狂った。むしろ踊り猛った。
すると、山川空は異変を感じる。謎の浮遊感が襲ってきたのだ。
「え、え、え?」
ドライバーズハイ? ガリパツハイ? これはいったい何?
パニックになる山川空だが、ふと後ろを見るとガリパツがもう何が起きてるのかわからないぐらい踊っていて、なんとなくこいつの仕業だな、とピンときた。
浮いてるんだけど……と言おうと思ったが、ガリパツの必死な形相を見ているとそんなこと言えないし、何より多分これは浮かないとまずい状況だったんだろうとガリパツを心から信じてみることにした。
なにせ、自分を救いに来てくれたんだから。こんな危なそうなところまで。
「よし、とにかく、行こう!」
山川空はアクセルをグイっと回す。どんどんと浮いていくポチョムキン号。それはアクセルのせいなのかガリパツのせいなのかはわからないが、少なくとも、このままかっとんで宇宙まででも逃げれるような気がした。
「気持ちイイね! 空飛ぶのも!」
空間が、パリンパリンと割れていく。
そして全てが収縮して、爆ぜた。気がした。気が付くと山川空はガリパツと一緒に宇宙空間に飛び出していた。途中、何かをかすめた気がしたが、気にせず山川空は初めての宇宙空間に大パニックを起こしていた。
マンドラゴラをかすめたのはお前だったのか