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その19 マンドラゴラは考えるのをやめない

 宇宙空間まで飛び出したマンドラゴラは相変わらず考えるのをやめていた。

 なんせマンドラゴラは自分の意志で動くことができないのだ。宇宙空間に行くと月が二つある。この世界には月が二つあるのだ。というか、宇宙がある世界観なのだ。世界の下を像が支えていて……みたいな世界観ではないのだ。地球ではない惑星での大冒険。山川空は大変な状態。だが、マンドラゴラは……

 考えるのをやめていた。マンドラゴラは地味に究極生命体である。空気が無くてももちろん生きていける。だが、殺されれば死ぬ。その程度には究極生命体ではない。

 マンドラゴラは自力でなんともできなさすぎて、考えるのをやめていたがここにきて考え始めてもいいかなと思い始めていた。つまり、考え出していた。

 バトルフォームになれば、なんとかなるのでは?


「マンドラゴラバトルフォーム!」


 マンドラゴラはバトルフォームに変態することが可能だ。人型、獣型、そして植物型という三つに変態する。だが、そのどれになるかは運次第なのだ。ちなみに、植物型になると見た目が人参から豆苗になる。

 マンドラゴラは宇宙空間でバトルフォームに変態するが……悲しいかな一番役に立たない植物型になってしまった。植物型は豆苗になり、食べると相手が幻覚を見たり腹痛になったり死んだりする恐ろしい毒豆苗になるのだが……宇宙空間では糞の役にも立ちはしない。

 獣型なら、宇宙を駆けることだって不可能ではないが……植物型になってしまったからには元のマンドラゴラに戻るまで数時間ダラダラするしかない。また宇宙空間に漂う日々の始まりなのだ。


「ああ、考えるのをやめるか……」


 誰が聞いてるでもない宇宙空間で悲しく呟いた毒豆苗は、考えるのをやめた。

 考えをやめた瞬間、毒豆苗の右頬を何かがカスる。どこが右頬なのかは誰にもわからない右頬を何かがカスったのだ。


「なんだ?」


 考えるのをやめた時間は強制的に解除された。何かがカスったのだから考えざるをえない。

 何がカスッた? こんなところで? 隕石的な?


「何が何だかだぜ!」


 何が起きたのかわからない毒豆苗は、ふと過去を思い出した。

 あれはいつの頃だったか。確か、まだマンドラゴラとして地面に生えていたころの話だ。抜かれる前の、愛しき日々の物語。


「おいおいおい、お前なやってんだよ!」


 マンドラゴラは怒声をあげた。

 目の前にいる少女が、マンドラゴラを引き抜こうとしたからだ。


「俺を引っこ抜いたらどうなるのか知ってるのか?」

「どうなるって、滋養強壮にきくんじゃないの……?」

「バカ野郎! 俺を引っこ抜いたらお前が死んじまうんだよ! 俺はマンドラゴラだ! あとマンドラゴラに滋養強壮成分ねえよ! 多分な! 知らねえけど! 自分を食ったことねえから!」


 少女がポロリと涙を流す。


「お母さんが病気なの」

「お、おう。だからってお前、マンドラゴラ引っこ抜いても意味ねえよ。っていうか、お前死ぬし。引っこ抜いたら」

「なんで死んじゃうの? そんなの酷いよ」

「お前、俺を引っこ抜いて母親に食わせようとしたてんだろ? 酷いレベルでいったらお前のほうが上だろ」

「違うよ。私が食べるの」

「お前が食うのかよ!」


 少女は、マンドラゴラを食べて力をつけてバンバン仕事をして母親に薬を買ってあげたいと言った。

 いい心がけではあるが、マンドラゴラを抜くと死ぬし、食べても多分力はつかないぞ、と言い聞かせて帰らせた。


「私、どうしたらいいんだろ」

「っていうか、マッチなんて売れるわけねえだろ」

「でも、マッチが雰囲気出ていい、みたいなヒトもいるから」

「嗜好品が過ぎるんだよ。そういうやつらを探して売る方がむずいだろ」


 日々が過ぎ、いつの間にかマンドラゴラは少女の愚痴を聞く存在となっていた。

 そんなある日のことだった……

悲しい話にしたくない

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