その17 Jkはニケツする
バルルルル……
バルルルルルルルルル……
人生初のニケツ。二人乗り。自転車でもしたことがなかったそれを、まさか異世界でやることになるとは。しかも、その相手は彼氏や友達とかではなくてまさかの怪しげなガリパツおじさんだとは夢にも思ってなかった山川空だったが、助けてもらった恩と何よりも自分と同じはぐれ者だということを知り、気持ち的にはむしろプラス寄りのプラスといったところだった。
「しかし、君もこんなところに閉じ込められるとはついてない」
「あの変態にぶっ飛ばされたんですよねえ。ほんと、ぶっ飛ばしてやりたい」
「あの時魔導士は死んだよ」
「え!?」
大量のパンツを盗みまくったあげく、それに対して気持ち悪いと言われたら逆ギレして自分を変な空間に飛ばした憎きクソ野郎の唐変木! とは思っていたものの、死んだと聞いたら少しだけ胸にくるものがある。
山川空は、なんとなく嫌な予感がして尋ねる
「それって、死因は?」
「君をここに飛ばしたからだよ」
「うわあ! やっぱり! 嫌だ! 変態のクズとはいえ、人の死にがっつりかかわっちゃった!」
「時の狭間に飛ばす、なんてのはとんでもない力が必用だからね。君をここに飛ばして、力尽きたのさ。その顔は、誇らしそうだったと聞いてるよ」
「なんで誇らしくなれるんだ! そんなことで! うわあ。いやだなあ」
はっはっは、とガリパツが笑う。
ガリパツは後ろを振り返り、山川空にまたもサムズアップしてみせる
「気にすることはない。君のせいじゃないさ」
「でも、キモイって言ったから、死んじゃったようなものだし……あとよそ見運転怖いからしないでほしい」
「ちなみに、彼は君のパンツも盗んでいるよ」
「ええ!? はあ!? ややっ!!!!」
そこで初めて気づく。やけに、スースーしていることに。
山川空は時の狭間に飛ばされる瞬間、パンツだけは残して飛ばされたのだ。
「恐らく、そこで力を使い果たしたんだろう。一部分だけを残して時空間転移させるのは至難の業だ」
「マジでキモイなアイツ……。っていうか、超恥ずかしい。ジャージでよかった……スカートだったら爆死だった」
「はっはっは。確かにね。スカートだったら、私もこのポチョムキン号に君を乗せることを躊躇ったよ」
ガリパツが乗ってるスクーターはポチョムキン号というらしい。
見た目はいかにも町で見かけるスクーターといった感じだが……スピードがとんでもなく速い。
「これって何キロぐらい出てるんですか?」
「ん? そうだねえ。多分、500キロぐらいじゃないかな」
「ええ!? はやっ! ってか、スクーターってそんなスピード出るの?!」
「はっはっは。普通なら、というか我々が住んでいた世界だったら無理さ。だけどここは魔法がある世界。ポチョムキン号には風の加護を付与している。だから、速いし、風の影響を受けずにこうやって話せるし楽に運転ができる」
エルフやドワーフやマンドラゴラに会って、いかにもファンタジーな世界を旅してきた山川空だが、がっつり魔法の凄さを味わうのは初めてだった。
時魔導士に吹っ飛ばされたのも魔法ではあるのだが。
「いつからこの世界にいるの?」
「細かくは覚えてないが、多分10年ぐらいだろうね。この世界は一年365日、といった概念がないし、一日の長さも違う。感覚が狂って、どのぐらいいるのかさっぱりだよ。はっはっは」
ほがらかに笑うガリパツ。だが、ここに10年ぐらい住んでるのか、と思うと山川空は笑うに笑えない。自分も、同じように長期滞在する可能性が高い気がしたからだ。
「帰ろうとしたの?」
「ん? それは我々がいた世界にかい?」
「うん」
「いやあ、全く」
「え、なんで?」
「私はこう見えても日本人なんだが……」
「いや、うん。ゴリゴリの日本人だよ。顔」
「え、イタリア人に見えないかい?」
「え、うん。イタリア人を生で見たことないからわからないけど」
「そ、そうか……」
なぜか落ち込み、聞きたい話が聞けないが、そうこう言ってる間にクタァとした時計の数が減ってきている。
なんとなく、時の狭間から出れそうな気がして山川空は聞いた。
「もうすぐ出れる?」
「いや、これはよくない。完全にここがどこかわからない」
「ちょっと! とりあえず走ってたの!?」
「なんせ時の狭間だからね。だが、任せたまえよ。なんくるないさ」
なんくるないさって、どこの言葉だっけ? と思った瞬間、巨大な爆発音が聞こえた。