その14 マンドラゴラは隙を突く
ザババババババババババババ……
マンドラゴラは苛立っていた。
なにせ、目の前で山川空を攫われたからだ。
「ワニ公! まだ着かないのかよ!」
「もうすぐワニぃ。でも、わかってるワニ? あそこは、難攻不落の監獄ワニぃ」
「わーってらい」
山川空が連れていかれたのは、マンドラゴラの責任ではない。だが、目の前で連れていかれたことに、それを許してしまったことに苛立っていた。
「あの子が盗みを働くなんて、信じられないワニぃ」
「あいつは盗みを働いたんじゃねえよ。きっと知らずに手にしちまったんだろうさ。はぐれ者だからな」
「うーん。それをマンドラゴラが説明してあげたらよかったワニぃ」
「しょうがねえだろ! あいつら、俺をいきなり捕縛呪文で縛り上げやがった。口までな。糞ったれめ」
元来、魔法はエルフ族が得意なものである。ドワーフ族は力が強く、ヒト族は武器を作るのが得意だ。
しかし、難攻不落と謡われる監獄の看守たちは、ヒト族でありながら強力な魔法を使う。いや、使えるから看守に選ばれたと言っていいかもしれない。
「湖畔の貝殻だけは取ったらだめだぞって言っとくべきだったぜ。こりゃあミスだ。ちくしょう」
「とにかく急ぐワニぃ」
ザバババババとワニに乗って、マンドラゴラは監獄へと向かう。
うっすらと巨大な島が見えてくると……ワニがピタっと止まる。
「……ここから先は、何か嫌な予感がするワニぃ」
「ああ。なにか魔法が張り巡らされてるな。海の中も、外も」
マンドラゴラは舌打ちをしながら、天を仰ぐ。
魔法だけなら何とかなる。しかし、ヒト族が作った何らかの兵器が海の中に設置されているとしたら……これは厄介極まりない。
ミイラ取りがミイラになる。そんな言葉が異世界にあるかどうかはわからないが、マンドラゴラはほぼそういった意味のことを思っていた。
天を仰ぎながら。
「……天だ。そうか、空から行けば……」
「空ワニぃ?」
30分ほど経っただろうか。マンドラゴラは、ワニにぶん投げられて空をかっ飛んでいた。
「待ってろよ! 今助けに行くからな!」
しかし、ワニの力は凄まじく、斜め上方向に飛び続けてしまい、まるで落ちる気配がない。
「おいおい、嘘だろう?」
このままどこまで行ってしまうのか。それは誰にもわからない。
マンドラゴラは、一旦、考えるのをやめた。