その13 JKは運動場で走りたい
数日が経った。
「お前が山川空か」
「あなたがヨシュアさんですか」
「敬語はいらんよ。仲間だからな。ヨシュアでいい」
「わかった! じゃあ、私も空って呼んで!」
なんてことはなく、あっさりと運動場へと連れてこられた山川空は、あっさりとヨシュアと出会う。
ヨシュアは見た目は完全なヒト型で、ドワーフでもエルフでもない。髪も髭もワイルドだ。
「おいおい、ワイルドだなって顔で見てくるんじゃない」
そう言って、どこか嬉しそうなヨシュア。きっと、ワイルドであろうとしてるタイプのワイルドである。
「なるほど。空は、はぐれ者か……それで、その友達マンドラゴラは見つけれたのか?」
「それが全く……。一緒に捕まってると思ってたんだけどなあ」
「まあ、ここは広いからな」
ヨシュア曰く、この監獄は湖のど真ん中にある大きな島をそのまま監獄にしているらしく、相当な大きさになるという。
今、山川空たちがいるここはA棟で、E棟までは確認がとれている。
「Eまでの、どこかにいるのかなあ」
「まあ縁があればまた会える。世の中ってのはそんなもんだ」
「そっかあ。そうだね。確かに」
ただ、せめて、別れの瞬間は言葉を交わしたかった。
というか、もしマンドラゴラやワニもここにいるなら、自分だけ脱獄するなんて……と思ったが、よくよく考えるとマンドラゴラたちなら自力で脱出しそうだなあとも思う。
山川空は、とにかく今は脱獄に集中しようと覚悟を決めた。
「よーし、たくさん仲間集めて脱獄するぞー!」
「バカ! 大声だすんじゃねえよ!」
「そうだった! ごめんごめん」
てへへと笑う山川空に、大粒の汗を流しながらヨシュアが突っ込む。
「頼むぜ……」
「気を付ける!」
「怪しいなお前は……。とりあえずだ、仲間なんだが、実はある程度集まってはいるんだ」
「そうなの?」
ヨシュアが言うには、山川空の他に3人仲間にしているらしい。
だけど、もう少し人数が欲しいという。
「まだ食堂は一人きりなのか?」
「うん。そうなんだよねえ。A棟の中に、まさか8つも食堂があるとは……」
「とにかく広いからな。いいか、どうせそのうち新入りがどんどん入ってくる。その中で、こいつは! ってやつを探すんだ。俺も引き続き探す」
「OK。でもいいの? 私、別になんの知識もないし、見る目があるかどうかもわかんないけど……」
「ああ、ああ。大丈夫だ。空は裏切らないし、信頼できる。不思議だが、便器越しに喋った時にピンときたんだ。お前が選んだやつなら……まあそれに関してはすぐ鵜呑みにはしないが、相談しながら進めていこう」
山川空は、なぜか信頼されてるということが嬉しかったし、自分もヨシュアを信頼しているよ、と伝えたかったが、なんとなく照れくさかったのと、ヨシュアが看守に呼ばれて行ったので伝えなかった。
一人になった山川空は、とりあえず走ってみた。グラウンドを駆け回る。
この数日間、ずっと牢屋と食堂の行き来だけだったので体が訛っている。体を動かしながら、この広い運動場をポセイドン号で走り回ればきっと楽しいだろうな、と呟いた。
「おら! さっさと牢に戻れ!」
看守の声が響き渡り、山川空はそそくさと牢屋に戻る。
「おい、明日新人がやってくる。よからぬ話などせんように!」
看守から、新人がやってくる旨が告げられ喜ぶ山川空。
いい人だったらいいなあ。そんな呑気なことを思いながら、今日も牢屋で眠る。
夏休み中に帰るのはもう無理だ