その10 JKはプリズンブレイクしたい
監獄。プリズン。監獄。
これはどう見ても監獄。牢屋。鉄格子。
山川空は、しっかりと牢屋の中に閉じ込められていた。
「えーっと……何がどうなってるのか説明求ム」
ポリポリと頭をかきながら、現状を把握しようと努めるが、一切合切わからない。
巨大なワニの背中でまどろんで……そこから先がプッツリと途切れている。
「二人は大丈夫かな……」
マンドラゴラと巨大ワニを二人、という数え方であってるかどうかは別として、山川空は二人を心配していた。自分自身がどうなってるのかが理解できない以上、みんながどうなってるのかが気になるし心配になる。
なんとなく、おーいとか、ちょっとーとかって大声を出すのは良くない気がして牢屋の中を散策する。
今自分が目覚めたベッド。そして小さな机と椅子、トイレ……丸見え!? 鉄格子と、窓は無し。
おしまい。
山川空は、狭くて寒くて、なによりトイレが個室じゃなくて丸見えなことにざわめきを感じつつ、散策を終了する。
「こりゃあ、困ったなあ。さすがに困ったぞ」
ベッドの上で、あぐらをかいて腕を組み、大声を出して誰かを呼んでみるか悩む。
大声を出すな! この犯罪者め! とかって兵士みたいな人に怒られやしないか? というのが山川空の不安なのだ。
「でもまあ、ベッドなのは嬉しいし、丸見えだけど、ちゃんとトイレがあるのは、嬉しい。けど……いやはや、困ったなあ。なんで私逮捕されたんだろう」
牢屋に入れられるということは、逮捕されたということ。ってことは、多分悪いことをしてしまったということ。交通法違反? 異世界にも交通法はあった? 日本と同じような規制があるのなら……ポセイドン号でスピードの向こう側を走り抜けすぎたが……。
山川空は、思った。そして叫んだ。
「標識もないのに、そりゃないよ!」
その声に呼応するように、走ってくる何か。しかめっ面をした看守が手にでっかいフォークのようなものを持って、山川空を威嚇してくる。
「こら! てめえ騒いでたらぶっ殺すぞ!」
「ひいい! ご、ごめんなさい!」
舌打ちしながら去っていく看守。どうも見た目はヒト、つまり山川空と同じく人間っぽいが……。
「大声を出しただけで殺すぞって言われるようなところに、捕まるぐらいのことをどこかでしたのか……」
寝てる間に何があったのか。マンドラゴラと巨大ワニはどこなのか。謎が謎を呼びながら……いったん考えるのをやめて山川空はベッドで横になった。
実は案外これは夢で、もう一度寝たら夢から覚めて……
「こら! 起きろ!」
一瞬でまどろみかけていた意識が目覚める。しかめっ面の看守が牢屋の鍵を開けて……
山川空は食堂に連れていかれた。
「いいか。飯は1日2回だ。それ以外の時間は牢屋で反省しろ。わかったな!」
「は、はい」
私は一体何をして捕まったんですか? という言葉が出ない。なんせ看守が怖すぎるのだ。
あんなに頭ごなしにワーワー言わなくてもいいのになぁ。
そう思いながら山川空は牢獄飯を頬張った。
それは焼きそばのような食べ物。肉も野菜も入ってないが、麺は山盛りある。そしてタレも美味しい。
「炭水化物で、パワーアップだ」
「私語はつつしめ! 殺されたいか!」
「ひいい! すみません!」
ここでは命が軽いみたいだ。
山川空は、もそもそと焼きそばを食べ……ふと違和感に気づく。
自分しかいない。他に食べてる人が誰もいない。
この牢獄に捕まってるのは自分ひとりなのか?
「あのお……」
山川空は、勇気を出して手を上げる。だが色々質問をするために絞り出した勇気は、無残にも打ち砕かれる。
「黙って食えないなら、本当に殺すぞ!」
「黙って食います!!!!!」
とりあえず、ここは言ったとおりにしておこう……殺されたくはない。
山川空は、必死に焼きそばもどきを貪り、看守に連れられて牢屋に戻る。
道中の牢屋は空だった。
いよいよ、ここには自分しか捕まってない疑惑が溢れだす。
チャンスをうかがって情報を得ないといけない。
なんだかんだ、主人公補正がしっかりかかってるとしか思えないぐらい肝っ玉の据わった山川空のプリズンブレイクが幕を上げた。