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その1 JKはポセイドン号で走る

 見渡す限りの荒野。

 見た目はネズミだが、その背中に羽根を備えた生き物がキュキュっと鳴きながら遠くから聞こえてくる音に警戒する。


 バルルルルルルルルル……


 山川という名前が記された黄緑色の学校指定ジャージを上下セットアップでしっかり着こなす女子高生が砂煙を立てながら荒野をひた走る。

 山川空やまかわそらはヘルメットに最初からついていたゴーグルを砂埃対策に装着して、自慢の原動機付自転車、すなわち原チャに乗ってひたすらに西へ西へと向かっていた。

 足元には水の入った巨大な袋があるので、どこの不良ですかと問いたくなるような大股開きで原チャを乗りこなす彼女の背中には大きなリュックにキャンプセットがこれでもかと詰め込まれている。


「ふいー。制限速度がないから楽だよねー。異世界は」


 原チャを止めて、水筒のお茶をグビリと飲む。

 甘くて苦い、紅茶のような味。紅茶にも色々種類があるだろうが、山川空にはそんなこと知ったことではない。というか、彼女にとって紅茶はいつも家で飲んでいたノンブランドのダージリン。


「この葉っぱがそこらへんで取れるって知ったら、お母さん喜ぶかな。つくしとか見つけたら根こそぎ取りつくす人だもんなあ」


 空を見上げあると、小さなドラゴンのような何かが飛んでいる。もっとよく見ると全然ドラゴンではなく、どちらかいうとライオンに羽根がついているタイプのやつだ。その周りをネズミに羽根が生えたようなやつが飛び回っている。


「うーん、すっかり慣れたなあ。こういう風景。よーし、休憩終わり。行くよー。ポセイドン号!」


 そう言って、山川空は原チャをポンと叩き、出発する。

 自分の名前に唯一入ってない海系のモノを原チャの名前にしたかったので、どうせなら海で一番強そうなやつということで海の神様ポセイドン号となった原チャは、山川空の声に反応するかのようにエンジンをバルルルルと響かせて、また走り出す。

 目的地は、荒野を西へ西へと横断した先にあるエルフが集まるという集落。

 その集落の名前はエルフ村。

 眩暈がするほどに何のひねりもないその集落目指して、山川空はポセイドン号のアクセルをグイイ~とひねる。


 バウーーーーーン! バルルルルルルルル……


 急発進はやめましょう。制限速度を守りましょう。そんなルールは異世界には通用しない。適用されない。それでも、曲がるときは何故かウインカーを出してしまう。


「しっかし、この荒野一生続くんじゃないか疑惑あるなあ。見渡す限り荒野だもん」


 荒野に入ってから、既に3回は夜を越した。キャンプセットを持っているので困りはしないが、目的地に延々着かないのはなかなかに不安だ。


「なんか、ずっと風景も一緒だしなー。真っすぐ走ってるつもりが、実はずーっと円を描いてたパターンかな」

 

 目印なしに、真っすぐ直線を移動するのは中々に難しい。山川空は、森の中でずっとグルグル回ってしまう遭難者の漫画を読んだことがあったのを思い出していた。


「んー。むうう。ま、どうにかなるか!」


 山川空は、動じない性格である。長所であり短所でもあるが、少なくとも異世界にやってきた女子高生の性格としては、かなりプラスに働いているだろう。


「あー。日が落ちてきたなあ。そろそろ夜の準備したほうがいいかー」


 荒野で4回目の夜を越すことになる。

 しかし、山川空は動じない。


「仕方ないか。テントだテント! テント張って、今夜はのんびりするっきゃないね」


 昨今のテントは、簡単な自立式テントが安く売られている。ポイっと投げるだけで組み立てられる代物だ。

 しかし、山川空のテントはガッツリ玄人向けというか、本気なテントである。

 骨組みを組み立て、トンテンカンコンとペグを地面に打ち込み固定し、分厚いシートを被せていく。

 なんとなくカッコいいからという理由で面倒くさいほうを選んだことを、圧倒的に後悔していたが今では少しだけファインプレーだと思っている。

 ちょっとしたキャンプではなく、異世界サバイバルに耐えうるテントは簡単自立式では厳しいからだ。


「やっぱ面倒だなぁって思うこともあるけど、ま、結果オーライだったね~」


 鼻歌交じりにテントを組み立てているのは己を奮い立たせる意味もある。正直、山川空はテント設営が苦手で今でも面倒くさいは面倒くさい。ほんの少しのファインプレーという思いも、実際組み立ててる時はトホホな涙が頬を伝いそうになるぐらいには面倒くさい。

 だが、組みあがった後の屈強なテントっぷりを見てると、やっぱりファインプレーだったかもね、と思う。


「ご飯は……くんせい肉でいいかぁ」


 山川空は誰かに話しかけてるわけじゃない。ゴリッゴリの独り言だ。

 これは、独り言でもいいから喋ってたほうがストレス減るよと教えられたからやっていることである。


「あのエルフのおじさん、元気かなあ」


 同じく一人旅をしていたエルフのおじさんと出会い別れたのは4日前なので、元気かどうかを心配するには時の長さが足りない気もするが、山川空はエルフのおじさんに感謝していた。

 いくら山川空が動じない性格でも、やはり慣れない生活はストレスになる。表面上わからなくてもストレスはこっそり積み重なっていくものだ。

 だから自覚できていないストレスを発散するため山川空は独り言を沢山喋る。仮に、これでストレスが発散されてなかったとしても、別に困るものではないしオールOKというのが、彼女の結論だ。

 

 チュンッ……チュンッ………!!


「ふん! よっと! ほっ!」


 ファイヤースターター付きナイフを買ったことは間違いなくファインプレーだった。

 キャンプで焚火をするときに、ナイフで火起こししたらカッコいいから、という理由だけで選んだナイフ。

 ザラザラした棒が付いていて、それをナイフの背で削ると火花が出るのだ。それを枯葉などに引火させて火種を作る。


「正直、ライターで、やれば、いいっしょ、って思い、つつ、これ、買って、良かった、な!」


 簡単ではないのでいつもチュンチュン音をさせながら苦労はするが、大したもので火はちゃんと起こせる。

 ダージリンではないだろうが、ダージリンの香りがする紫色の葉っぱを紫ダージリンと名付けた山川空は、付近の紫ダージリンをこれでもかと採取してお湯をわかし、お茶を作って温かいやつをグビリ。


「ふいー。落ち着くねえ。砂糖があればもっといいんだけどなあ」


 パチパチ燃える焚火をぼんやり見ながらウトウトしてしまう。

 なんだかんだで一日走り続けたので疲労は貯まっている。

 山川空は、あふぅ……と大きなあくびをすると、テントの中にいそいそと入っていく。

 空気を入れると簡易ベッドになるエアマットをせっせこと膨らまし、こてんと転がり、うーんと伸びをする。


「やっぱりこの世界の一日って長い気がするなあ。24時間じゃない気がする。まあ時計ないしわかんないけど」


 山川空がエルフのおじさんから教わったことは三つ。

 独り言でストレス緩和。

 紅茶みたいな香りの葉っぱ。

 荒野を西に抜けた先にエルフ村があり、有名な占い師がいる


「占い師さん、元の世界に戻る方法占ってくれるかなあ。っていうか、それ占いなのかな」


 ふと、そんな具体的なものって占えるのか? と思ったが、なんとかなる精神が強すぎる山川空はふわああと大きなあくびをして眠りにつく。


 明日こそエルフ村にたどり着きたいなぁ、着けたらいいなぁと寝ぼけながら口にして。

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