黒幕の膝で駄弁る猫
生来からのモノグサであった俺には、熱意が無かった。
生きることにも死ぬことにも努めることにも休むことにも喜ぶことにも悲しむことにも、ありとあらゆることに真摯では無かったし、ましてや目的を持つことなどありえないことだった。
そんな人生の終わりは、病死だった。健康に気を使うなどという面倒なことをしなかった結果であり、望むことなど何も無い俺に未練などなかった。
人畜無害で毒にも薬にもならない俺は、そのまま消えゆく存在だった筈だ。
しかし、欲望の邪神が、俺の在り方に目をつけた。
ようは、怠け者の蟻だ。
それに俺を仕立て上げようというのだった。
怠け者の蟻とは、文字通りに蟻社会における怠け者のことで、他の蟻が働く意欲を持つように必ず一定数、存在する働かないことを働く蟻である。
流石に蟻の姿は勘弁だったので、猫の姿にしてもらった。
そして、今、俺は魔王の膝で駄弁っている。
別にお喋りしてるわけじゃない。ダラーんとしてるのだ。
欲望の邪神曰く、俺は存在するだけで他者の欲望を刺激し、活性化させる力があるらしい。
で、魔王は勇者に倒されました。めでたしめでたし。
ただの猫(邪神の使徒)にしか見えない俺は、勇者によって保護された。
それで預けられた教会の神父さんが、案の定、欲望を刺激されて、あれよあれよの大出世。
教皇に就任した。
で、不正を暴露した英雄に倒された。めでたしめでたし。
ただの猫にしか以下略。
で、今度は保護される前に抜け出して、気まぐれに彷徨いていたら、裏社会の人に気に入られました。
あれよあれよとその人は、裏社会の首領になりました。
以下略。
まぁ、つまり、俺は何もしないで良い好条件の仕事に就いたのです。めでたしめでたし。
「君が原因だったのか」
……勇者にバレました。
「いや、違うけど」
「喋る猫だと!?やっぱり君が原因なんだな」
「だから、違うはず?」
説得試みる。でも、猫が喋るから速攻で断定された。因果関係無いのに。
「僕に聞くなよ!?」
「むぅ……ニャア」
「今更!」
「可愛い!」
「何!?」
聖女が堕ちた。勇者は、聖女にヤラレてしまいました。めでたしめでたし。