いち
目を伏せたくなる程の強い日差しと、目の前を歩く君が眩しい。
木々を見れば秋風に唆されて朱に染まっている綺麗な紅葉と、黄金色のイチョウが美しかった。
空気は乾燥していて、手のひらはカサカサとしている。
両手を顔の前に持っていき、はぁ、とかすかに唇を動かせば白い息が自然と出た。
秋は自然と眠くなる。
体が寒さに反応して休め、無理をするなと言っているのか。
「けーちゃん!」
僕のずっと前を歩く彼女は、歩みが遅い僕を急かす様に僕の名前を呼ぶ。
急かす様にってか、急かされている。そんなに急いでどこへ行く?
「けーちゃん遅い!」
そう怒りながら頬を膨らます彼女。今日の彼女は少し焦げ茶に染まったボブカットされた髪がニット帽の端からかすかに見えて、細すぎる体を隠すようにダボダボの黒パーカーを着てデニムのショートパンツに黒のタイツをうまく着こなしている。
「ただの散歩なのに遅いもへったくれもないだろ」
もあもあと白い息を吐きながら講義したが、彼女はさっさと先へ進んだ。
怒っているのか、何か興味の対象が先にあったのかはわからない。
いつだって彼女の考えていることは僕には理解できない。
IQが20も違うと会話が成立しないというけど、僕の知能が低すぎて彼女についていけないのかもしれない。
ザクザクと枯葉と雑草を踏んでこぎみ良い音を響かせながら人っ子一人いない公園をゆっくり歩く。
雲ひとつない快晴が僕の頭上で真っ青な色を見せつけてくる。
雲がないせいで太陽が威張り散らして直射日光をここそこに散らばしている。
くしゅん、とひとつくしゃみが出た。
僕は眩しいとくしゃみが出る体質だった。目や鼻が人より少しだけ過敏だ。
大きく息を吸ってみた。
木々の匂いや、草木の露の匂いがした。
くしゅん、とふたつめのくしゃみが出た。
鼻の奥がジーンと痛む。この調子だといつか鼻血が出るな~なんてどうでもいいことを考えながら、散歩の後はどこに出かけようか考えていた。