36話 クラス対抗戦⑮ テレポートという魔法
「それは全部・・・魔法陣・・・なのか?」
俺はおそるおそる、アランにそう問いかけた。
「ああ、そうだよ」
と、アランは平然と答えた。
そして続ける。
「僕は少しばかり、常人より魔力が多くてね・・・これくらいどうってことはないのさ。 まあ、最初は苦労したけどね」
と、アランは笑顔でそう口にした。
なに?
魔力が少しばかり多いだと?
あの腕を見た感じ
とても、そんな次元の話には聞こえないんだが。
アランは続ける。
「ユーリ君。 君には特別に教えてあげよう」
そう言ってアランは、左腕の制服をバサッとまくり上げた。
そして―
「な、何だと・・・」
俺は驚愕した。
アランの左腕にも、
右腕と同じように
無数の魔法陣が印字されていた。
「この両腕、それと背中の分も合わせて、僕の体には全部で31の魔法陣を印字している。 それも、全てテレポートのものだ」
何だと・・・
31の魔法陣全てが
テレポートだってのか?
ってことはつまり、えっと・・・
俺がそう考えていると、アランが口を開いた。
「僕はあと151回・・・魔法陣を展開せず、テレポートを使うことができる」
「な・・・」
俺は驚愕のあまり、それ以上言葉が出なかった。
あと151回も・・・
テレポートが使えるってのか?
メリーよ・・・
聞いていた話と、だいぶ違うんだが・・・
そう心の中で呟くと同時
『すみません、すみません、本当に申し訳ありません、ユーリ様~』
と、泣きながら謝っているメリーの姿が浮かんできたので
それ以上考えるのをやめた。
するとアランは
「ユーリ君。 君はテレポートの本来の使い方を知っているかい?」
と、何とも不思議な質問を投げかけた。
なに?
テレポートの
本来の使い方だと?
「いまいち、質問されている意味が理解できないな」
俺は思ったことをそのまま口にした。
するとアランは、数秒間を開け口を開いた。
「テレポートという魔法はね、もともと戦闘で使う為のものじゃないんだ。 本来の使い方は単なる『移動』。 ある場所からある場所へと、単に移動手段としての魔法でしかないんだよ」
「なんだと・・・」
あれほど恐ろしく、脅威的なあのテレポートが
単なる移動手段に過ぎないだと?
「君も気づいていると思うが、テレポートの強みというのは、ありとあらゆる場所に瞬時に移動できるというところにある。 だが、僕のような方法を取っていない場合、テレポートを使う際、他の魔法と同様に、一度魔法陣を展開しなくてはいけない。 それであれば、テレポートである必要性はないんだ。 敵を前にして、魔法陣を展開する時間があるのなら、テレポートを使うより、火炎魔法や風撃魔法などの攻撃魔法を使用した方がよっぽどいいからね。 これはテレポートを習得した者みなが思うところであり、僕も同じように考えていた。 二年前まではね・・・」
そう言うとアランは静かに口を閉じだ。
***
『君、すごいな! 今のはなんて魔法だ?』
これかい? これはテレポートと言って単なる移動—
『テレポートというのか! 実に素晴らしいな!』
まだ話している途中なんだけど・・・
随分とせっかちな人だ。
***
『アラン、君はこのテレポートを改良し、極めた方がいい! もしこれを戦闘で使えるように改良できれば、君はここにいる誰よりも強くなれる!』
テレポートを改良?
そんなこと、今まで考えたこともなかった。
だが、そんなこと果たして―
『君なら出来る! 絶対に! この俺が保証する!』
・・・
ハハハ、
君にそこまで言ってもらえるのなら
やれるだけ、やってみようかな。
『ああ! ぜひやってみてくれ!』
***
『アラン、俺は絶対に特級騎士になるぞ、絶対にな』
弟・・・だったかい?
『ああ、俺の大切な家族だ。 俺は弟の環境を絶対に変えてみせる。 その為にも俺は、絶対に特級騎士にならなくてはいけないんだ』
そうか・・・。
よその家族の話に、他人がずけずけと首を突っ込むのは
無礼であると、重々承知してはいるが
これだけは言わせてくれ。
『何だ?』
僕は、たとえ何があっても君の味方だ。
『アラン・・・』
君が困っているのなら、僕は全力で君を助ける。
だから、僕にできることがあれば
どんな些細なことでもいい。
何でも言ってくれ。
僕は絶対に、君の力になると誓うよ。
『ありがとう。 ありがとうアラン・・・。 俺は本当に、いい友に恵まれたと思っている』
ハハハ、
それを言うのなら、僕だって同じさ。
『そうか・・・それでも、ありがとう』
ああ。
***
『アラン! だいぶ先の話だが、俺と生徒会に入らないか?』
生徒会?
急にどうしたんだい?
『先日教官から、特級騎士を目指すのであれば、生徒会に入って様々な経験を積んだ方がいいと助言されてな! 俺も教官のその意見に納得し、今こうして君に話をしているところだ』
そういうことか・・・
・・・
そうだね。
うん、いいよ。
『本当かアラン!? いいのか?』
ああ、構わないよ。
『ありがとう! 本当に―』
ただし、一つだけ条件を付けさせてくれ
『条件? その条件とは?』
それは・・・
エリオット
君が生徒会長になること。
それだけだ。
それが僕の条件だ。
『んー、そこはあまり考えていなかったな。 だが、俺よりも君の方が―』
これは決定事項だ。
エリオット
君が生徒会長になるんだ。
そして、
僕は副会長になって
君を支えると約束するよ。
『そうか・・・アランが支えてくれるのなら、怖いものなんてないな!』
ハハハ
と、その時の
まるで子どものような無邪気な笑みが
今も僕の脳裏に焼き付いていて
離れない
***
アランが黙りこみ、数秒が経った。
そして―
「すまない・・・少し昔のことを思い出してしまった」
アランは、どこかさびしげな表情をしていた。
「つまり、何が言いたいかというと」とアランは続ける。
「二年前から僕は、このテレポートを戦闘で使えるように改良し、今の形になったというわけさ。 おそらく、テレポートを戦闘で使っている者は、唯一この僕だけだ」
そう言うとアランは、目の色を変えた。
俺は反射的に剣を握り、構えた。
「ユーリ君。 この僕のテレポートはね、そう簡単に攻略されていい代物じゃあないんだよ。 だから僕も・・・ここからは全力で行かさせてもらう」
そう言うと、アランは構えた。
くるか!
「ロミオ!」
「うん!」
俺たちはアランの攻撃に備え、構えた。
そして―
ダンッ!!!
と、アランはこちらに向かって
地面を強く蹴りこむと同時に
シュン―
と、姿を消した。
俺は同時に、自身の間合いに全神経を集中させる。
だが―
シュン― シュン―
シュン― シュン―
シュン― シュン―
「な、何・・・ッ!」
俺の周囲の、至るところで
アランの気配を感じる。
アランの奴、
素早く連続して何度もテレポートを使っているんだ!
それも
俺のギリギリ間合いの外側で!
くっ・・・
俺の意識を攪乱させ、その隙をつこうと
そういう魂胆だな。
だが・・・
思い通りになってやれるほど、
俺は優しくはねえぜ!
いくら攪乱させようとも、
必ず最期には
俺のこの腕につけている腕章を取りに
俺の間合いに入ってくる。
俺はその時まで
全神経を集中させ
待ち続ける。
ただそれだけだ!
俺は呼吸を整え、その時を待った。
そして―
!!!
「そこだぁあああああ!」
右斜め前方、俺の間合いの中に
空間の歪みと魔力を感じた。
そして俺は、それめがけ全力で模造刀を振った。
だが―
シュ― シュン―
「なに―」
アランはごく一瞬姿を現した瞬間
また姿を消した。
俺の模造刀が
アランをぶち抜くよりも速く
ブンッ!!!
俺が振った模造刀が空を斬る。
そして
―シュン―
コンマ1秒にも満たないわずかな瞬間
俺の‘‘左側‘‘にアランが姿を現した。
俺はハッとした。
最初にアランのテレポートを見たときと同じくらい
いや、それ以上に
身の毛がよだつ感覚が全身を駆け巡った。
俺は
アランのテレポートの速度
その素早さを見誤っていた。
これが本来の
アランのテレポートの速度だ。
そして、
最初に使ったテレポートは
‘‘フェイク‘‘
俺に剣を振らせるための
おとりだった!
「僕の勝ちだ」
アランはそう口にすると
俺の左腕につけている腕章に手を伸ばした。
俺は反射的に体を捻るが
くッ、間にあわねえ―
アランの指先が俺の腕章に触れた瞬間
「氷結魔法 フリーズ!」
そう声が聞こえた瞬間
俺の左腕に
凍てつくような冷気を感じた。




