28話 クラス対抗戦⑦ 気合
教官の宣言と同時、観客席は大きな声で湧きあがった。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
「すげえよ、あの一年! 二年の上級騎士を相手に勝ちやがった!」
「あの子、たった一人でエミリさんとカイさんを同時に・・・すごい・・・すごすぎるわ!」
「なんて奴だ、本当にあいつは下級騎士なのか?」
「もういっそこのまま優勝してくれ!!!」
大いに観客席が盛り上がっている中
観客席の最後列に、教官とある男の姿があった。
「あの子が、例の新入生か」
「はい。 名前はユーリ・アレクシス。 彼はこの学校の入学試験の一つである、剣術試験で、この学校が出来て以来最高の成績を収め、この学校に入学しています」
「なるほど、どうりでこの結果というわけか」
男は数秒ユーリを見つめ、続けて口を開く。
「そういえば、数週間前に自主退学した、リギル・ダルウィン君との一件についても、彼が関与していたと聞いたが」
「はい。 数週間前、彼はエミリ・レンガーデンとリギル・ダルウィンとの婚約を解消するため、リギルと決闘を行い、それに勝利しました。 それにより、双方の婚約は解消され、結果としてリギルはこの学校を自主退学・・・という形になりました」
「私がいない間にそんなことが・・・。 だが、何も退学せずともよかったであろうに」
「退学届を提出したその日の夜、騎士生徒会長であるアラン・ファルガレスが、退学を考えなおすように、ダルウィン卿宅まで行き、彼を説得したようですが・・・彼の気持ちは変わらなかったようでして」
「そうか・・・」
男はそう言って、考えるように黙り込んだ。
「どうか、しましたか?」
「いや、ただの偶然だろうが・・・騎士生徒会長のアラン君が、ダルウィン卿の家に行ったその日の夜・・・リギル君の父親であるルイズ・ダルウィン卿が原因不明の謎の死を遂げている。 ダルウィン卿の遺体が見つかったのはバラドールの外でなんだが・・・バラドールに住む住民誰一人として、ダルウィン卿がバラドールから出て行った姿を確認した者はいないんだ」
「え? そうなんですか・・・」
「ああ。 わが校の生徒を疑うわけではないのだが・・・君はルイズ・ダルウィン卿について、アラン君の口から何か聞いているかい?」
「えっと、直接自分が聞いたわけではないのですが・・・他の教官がアランに話を伺ったろころ、その夜アランがダルウィン卿宅に向かった際には、ルイズ・ダルウィンの姿は一度たりとも確認していないとのことです。 それに加え、ダルウィン卿が亡くなったことを知ったのも翌日だと・・・」
それを聞いた男は、少し考えるように俯いた。
その様子を目にした教官は、動揺しながら口を開いた。
「ま、まさかアランが・・・ダルウィン卿を―」
教官がそこまで言うと
俯いていた男は顔を上げ、にっこりと笑顔を見せた。
「いいや、わが校を代表する騎士生徒会長に限って、そんなことはあり得ないだろうな。 私としたことが、わが校の生徒に疑いの目を向けてしまうなど・・・教官失格だな」
「いえ、そのようなことは・・・」
男はハハハと苦笑いし
「この話はよそう」
そう言った。
男は場内にいるユーリに視線を戻し、再び口を開いた。
「ユーリ・アレクシクス君・・・彼は相当の実力者だ。 私の見立てでは、彼の力はこの国を背負って戦っている、特級騎士のレオやリオンと同等・・・いや、それ以上かもしれん。 彼の今後の活躍が楽しみだな」
と、男がそう言うと、教官は少し興奮気味に口を開いた。
「おおお! その言葉、彼が聞けばきっと喜びますよ!」
「そうかな?」
「はい! なんせあなたに・・・あの伝説の、元火ノ隊―隊長であり、この学校の理事長である・・・あなたにそう言われれば!」
「そうだと、いいんだけどね」
そう言って理事長は、どこか不敵な笑みを浮かべながら、ユーリを見つめていた。
*ユーリ*
2-Aとの試合を終え、俺たちは場内から退場し
俺とロミオは次の試合を観戦するべく、観客席へ向かった。
そして観客席へ続く階段の登り口に足をかけたところで、エミリの姿が見え、合流した。
「エミリ、カイは大丈夫か?」
俺は気になっていたことを問いかけた。
「ああ。 試合後すぐに意識も取り戻し、自身の足で救護室へ向かって行った。 あの様子だと、骨も折れていないだろう」
「そうか・・・それはよかった」
俺がそう言うと
「負い目を感じているのか?」
エミリがそう問いかけてきた。
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・」
俺は一呼吸おき口を開く。
「俺たちは試合前、技を出さなければいけない状況をいくつか想定はしていたんだが・・・実際に技を当てるつもりはなかったんだ」
「そう、なのか?」
「ああ。 だが、エミリとカイの猛攻が、俺の想像をはるかに超えていてな・・・あの状況では、攻撃せざるを得なかった」
「そうだったのか・・・」
「それに技を出す直前、エミリにはかわされたしな・・・ああ、いま考えても、ほんと作戦通りいってよかったぜ」
俺はフーと安堵しながらそう言うと
エミリは「フフッ」と笑顔を見せた。
「どうかしたのか?」
俺がそう問いかけると
「いや、ただ単純に嬉しくてな」
と、エミリがそう答えた。
「嬉しい? 何がだ?」
「試合中はわからなかったのだが・・・私が思っていた以上に、私たちはお前を追い詰めることが出来ていたのだな」
エミリは嬉しそうな表情でそう言った。
エミリの奴、一体何を言っているんだ?
そんなの―
「当たり前じゃねえか・・・追いつめていたどころじゃねえよ。 カイの二刀剣術といい、二人の連携技といい・・・こっちはマジでギリギリだったんだぞ」
エミリは「そうかそうか、それはよかった」と笑顔でそう言った。
よくわからないが・・・
エミリはとてもご満悦の様子だった。
と、そうこうしていると
「ユーリ君」
と、観客席から下りてきたアランに声をかけられた。
アランの後ろには、副会長のベルガー、書記のクロの三人の姿があった。
「ユーリ君、先程の試合は見事なものだった。 まさかエミリ君とカイ君二人を同時に相手に、あそこまで戦えるなんてね・・・ほんとに驚いたよ。 次は僕たち生徒会メンバーとだね、どうかよろしく頼むよ」
アランは爽やかな表情でそう言った。
次はって・・・
「お前らは今から三回戦だろ・・・まだ勝ってもいないのに、随分と気が早いな」
アランはフフッと笑い「まあね」と続ける。
「だけど正直は話・・・勝負はもう見えている」
とそう言った。
「なに?」
アランはこちらに真っすぐ視線を合わせ、人差し指を立てた。
「僕たちは次の試合・・・ベルガー君一人の力で勝利すると宣言しよう」
「なに・・・」
副会長のベルガー、たった一人で?
俺はベルガーに視線を移した。
正直、この男の戦い方や、使用する魔法なんかも俺は全くもって知らない。
だが、試合は三回戦・・・
ここまで勝ち残ってきたクラスに、この男一人の力で勝てるというのか?
などと考えていると―
「それとユーリ君。 準決勝で僕たちと戦う君に・・・僕から一つアドバイスをしておこう」
「なに、アドバイスだと? 準決勝で対戦するかもしれない相手に一体どういう―」
俺がそこまで言った瞬間
シュン・・・
と、アランはいつものごとくテレポートを使い
俺の隣に立っていた。
くっ・・・
また、間合いに入られた。
だが何だ・・・
今・・・少しだけ・・・
アランは先程までの爽やかな表情から
今まで見たこともないような真剣な表情をしていた。
そして、俺の肩に手を添え口を開く。
「試合が始まった瞬間から、全力で斬りかかってくることをお勧めするよ。 でないと・・・」
アランは俺の耳元に顔を近づけ―
「勝負にすらならないからね」
そう言った。
「な・・・」
俺がそう声を漏らすと
アランはポンッと俺の肩を叩き歩きだした。
数歩歩くと、アランはこちらに振り返り
「僕たちは全力で勝ちに行く。 君を生徒会に入れる為にね」
と、いつもの爽やかな表情でそう言った。
「・・・」
「さて、僕たちは次の試合に向かわないとね。 それじゃあユーリ君、ロミオ君・・・準決勝で」
そう言ってアランたちは、場内へ向かって歩いて行った。
「アラン会長のあんな表情、初めて見た」
ロミオは驚いた様子でそう口にしていた。
「そうだな。 いつもニコニコしている印象だったが・・・あの様子、奴は本気のようだな」
と、エミリがそう口にした。
「そういえば、さっきアラン会長はユーリになんて・・・ユーリ?」
「ユーリ、どうかしたのか?」
ロミオとエミリは、不思議そうな表情を向けていた。
「試合が始まった瞬間から、全力で斬りかかってこい・・・か」
「・・・ユーリ?」
「おい、ユーリ! どうかしたのか?」
俺は二人の声でハッと我に返る。
「いや、悪い。 何でも・・・」
いや、違う。
何でもないなんて・・・
そんなわけねえ!
「!!!」
バチン!
俺は気合を入れるように、自身の顔を両手で思いっきり叩いた。
「ユ、ユーリ!?」
「やはりお前、どうかしてしまったのだな!?」
ロミオとエミリは俺を心配してか、慌てたように口を開いていた。
「いいや、違うぜ・・・気合を入れなおしたんだ」
「・・・気合だと?」
「ああ」
俺ははじめから
雷轟一閃流を・・・
剣術の技を出す状況になったとしても
アランだろうがエミリだろうが、それを誰にも当てるつもりはなかった。
ロミオとの作戦に繋げるための手段
または牽制になればと
そのように考えていた。
だが、俺の考えは甘かった。
今、本気のアランと向かいあい
理解されられてしまった。
そんな半端な気持ちじゃ
てめえに勝てねえと。
体の奥から沸々とわいてくる熱い気持ちを抑え込むように
俺は両手を強く握りしめた。
「やってやる・・・やってやるぜアラン。 俺の全身全霊をかけて・・・てめえをぶった斬ってやる!!!」
俺は拳を高く掲げそう言った。
「いやユーリ・・・斬るのはダメだよ・・・斬るのは・・・」
隣のロミオは苦笑いをしながらそう口にした。




