8話 俺の家で食べてくか?
※ユーリ※
こんなにも感情を揺さぶられたのは、久しぶりだった。
自分のことを悪く言われるのはどうってことない
好きに言わせておけばいいだけのことだ。
だが、友達を悪く言われ、あまつさえ周囲の目がある中で
見せもののように侮辱され、涙を流すロミオを見て
黙ってられるほど、俺の心は穏やかじゃなかった。
そして気が付けば、体が勝手に動きだしていた。
そして……
俺はいま、教官室にてレイラ教官にお叱りを受けている真っ最中であった。
ちなみに、俺はいま床で正座を組んでいる。
本日2度目の。
「ということがあってですね、自分から手を出したわけでは―」
「まあ、だいたい、事情はわかった。だが貴様……私の言ったことを覚えているよな?」
「え、えっと……問題を起こすなとか」
「そうだ。聞いたところによると、貴様はクラスメイトに向かって、ぶった斬る、とほざいていたようだが……弁解の余地はあるか?」
レイラ教官はポキポキと指の骨を鳴らしながら俺に距離をつめてきた。
あ……これヤバイやつだ……。
「そ、それはですね、言葉の綾というかなんというか―」
「問答無用じゃあ!ゴラアアアアアアアッ!」
「ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
さっそく記録が更新され
俺は人生初の24時間以内に3度目のアイアンクローを食らうこととなった。
―それから数刻後―
午前中の講義が終わり昼になった。
今日の講義は午前のみで、午後からは休みだ。
ちなみに、これまでのことを簡単に説明すると
朝のあの一件の後、レイラ教官が教室へ戻ってきた。
そして、マクルドは救護室に運ばれると同時に、俺は教官室へ連行された。
そしてレイラ教官のお叱りを受け、三途の川を渡りかけたあと
俺はなんとか意識を取り戻し、教室で死んだように午前の講義を受け現在に至るのであった。
はい、説明おわり。
講義が終わり、周りのやつらは次々と帰り支度をしていた。
とある生徒たちは講義終了の挨拶と共に、スタートダッシュを決め、帰宅していったものもいる。
そんなに、早く帰宅したいものなのだろうか。
まあ、予定があるということはいいことなのかもしれない。
そんな俺はというと……
この後はとくに予定はないんだよな……。
「あ、そういえば」
俺はまだ、この広すぎる校内を全然把握できていない。
それに、ギルドも覗いておきたいな。
「うーん」と俺は少し考え、決断した。
せっかく昼で講義も終わったことだし
校内の探索は明日にして、今日はギルドに行ってみるか。
うん、そうしよう。
とギルドへ目的地を定め、ギルドへの行き道などを考えていると
「ユーリ……その、朝は……僕のせいで……ごめんね」
と、隣の席のロミオは少し俯きながら申し訳なさそうにそう口にした。
「何がだ?」
「え?……だって、ユーリはその……僕をかばって……あんなにも……みんなの前で……その……」
なるほど
ロミオは俺に気を遣わせたと思っているのか。
「友達が目の前であんなことをされたら、誰だってそうするだろ? それに、俺があいつらに腹を立てて言ったことだ。ロミオは気にしなくていいんだよ」
俺は思ったことを口にした。
だって、そうだろ。
友達が目の前で侮辱され、そして涙を流した。
そんなもん、黙っていろというのが無理な話しだ。
「ううっ……」
ロミオは顔を赤くし、さらに下を向いてしまった。
そして、少しの間を開け、恥ずかしそうに言葉を出す。
「ユーリ、ありがとう……僕嬉しかった……僕のことをあんなふうに言ってくれて……そ、それに……すごく…………」
ロミオは体をもじもじと動かしている。
「どうかしたか?」
少しの間を開け、俺の顔を見つめ、意を決したように続けた。
「か、かっこよかった!……ううっ」
ロミオはそう言うと、照れたように、顔をそらした。
「お、おう」
……不覚にも少しドキっとしてしまった。
お、落ち着け、ロミオは男だ。
いくら見た目が美少女のそれだからって。
ロミオは男……俺の友達なんだ!
「……」
このなんとも言えない空気をかえるため、俺は話題を変えた。
「え、えっと、その、ロミオはこのあと予定とかあるのか?」
「い、いや、特にないよ、……どうして?」
「これから、ギルドを覗きに行こうと思ってるんだが、ここら辺の土地鑑がなくてな、ギルドの場所も正確に把握していないんだ。ロミオさえよければ、案内してくれないか?」
ロミオは嬉しそうに頷いた。
「うん、いいよ」
「ありがとう! ロミオがいてくれたら心強いぜ! じゃあ今から―」
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるる
……。
「ロ、ロミオ、昼飯はどうするんだ?」
「え、えっと、いつもは売店で買ってるんだけど……今日は全学年が午前で終わりだから、売店やってないかも……どうしよう」
「じゃあ、俺の家で食べてくか?」
「え? ユーリの家……いいの?」
「ああ! ぜひ食べて行ってくれ、ちなみに俺の家はここから徒歩5分くらいだからすぐだ」
「ユーリの……家……」
「どうかしたか?」
「い、いや……なんでもない、なんでも!……ううっ」
ロミオはそういって、両手で顔を隠した。
それから俺たちは、学校を出て、他愛もない話をしながら、俺の家まで歩いて来た。
ここら辺は都市部だけあって、俺の家の周辺は建物や人通りも多く、とても賑わっている。
家の中にいても、荷台を引く馬車の音や、商人、子どもたちのはしゃぐ声など、外から様々な音が聞こえてくる。
だが、意外にもうるさくは感じず、むしろ心地がいいくらいだ。
アキノ村のみんなや、親父、お袋を……そしてリリアを思い出すからか。
あの時は、毎日が賑やかで、楽しくて、笑顔が絶えない幸せな日々だった。
それから―
俺は1人になった。
静かな夜なんかは、ふとしたときに
どうしようもならないくらい寂しくなって胸が締めつけられる。
あの感覚は15になった今でも、克服できそうにはなかった。