20話 好き
俺はパチリと瞬きをして再確認するも・・・
やはりメリーの姿は確認できない。
「一体、どうなってんだ?」
魔法・・・なのか?
俺はキョロキョロと周囲を見渡した。
だがやはり、四方八方、メリーの姿はない。
さっぱりわからない。
だが、これと似たような体験をした覚えがある。
何だったか・・・
と、必死に脳内の記憶を探っていると
ハッ!
と、思いだした。
そうだ!
アランのテレポート!
あの一瞬で目の前から姿を消す
そんな芸当ができるのは
アランのテレポートしか考えられねえ!
メリーは特級魔法師に魔法をみてもらっていると言っていたし
アランと同じ魔法が使えても不思議ではない。
「そうかそうか。 メリーの奴、アランと同じテレポートを使ったのか。 どうりで目の前から消え―」
と、そこまで言ったところで
「ユーリ様、違いますよ」
と、俺の耳元でメリーの声が聞こえる。
とっさの出来事に俺は
「%#$!?」
と、翻訳不可能な言葉を出し、同時に背筋が伸びた。
そして、すぐさま声のするほうへ振り向いた。
だが―
「い、いない・・・」
そして再び、さっきとは反対の耳元で―
「ふふっ、こっちです」
メリーの声が聞こえた瞬間、俺はすぐさま振り返るも
「やはり、いない・・・」
メリーの姿が捉えられない。
・・・だが
かすかに、メリーの気配を肌で感じる。
姿は確認できないが、俺の周囲にいることは間違いなさそうだ。
と、そう考えている束の間
再び反対の耳元でメリー声が聞こえ―
―――
と、それから同じようなことが幾度も行われ
俺は一人、半時計周りにその場をグルグルと回っていた。
そして―
「はあ・・・はあ・・・」
俺は両膝に手をつき、呼吸を荒げていた。
たいして体力を使ったわけではないのだが・・・
精神的に翻弄されたためか、疲労してしまった。
「声が聞こえた瞬間、振り向いているはずなのに・・・メリーの姿が見えねえ・・・」
どうなっているんだ?
わけがわからねえ。
「ユーリ様」
俺の名を呼ぶメリーの声が聞こえると同時
パンッと手を叩く音が聞こえた。
そして―
俺の目の前に、メリーが現れた。
「!!!」
驚愕した俺の表情を見て
「私はずっと、ユーリ様のすぐ近くにいましたよ?」
「な、なんだと・・・」
「私に翻弄されるユーリ様・・・とても可愛かったです」
メリーは両頬に手を当て、顔を赤くしながら
「・・・ちょっとクセになっちゃいそうです・・・」
と、小声で呟く。
後半よく聞こえなかったが
可愛らしいというのは心外だ。
そう考えていると
「メリーナ、もしかしてこれは・・・透過魔法の一種?」
ロミオがメリーに問いかけた。
「さすがロミオさん。 正解です」
と、メリーは笑顔でそう答えた。
「えっと・・・どういうことだ?」
俺がそう問いかけると、ロミオがそれに答えた。
「えっと、メリーナはね。 透過魔法を使って、自身を透明にしていたんだよ。 だから、僕とユーリの目にはメリーナの姿が捉えられなかったんだ」
「と、透明だと? 魔法はそんなこともできるのか?」
「うん。 だけどメリーナのように、完全に姿を消すにはかなりの鍛錬が必要で、誰もが習得しようとして、できるものではないんだけどね」
「そうなのか」
つまり、メリーは魔法で透明になっていたので、その姿を確認できなかったということか。
だが確かにそれなら、周囲にメリーの気配を感じていたのにも納得できる。
メリーはおそらく、俺の周りをグルグルと回っていただけなのだろう。
俺はメリーに視線を移した。
俺の視線に気づいたメリーは
「ふふっ」
と、小悪魔な笑顔を向けた。
ってことはつまり・・・
メリーはこの魔法を使い、
自身を透明にした状態で、俺の机に弁当を入れたと・・・そういうことか。
弁当が机に入っていたあの昼休み・・・
姿は確認できなかったが、廊下から誰かの視線を感じた。
つまり、メリーはあの場にいたということか。
なるほどな。
疑問が解けてスッキリ・・・
「って、いやいや! 入学してもいない部外者が、学校に勝手に上がりこむなんて、普通に不法侵入じゃねえか!」
と、俺がそうつっこむと
メリーは小さく舌を出し「てへっ」と、何ともわざとらしい笑顔を見せた。
「てへっ、じゃねえんだよ!」
メリーに反省している様子はなく、両頬に手を当て
「どうしてもユーリ様に、私が愛情をこめて作ったお弁当を食べてほしくて・・・つい」
と、体を少しもじもじとさせながら、そう口にした。
「つい・・・じゃねえよ! それにお前はこの国の王女じゃねえか! 王女が学校に不法侵入しただなんて、世間に知られれば一大事だぞ!」
俺がそう言うと、メリーはニッコリと笑顔を向けた。
「安心してください。 私、証拠は残さないので」
「か、完全犯罪・・・だと・・・」
メリーは楽しそうに「ふふっ」と笑顔を見せた。
俺はメリーのことが、だんだんわからなくなってきた。
昔の記憶では、メリーはもう少し控えめな性格で、学校に不法侵入するようなそんな大それたことをするような奴ではなかったと思うんだが・・・
時が経つと、人は変わっていくんだな。
などと、考えていると―
「それよりもユーリ様、お昼休みに私が入れておいたお弁当、召し上がっている姿を拝見できなかったのですが・・・美味しく召し上がっていただけましたか?」
メリーがそう問いかけてきた。
俺は正直に、事実をそのまま口にした。
「いや、普通に食べずに捨てたぞ」
俺の放った一言で、可愛らしい笑顔を向けていたメリーの表情が
一瞬で驚愕した表情に変わった。
「そ、そんな! ど、どうしてですか!?」
「いや、どうしてって言われても・・・差出人不明の弁当なんか普通食えねえだろ。 毒とか入ってたら怖えし」
「そ、そんな・・・」
ガサッと、メリーは崩れ落ちた。
「ユー君を想って・・・愛情をこめて作ったのに・・・」
メリーは床に手をつき、まるでこの世の終わりかのような表情でそう呟いた。
「お、大げさな・・・」
「うう・・・」
メリーは今にも泣きだしそうな表情に変わった。
う、うーん。
そんな表情を見せられると、なんだか急に罪悪感が込み上げてきた。
俺が悪いのか?
いや、誰だって俺と同じ状況になれば
みな同じことをするはずだ。
差出人不明の弁当なんて、普通食えねえだろ。
そうだ・・・
俺は間違っていない!
はずなんだが・・・。
うーん。
メリーの悲しげな表情を見るのは
なんとも胸が痛い。
そ、そうだ。
ここは、メリーを元気づける一言を言ってやらねば!
「けど・・・」と俺は続ける。
「クエスト勝負の時のあの弁当は・・・めちゃくちゃ美味かった。 今まで食った中で一番な」
「ユー君・・・」
メリーは顔を上げた。
「ありがとな」
俺はメリーに視線を合わせ、笑顔でそう言った。
嘘じゃない。
本当にあの弁当はめちゃくちゃ美味しかったし、助けられもした。
メリーを元気づけようと口にした言葉であるが
紛れもない俺の本心だった。
本当に心の底から感謝している。
メリーは頬を真っ赤に染めあげ、瞳をうるうるとさせながら
「・・・好き・・・」
そう呟いた。
俺は反射的に「ああ」と返答した。
そして―
「・・・あ?」
す・・・SUKI?
SUKI・・・って何だ?
俺は頭の中で、メリーが口にしたその言葉を反芻し、翻訳する。
SUKI・・・SUKI・・・
スキ・・・スキ・・・
すき・・・すき・・・
・・・好き・・・
その結果―
「%$&!????」
と、俺はパニックに陥り、またもやよくわからない言語を口にしていた。
そして、自身の顔がこれまでにないほど熱くなっているのを自覚した。
す、好き・・・って言ったのか?
お、俺のことを・・・?
って、いやいや、ないだろそれは!
きっと言い間違えただけだ。
いや、だが・・・
あの手作り弁当からも、嫌というほど愛情が伝わってきたし・・・
メリーはほんとに俺のことを・・・
って、ないない、それはない!
いや、でも・・・
と、一人あたふたしていると
メリーはさっと立ち上がり、慌てて口を開いた。
「ち、違うんです! こ、これは言葉の綾といいますか、ついうっかり、間違って本心がだだ漏れてしまったと言いますか、とにかくこれは違うんです!」
若干、早口言葉になりながらメリーはそう言った。
「そ、そうだよな!」
「は、はい! 先程の言葉は間違いなので、記憶から抹消して下さいね!」
「わ、わかった!」
あ、危ねえ。
一瞬、本当にそうなのかと思ってしまったぜ。
危ない、危ない。
俺はメリーに言われた通り、全力をかけて記憶から抹消するよう心掛けた。




