19話 魔法遺伝
「そうなのか?」
驚いた様子のメリーに、俺は問いかけた。
「はい。 そもそもの話、魔法には数々の属性というものがあるのですが・・・その中でも最も基本である、いわゆる元素系の魔法というのは、火、雷、水、風、土と、この5系統しかなく、氷、というのは存在しないのです」
・・・ん?
難しい単語がスラスラ出てきて、理解に追いつけなかった。
属性に・・・元素?
「そもそも氷系統の魔法について、記述されている書物も少ないため、ロミオさんが氷系統の魔法を習得していること自体、不思議なくらいで・・・と、ユーリ様・・・大丈夫ですか?」
「え? ああ・・・」
脳の処理が追いつかず、ポカーンとしていた俺をメリーが気遣ってくれた。
正直、よく理解できなかったが・・・
「と、とりあえず・・・ロミオの魔法が、めちゃくちゃめずらしいってことだけは理解したぜ!」
俺は親指を立てて笑顔でそう言うと、メリーは少し苦笑いを見せた。
「めずらしいどころではないですよ。 おそらく、この国で氷系統の魔法を使用できる者はロミオさんただ一人です。 近しい元素に、水、があるのですが、水系統の魔法を得意としている、水ノ隊―隊長、特級魔法師のマリアさんであっても氷系統の魔法は扱えないと以前ご自身でおっしゃっていました」
「そ、そうなのか・・・」
いまメリーの口から、ごく自然にサラッと、とんでもないことを聞いた気がするんだが?
水ノ隊―隊長の・・・特級魔法師って言ったか?
王国最強と言われているレオと同じ、国王陛下直属部隊のその隊長。
メリーの奴、一体そんな奴とどうやって・・・
と、そう考えたところで
俺はメリーの家柄を思い出した。
「そうか・・・そういえばメリーはバラドールの王女なんだよな。 レオや他の隊の奴らと面識があるのは当然か」
メリーからすれば国王陛下は自分の父親なわけで
その父親の直属部隊である、隊の連中とメリーに面識があるのは当然のことだな。
と、そこまで考えたところで、俺はあることを閃いた。
いや待てよ。
ってことは・・・
俺がメリーに頼みこめば
あのレオと一戦交えるってことも・・・
不可能ではないんじゃないか?
仮にもメリーはこの国の王女。
その王女の頼みとあらば、国王に仕えている隊長たちも
無下には出来ないはず・・・。
これは・・・いけるんじゃないだろうか?
などと淡い期待を抱いていると―
「そういえばって・・・ユーリ様ひどいですよ。 私はこう見えてバラドール王国の第二王女です。 とても大事なことなので忘れないでくださいね」
と、メリーは可愛らしく頬を膨らませ、少し拗ねた様子でそう言った。
「あ、ああ・・・すまない」
俺はすぐさま謝罪する。
「それと、レオさんたち他の隊の方々も城内でお見かけしたことはありますが、みなさんそれぞれ独特の雰囲気をお持ちで・・・私はマリアさん以外の方とはお話したことはありません。 それにみなさんとても多忙で、城内にいる時間もごくわずかですし」
「そ、そうなのか・・・」
スーン・・・
俺はガックシと肩を落とした。
「ユーリ様? いかがなさいましたか?」
メリーがレオと面識がないというのであれば
レオと一戦交えるというのは難しそうだな。
多忙でほとんど城にいないとなればなおさら・・・
「ユーリ様、お体の具合でも悪いのですか?」
メリーは心配そうな表情で、俺の背中に手をそえ、顔を覗き込んできた。
俺はメリーの綺麗な瞳と目があい、はっと我に返った。
「いや、大丈夫だ。 こっちの事情だ。 気にしないでくれ」
「そうですか。 もし何かあれば、お気になさらず何でもおっしゃってくださいね」
とメリーは笑顔でそう言った。
「ああ」
メリーは「フフッ」と笑顔を向けると
話を本筋に戻すように、ロミオに問いかけた。
「それにしてもロミオさん、これほどめずらしい魔法を、一体どこで習得なさったのですか?」
ロミオは「うーん」と、少し困ったような表情を向けた。
「それが僕にもよくわからなくて・・・。 この魔法は、僕が幼い頃から自然と使えたものだから・・・」
「そうなのですか・・・」
メリーは数秒の間を置き、続ける。
「ではもしかしたら、ロミオさんのそれは・・・魔法遺伝・・・かもしれませんね」
と、メリーの口からまたも聞きなれない単語が飛び出してきた。
「やっぱりそうなのかな?」
「信じがたい話ではありますが、幼い頃から自然と魔法が使えたという点からしても、おそらくそうだと思います」
二人の中で話が進んでいく中、俺はその聞きなれない単語について問いかけた。
「すまないが、その、魔法遺伝ってのはなんなんだ? ・・・魔法って遺伝するものなのか?」
「魔法遺伝というのはある種の説なんです。 魔法というのは通常、遺伝なんてするものではないと考えられているのですが、稀に誰から教わったわけでもないのに、幼い頃からまるで息をするかのように、ごく自然に魔法を使うことが出来る人が存在するんです。 これについて古くから魔法研究者の方たちは、先人から次世代へ遺伝情報を伝えていくのと同じように、魔法も先人から次世代へ受け継がれると、強く訴えてきました。 そしてこれを研究者は―魔法遺伝―とそう名づけ、世間へ提唱してきたのですが・・・。 実情魔法が遺伝するというケースはごく少数であり、確かな根拠を証明できないため、現代でもある一説として扱われています。 ですがロミオさんの話を聞き、私も認識を改める必要があると実感しました」
「・・・そうなのか」
魔法遺伝なんて言葉、初めて聞いた。
魔法が遺伝するなんてなんとも不思議だな。
幼い時から自然に魔法が使えるなんて、俺だったら驚愕―
と、考えたその時、あることを思い出した。
そういえば
リリアも幼い頃から自然と魔法が使えた・・・
もしかするとリリアも
ロミオと同じように、魔法遺伝によって魔法が使えたのだろうか?
幼い頃から魔法が使えたリリア・・・
そして同じように魔法が使えたロミオ・・・
俺はロミオに視線を移す。
今までたまたま運がよかっただけで
もしかするとロミオも
魔人の手に・・・
俺は無意識のうちに拳を強く握りしめた。
俺の視線に気づいたロミオが口を開く。
「えっと、ユーリ、どうかしたの?」
俺はロミオの声で我にかえる。
「ああ、いや、なんでもないんだ・・・」
「ほんと? それならいいんだけど」
「ああ」
心配させぬよう、俺は笑顔をつくった。
そういえば、リリアは幼い頃から魔法が使えたが
リリアの親父さんもお袋さんも、魔法なんて使えなかったはずだ。
妹のアリアだって・・・
俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「メリー、俺の知人にロミオと同じように子どもの頃から自然と魔法が使えた奴がいたんだが、その両親や姉妹は、全く魔法が使えなかった・・・その場合も、この魔法遺伝って可能性はあるのか?」
ロミオも続けて口にした。
「そういえば、僕の両親も魔法なんて使えなかったよ。 優秀だったエリオット兄さんも、僕のこの魔法は使えなかったし・・・」
「そうなのか?」
「うん」
ロミオの周りもリリアと同じ状況ということか。
そうこう考えていると、メリーが口を開いた。
「魔法遺伝というのは、必ずしも親から子へと遺伝するとは限りません。 親御さんが魔法が使えなくても、祖父が優秀な魔法師だったと、いうケースもあったらしいので。 なので、ロミオさんや、ユーリ様の知人の方のご両親が魔法を使えなかったというのであれば、おそらくもっと何代も前の先人からその魔法を受け継いだのだと思います。 もしかすると、何年、いや何百年も前の方から、受け継いだものかもしれませんね」
メリーは笑顔でそう言った。
「何百年・・・か・・・」
「想像できないね・・・」
うまく言葉にできないが・・・
「すごいな」
「そうだね」
俺とロミオはどこか遠い景色を見つめてそう言った。
「希少な氷系統の魔法を、これもまた希少な魔法遺伝で習得しているなんて・・・ロミオさんすごいですよ! 現代一強運の持ち主だと思います!」
「そ、そうかな? 魔法遺伝のことを深く考えたことなかったら、あまり実感がわかないんだけど」
そう言いながらも、ロミオは少しはにかんだような表情をしていた。
ロミオ、褒められるのに慣れていないんだろうな。
ロミオが褒められていると、なぜか俺まで嬉しくなってしまう。
と、それにしても
「メリー、今朝学校に入学したばかりなのに、やたら詳しいな」
俺は思ったことをそのまま口にした。
「私、幼い頃から魔法にはとても興味がありまして・・・休日なんかは、お城の書庫にこもって、一日中魔法に関する書物を読み漁っているくらいです。 それもあってか、特級魔法師のマリアさんには良くしてもらっていて、たまに私に魔法を教えてくれたり、私の魔法を見てくれたりするんです。 なので、皆さんには劣るかもしれませんが私、魔法には多少の心得があるんです」
メリーはニッコリと笑顔を向けてそう言った。
いや、特級魔法師直伝なら
下手をすれば、学校一の魔法使いの座も狙えるんじゃないか?
と、そうツッコミを入れようとした直前
俺はあることを思い出した。
そういえばリギルとのクエスト勝負の際、解除魔法を施していたあの弁当の差出人は
メリーだったんだよな。
あの時、あの弁当がなければ、俺は勝負に負けていた。
あの弁当には本当に助けられた。
「メリー、その言いそびれていたんだが。 リギルとのクエスト勝負の時、お前がくれたあの弁当に俺は助けられた。 俺があの勝負に勝てたのはメリーのおかげだ。 本当にありがとな」
俺は素直に感謝の言葉を述べた。
「ユーリ様・・・」
メリーは照れたように顔を赤くした。
俺は続ける。
「その、いくつか教えてほしいんだが・・・一回目の弁当、まだメリーが入学する前だったが、あれはどうやって俺の机に入れたんだ? それにクエスト勝負の時、どうして俺が奴の魔法にかかるってわかっていたんだ?」
昼休みに聞きそびれていた疑問を問いかけた。
するとメリーは「ふふっ」と笑顔を見せ
「それはですね、こうしたんですよ」
そう言ってメリーは、パンッと両手を叩いた。
すると次の瞬間
目の前に立っていたはずのメリーの姿が
「き・・・消えた」




