7話 ユーリの怒り
*ロミオ*
クラスメイトの表情から察するに、ここにいる誰もが、いま目の前で何が起こったのか理解できていない様子だった。
それもそのはず。
一番近くにいた僕でさえ、理解できなかった。
一つだけ確かなのは……
ユーリは僕を助けてくれた。
だから僕は今、ユーリに抱きかかえられていて
マクルド君は目の前で倒れている。
……でも
あの一瞬でどうやって?
ユーリはあの一瞬で魔法の類を使ったのだろうか。
でも、魔法陣を展開する時間なんてなかったし
そもそも魔法陣なんて見えなかった。
それぐらい、一瞬の出来事だった。
しばらくして、沈黙を破るように
クラスメイトが次々に口を開き始めた。
「お、おい、あの平民、いま何を……お前、見たか?」
「い、いや、見るもなにも、何が起こったのか……」
「おい、嘘だろ、マクルドは入学試験をトップで合格した、このクラス、いいや、学年1位の実力者だぞ……」
クラスメイトの半数以上は、無意識のうちか、椅子から立ち上がっていた。
あちこちで言葉が飛び交う中、ユーリが僕に向かって口を開いた。
「ロミオ、怪我はないか?」
ユーリは心配そうな表情で僕を見つめていた。
僕もそれに答える。
「うん、大丈夫だよ……」
「そうか、よかった」
ユーリはそういって優しい笑顔を僕に向けた。
「う……うん」
僕は照れてしまって、俯いてしまった。
そして、ユーリに今起きたことを問いかけた。
「ユーリ……いま何を……」
そういって、僕はユーリの顔を見上げると……
そこには、僕が見たことない
鋭い目つきで怒りを露わにしたユーリの姿があった。
そして、ユーリは腰につけていたロングソードを鞘ごと取り
ダンッ!!!
と床へ打ちつけた。
大きな音が鳴り、あちこちで話していた生徒が一斉に黙り込む。
そして、みんなの視線を集めた、ユーリが口を開いた。
「貴族のことはよくわかった。この短時間だが俺はすでにお前ら貴族が嫌いだ。不貞を働いてできた子だ……穢れた一族だ……そんなもんどうでもいいんだよ!!!」
ユーリはまるで咆哮を轟かすように大声を上げた。
クラスメイトたちは、ユーリに圧倒されて
立ち上がっているものは後ずさり、座っているものも顔は蒼ざめており
恐怖心を隠せずにいる様子だった。
そして、ユーリは続ける。
「ここにいるのは誰だ? 不貞を働いた当主か? 違うだろ! ここにいるのは、ロミオだ! こいつは相手のことを思いやり、自分の本心を隠してでも、相手のため、望んでもいない道を選択してしまう、そんな不器用すぎるくらい優しいやつだ! お前らはそんなロミオのことを一つでも知っているのか? ロミオのことを何も知らないで、家がどうとか、血がどうとか、そんな他人から与えられただけの価値観だけでロミオを判断してんじゃねえ! 俺のことを平民と蔑み、罵倒するのはいい……だが、俺の大切な友を泣かせるやつは、相手が誰であろうと俺がぶった斬ってやる!!!」
クラスメイトたちは、ユーリの覇気に圧倒され
無意識のうち、コクコクと首を縦に振っていた。
……そして、僕は
ユーリの胸の中でまた涙を流してしまっていた。
僕のこと……ラングヴェイ家のことを知っていても
普通に接してくれて
僕にこんな優しい言葉をかけてくれる人は、今まで1人もいなかった。
……こんな人は初めてだ……
それと……この感情も……
僕はこの感情に、名前を付けることなく、そっと胸にしまった。