10話 メリーナ・フォン・バラドール
ガラララ・・・
と、教室のドアが開く。
「おい貴様ら席につけ。 少し早いがHRを始める」
ロミオへの謝罪祭りが開かれている中、レイラ教官の一声で、あたりはみな一斉に静まり、各自席に着いた。
レイラ教官、久々に会ったが相変わらずの威圧感だ。
あれだけ賑やかだったこの教室も、一瞬で静かになった。
さすが元火ノ隊、副隊長様だな。
などと考えていると
なぜかレイラ教官は俺に視線を移し―
「ハァ~」
っと、大きなため息をついた。
なぜため息?
俺・・・何かしただろうか?
わ、わからねえ。
俺は冷や汗をかきながら、レイラ教官の次の言葉を待つ。
そして―
「今日からこのクラスに新入生が入る。 みなも知っているとは思うが、くれぐれも、失礼のないようにしろ」
レイラ教官がそう言うと
「この時期にまた・・・新入生?」
「失礼のないようにって・・・一体どういうことかしら」
などと周りの連中は各々そんな言葉を発していた。
レイラ教官の「それじゃあ入れ」という一言で
教室の扉から、ある一人の人物が教室内へ足を踏み入れた。
すると、その生徒を見た周りの連中が一斉に騒ぎ始めた。
「え・・・」
「お、おい、嘘だろ・・・」
「あ、あのお方は!」
そして生徒は教壇まで歩き、くるりと俺たちに体を向け、口を開いた。
「みな様初めまして。 今日からこの学校で一緒に学ばせていただく メリーナ・フォン・バラドールでございます。 恥ずかしながら、学校というのは初めてで、至らない点も多くあると思いますが、少しずつ学習し、身につけていきたいと思っております。 どうかよろしくお願いいたします」
そう言って、その生徒は深々と頭を下げた。
メリーナ・フォン・・・バラドール?
不思議なことに、その生徒の名前には、この国と同じ名前が入っている。
・・・どうしてだ?
などと考えながらその生徒を見ていると
その生徒は顔を上げ、俺に視線を合わせた。
そして小さな声で―
「ユーリ様・・・」
そう、言葉を漏らした。
いま、俺の名を呼んだか?
いや、そもそもどうして俺の名を知っているんだ?
どこかで会ったことでもあるのか?
俺はよく目を凝らし、その女子生徒を見つめた。
その生徒は160cmに満たないほどの背丈で、スタイルもよい。
そしてスタイルだけでなく、歩き方やお辞儀、言葉使いもとても丁寧で
貴族と縁がない俺であっても、きっと上流階級の貴族なのだと予想が出来る。
そして少し幼さを残したような顔立ちだが、とても綺麗で、肌は白く透き通っている。
髪は煌びやかな金色で、背中の辺りまで伸びており
とくに特徴的なのは、大きな花柄の髪留めをつけているところだ。
あの花柄の髪留め・・・
どこか見覚えがあるような・・・
「貴様らも知っているとは思うが、この方はこの国の第二王女・・・メリーナ様だ。 本来なら王族の者が、この学校に通う必要などありはしないのだが・・・まあ本人の強い希望の上、今日から貴様らと机を並べ、共に学ばれることとなった。 くれずれも失礼のないように」
「「はい」」
な、なるほど。
この国の王女・・・
だから名前にバラドールと入っていたのか・・・
だが王女ともあろう方が、通わなくてもよい学校にわざわざ通うとは・・・
王女様はよほど、騎士と魔法について関心があるんだな。
「よし。 それではメリーナ、席は後ろの―」
「レイラ教官」
メリーナはレイラ教官の言葉を切り、口を挟む。
「どうかしたか?」
「もし、よろしければ、自身で席を選んではいけませんか?」
「席はどこでもいいと思うが・・・どこか希望がおありで?」
「はい・・・」
メリーナは少し顔を赤らめそう答えた。
レイラ教官は数秒黙り口を開いた。
「まあいいか。 それでは希望の席に」
「感謝いたします」
メリーナは笑みを浮かべ、お礼の言葉を口にした。
それと同時に教室から―
「ど、どど、どうするよ。 俺の隣に王女様が・・・」
「バカ言え、俺の隣だ!」
「お美しい」
などど、聞こえてきた。
そしてメリーナは教壇からおり、トントンと歩きだす。
そしてなぜか、メリーナはこちらに向かって歩み寄り、俺の前で足を止めた。
俺はメリーナに視線を向けると、メリーナのその綺麗な瞳と視線があった。
なぜかメリーナは顔を赤くしながら、俺に何か言いたそうに、口元を動かしていた。
あ、ああ・・・そういうことか。
まあ王女様の頼みなら仕方ねえ。
レイラ教官に叱られるのも嫌だしな。
俺は席を立ち、口を開いた。
「すまねえ、すぐに気づかなかった。 俺は後ろに行くからここは使―」
「ち、違います!」
メリーナは俺の言葉を切り、強くそう言った。
・・・え?
じゃあ俺に何の用があるんだよ・・・
そんなことを考えていると―
「私を・・・覚えては・・・いませんか? ユー君・・・」
メリーナは花柄の髪留めに触れながら、そう言った。
ユー君・・・
その呼び方に・・・確かに覚えがあった。
だが―
「すまないが、誰かと勘違いしているんじゃないか? 俺はお前と会ったことは―」
「こ、この髪飾りにも! 見覚え・・・ありませんか?」
そう言って、メリーナは髪にとめていた花柄の髪飾りを外し、俺に渡した。
「この髪飾り・・・」
俺はその髪飾りを見つめていると
まるでビリリと電流が流れたかのように、数年前のある記憶を思い出した。
俺は慌てて口を開く。
「お、お前まさか・・・あの・・・メリーなのか?」
そう言うと、メリーナの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
そして―
「はい。 あなたに救ってもらった・・・メリーです」
メリーナは満面の笑みを浮かべそう言った。




