8話 仲間
AM―6:30
エミリとのゴタゴタがあった後、俺は洗面所で顔を洗い、朝飯の準備にとりかかった。
「今日の朝飯は何にするかな・・・昨日の朝食はパンだったから・・・今日は飯でも握るか」
朝飯の献立を決め、米を握っていると―
「ユーリ・・・私にも朝食作りを手伝わせてはくれないだろうか?」
階段から降りてきたエミリが、俺にそう言った。
エミリはもうすでに学校の制服を着ており、いつものように髪を後ろで一つにとめている。
先ほどの崩した格好とは違い、こちらはいつもの凛々しく勇ましいエミリの姿だ。
やはり俺は、こちらの方がエミリには似合っていると思う。
って、それよりも・・・
エミリが料理・・・だと?
聞き間違いではないよな?
俺は、エミリが初めてこの家に来た時を思い出し
思わず背筋が凍った。
俺は動揺を悟られないように平静を装い、口を開く。
「き、気持ちはありがたいんだが、今日は時間もないしまた今度に―」
「私じゃ・・・やはり駄目か・・・?」
いつもは凛々しく勇ましいエミリが、どこか儚げな
そして寂しそうな表情でそう言った。
・・・。
俺は数秒考え、口を開く。
「それじゃあ・・・米でも握ってくれるか?」
俺がそう言うと、エミリの表情はパーッと明るくなり―
「ああ! 任せろ!」
エミリはそう言って、制服のポケットから白色のエプロンを取り出し身につけた。
そのエプロンはごくシンプルなデザインだが、胸と腰ポケットのところには、可愛らしいネコとウサギのような刺繍が施されていた。
俺はエミリの意外な一面を発見し少し驚いた。
エミリもやっぱり・・・
すると―
「そ、そんなに見つめて・・・どうかしたか? ・・・やはりこの姿は・・・私には似合っていないだろうか・・・」
エミリは自身なさげにそう言った。
俺は反射的に言葉を返す。
「いや、そうじゃない。 エプロンはとても似合ってる・・・だが・・・」
「だ・・・だが?」
俺は思ったことをそのまま口にした。
「エミリも・・・女の子なんだなと・・・そう思っただけだ」
エミリは「な・・・」と声を漏らし、顔を赤くしていた。
「あ、当たり前だろ! き、貴様は私のことを何だと思っているのだ! ま、まさか野生のゴリラとでも―」
「悪い悪い、そんな風には思ってねえよ。 さあ、さっさと取り掛かろうぜ」
俺がそう言うと、エミリはプンプン怒りながら、俺の隣に立ち、握り飯を作り始めた。
エミリが料理が苦手なのは、きっと今まで料理を作ったことがないのだろう。
みな誰しも、初めは料理なんて上手くできないものだ。
俺が目を離さず、隣で教えれば、エミリも握り飯くらいは作れるはずだ。
・・・と、思っていたのだが・・・
俺の安易な考えは、わずか二分で消え去った。
「ど、どうして・・・ただ米を握っているだけなのに・・・こんなゴテゴテの岩みたいになるんだよ!」
「握り飯・・・なんと奥深く手強い・・・だがまだ初手! 今ので感覚は掴んだ・・・次は必ず!」
二分後―
「おいエミリ・・・具(梅)が外の米まで、まるで殺人現場の惨状かのように飛びだしてんぞ!」
「だ、大丈夫だ・・・こ、ここから巻き返す。 私の本気を受けてみろ!」
握り飯って・・・本気を出さないといけないようなもんだっけ?
二分後―
「おいおいおい! 海苔はそんなに巻かなくていい、海苔の層が何層にも膨れ上がってるじゃねえか」
「あわわわわわわわ、こんなはずでは・・・」
なぜだ・・・
俺は片時も目を離さずに、エミリの手先を注視していたはずなのに
不思議な力で、料理が魔改造されてしまう。
どうなっているんだ・・・
俺は不思議でたまらない。
などど考えていると、エミリが口を開いた。
「ユーリ・・・」
エミリは真剣な声色でそう言った。
「どうかしたか?」
「話があるのだ・・・」
「改まってどうしたんだ? エミリらしくないぞ」
俺がそう言うと、エミリは手を止め、こちらに振り向いた。
「ユーリ・・・私はお前に、ちゃんとお礼を言えていなかった。 だから、私の家族、そしてアイラとルミナに代わって・・・私からちゃんとお礼を言いたい」
エミリはエプロンを外し、一呼吸おいて続ける。
「私たち家族・・・レンガーデン家を救ってくれて・・・本当にありがとう」
そう言って、エミリは深々と頭を下げた。
・・・数秒たっても、エミリは頭を下げたままで
俺は耐えきれず、口を開いた。
「顔を上げてくれ。 そんなお礼を言われるようなことはしてねえよ」
するとエミリは顔を上げ、声を上げた。
「そんなことはない! お前がいなければ・・・私たちレンガーデン家の未来は・・・きっとなかった。 私一人の力では、魔人の足元にも及ばなかった。 誰も守ることが・・・出来なかった。 だから本当に・・・私は心からお前に感謝している。 お礼をしてもしたりない。 お前が望むことであれば・・・私は何だってする。 少しでもお前の役に立てるなら何だって・・・だから―」
俺はエミリの言葉を切り、口を開く。
「仲間を助けたい・・・仲間が悲しんでいる姿を見たくないっていうのは、普通のことだろ?」
「だがお前は・・・会って間もない私の為に・・・どうしてそこまで・・・」
会って間もない・・・
たしかに、エミリと会ってまだ数日しか経っていない。
エミリからすれば、会って間もない人が、なぜ自分の為に命を張れるのか
そう言ったところが疑問なのかもしれないな。
俺は一呼吸おき、口を開く。
「俺は、エミリが思っているほどたいした人間じゃない。 そもそも俺がエミリをパーティーに誘ったのだって、俺が特級試験を受ける為だったからな。 つまり自身の目的の為・・・エミリ風に言えば、我欲に満ちた下衆野郎ってところだな」
俺が笑ってそう言うと、エミリは慌てて口を開いた。
「あ、あの時のことをここで出すのは卑怯だぞ! あの時は、よくも知らないお前に対して、私が先走ってあのようなことを言ってしまった・・・すまなかったと反省している」
「別に謝らなくてもいいんだが・・・事実だったしな。 はじめはA級クエストに行ける奴なら誰でもよかった。 カイだろうが、アランだろうが誰でもな。 だけど、訓練所でエミリが他の生徒5人を相手をしている姿・・・エミリの剣術を見て、俺は衝撃を受けた。 エミリの剣術は、俺が今まで見てきたどんな剣術よりも美しかった。 そして、エミリと剣を交え、エミリの誠実で真っすぐな人柄に触れ、俺は他の誰でもない・・・エミリとパーティーを組みたいと思った。 仲間になりたいと思った。 まあ、結果的に俺が勝負に勝ったので、エミリは俺のパーティーに有無を言わさず入らなければいけないわけだがな」
俺はニシシと笑顔でそう言った。
「ユーリ・・・」
「まあ、冗談は置いておいて。 エミリにとっては納得のいく説明ではないかもしれない。 だが俺にとっては、お前と仲間になりたいと思うには十分すぎるほどの理由だった。 だからエミリは、最初に会った時から、もうとっくに俺の大切な仲間なんだよ。 仲間ってのは対等なもんだろ? エミリが俺の為に、何かしてあげたいとか、役に立ちたいとか・・・そう思ってくれるのはありがたいが、俺はそうやって言ってくれるよりは―」
俺はぐっと握り拳をつくって続ける。
「困ったときは私が力を貸してやる! そう言ってくれる方が俺は何倍も嬉しいよ」
そう言って俺は笑顔を向けた。
「ユ・・・ユーリ・・・」
エミリは静かに涙を流していた。
「ああ・・・そうだな。 訂正させてくれ」
エミリは涙を拭き、同じように握り拳を作った。
「お前に助けが必要な時は、私が全力で力を貸す! だからいつでも頼ってくれ。 大切な・・・仲間だからな」
「ああ! 頼りにしてるぜ!」
そう言って俺たちは拳を合わせ、笑いあった。




