6話 新たな同居人
「兄さんが家を出てから、あの部屋でただ一人・・・兄さんが言ってくれた言葉を心にとめ、日々を過ごした。 だけど・・・兄さんが家を出て9か月がたったある日・・・屋敷に・・・兄さんの訃報が届いた」
ロミオは一呼吸おき続ける。
「僕は驚きを通り過ぎて・・・信じられなかった。 あんなにも強く、勇ましい兄さんが・・・命を落とすはずがない・・・きっと何かの間違いだ・・・僕はあの部屋で・・・溢れんばかりの涙を流しながら・・・そう思っていた。 そう思うことでしか・・・正気を保つすべがなかった」
ロミオはそう言って俯いた。
相当・・・つらかっただろうな・・・
話を聞いている限り、ロミオの味方でいてくれたのは兄だけだ。
最愛の母を亡くしただけでなく、味方であり信頼を寄せていた兄にまで・・・先立たれてしまうなんて・・・
ロミオは続ける。
「兄さんの訃報が届いて一か月がたったある日・・・僕は突然部屋から連れ出された。 そして、お父さんから・・・ある話をされた」
「ある話?」
「うん。 それは、僕が正式にラングヴェイ家の後継ぎになること・・・そういう話だった」
「何だと? ・・・だが貴族の家を継ぐには、男でなくては―」
そこまで言ったところで、エミリはハッとした表情を見せた。
「ま、まさか・・・それで・・・」
「・・・うん。 もちろん後継ぎは男でなくてはいけない。 だけど僕は、世間的に言えば、お父さんの隠し子なわけで、僕の存在は他の貴族には知れ渡っていなかった。 ・・・だから、苦肉の策だったんだろうけど・・・隠し子の僕を・・・男として装い、ラングヴェイ家の正式な後継ぎにする・・・そういった決断にいたった。 本当に・・・勝手だよね。 僕を今まで化け物と呼び、恐れ、あの部屋に閉じ込めておいたくせに。 本当に都合のいい話だと思った」
「ロミオ・・・」
「・・・だけどそれと同時に、僕は兄さんのことが頭に浮かんだ。 兄さんが果たせなかった・・・このラングヴェイ家を継ぐという使命。 もちろん優しい兄さんは、僕をここから出してあげたいという考えもあったんだけど。 兄さんは僕だけでなく、家族を心から想っていた。 兄さんはきっと、そんな家族の為、この家を・・・ラングヴェイ家を自ら継ぎ、守っていきたいと考えていたと思う。 だから僕は、兄さんが果たせなかった使命を・・・想いを・・・僕が変わって引き継ぎたい。 そう思ったんだ。 だから僕は、今まで男として振る舞い、今日まで生活してきた」
「そういうことだったのか」
俺とエミリはロミオの過去・・・性別を偽っていた理由を知った。
「話を聞いてくれてありがとう。 それと・・・今まで女だって・・・隠しててごめんなさい」
ロミオはそう言って深々と頭を下げた。
何を言ってるんだ・・・
ロミオが謝ることじゃねえ。
ロミオは今まで、誰にも話せず、ずっと一人で抱えてきたんだ。
今まで・・・ずっと・・・
「ロミオ、顔を上げてくれ」
俺の声でロミオはゆっくりと顔を上げる。
「ロミオが謝ることは一つもねえ、むしろ逆だ」
「・・・え?」
ロミオはこちらに向き、そのキレイな碧眼と視線を合わせる。
「俺たちを信じて・・・話してくれてありがとな」
俺は笑顔でそう言った。
俺は本心を伝えた。
ロミオのつらく悲しい過去・・・
性別を偽らなければならなかった理由・・・
もとをたどれば俺に性別がバレてしまったことが原因ではあるが。
本来性別に関して、特に家の事情など、誰にも知られてはいけないことだ。
だがロミオは俺たちを信じ・・・涙を流しながらも話してくれた。
そんなロミオの気持ちが・・・とても嬉しかった。
「・・・ユーリ・・・」
「そうだロミオ。 今まで誰にも話せず、どれほどつらかったか。 ・・・私にお前の気持ちがわかるなどと、そんないい加減なことは言えない。 だがこれからは、お前の痛みを知っている、私たち仲間がついている。 だから・・・一人で抱え込むことはない」
エミリも優しい表情でそう言った。
「・・・エミリさん・・・」
ロミオは再び俯いた。
そして数秒後、ロミオは涙を流しながら顔を上げ
「・・・ありがとう・・・」
そう言った。
―数分後―
「そういえばエミリ、女子寮は大丈夫なのか? 確か門限があるって」
俺がそう言って時計に目を向けると、時計の針は21:30をさしていた。
「もうこんな時間か。 てか門限すぎてるじゃねえか、エミリはやく帰らねえと―」
「何も問題ない、大丈夫だ」
エミリはどっしりと構えた様子でそう言った。
「問題ないって・・・確か門限は21時って―」
「安心しろ。 何も問題ない・・・私はもう・・・決めたからな」
「決めたって何を?」
俺がそう言うと、エミリはダダッと椅子から立ち上がり
俺に指を指して声を上げた。
「私もここに・・・住むからだ!!!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・は?
「これからお世話になる! ふつつかものだがよろしく頼む」
エミリは少し顔を赤くしながらそう言った。
「って何でだよ!!! 何がどうなってそうなったんだよ!!!」
何を言ってるんだこいつは?
驚きすぎて数秒思考が停止したぞ。
「本来はこの話をしにお前の家に来たのだ。 正確には、まだ決めていなかったのだが・・・今決めた。 今日からお世話になるぞ!」
「だ、駄目に決まってるだろ! ここは俺の家だ、男の家だ! それにエミリの親父さんが知ったらどんなに悲しい思いをするか」
「何も問題ない、許可なら得ている」
「・・・え? いま何と」
「ここに来る前、お父様が診療所で目覚めたときに、今までのこと・・・そして、ユーリのことを全て話したのだ。 そして・・・正式に許可をもらった」
エミリは少し恥じらいながら両手の指をツンツンと合わせながら続ける。
「・・・親・・・公認ということだ・・・」
・・・何か違う意味に聞こえてくるんだが。
「い、いやでも・・・親の許可があろうと、駄目なもんは駄目だ! 俺たちは学生だ。 男女が同じ家に住むなんて、そんなことは―」
ハッ!
そういえば・・・
ロミオも・・・
「そうだよね・・・」
ロミオに視線を向けると、悲しそうな表情で続けた。
「学生の身で・・・男女が同じ家に住むなんて・・・駄目だよね。 ごめんねユーリ・・・僕も男子寮に―」
「ち、違うんだロミオ! そうじゃねえ!」
ロミオは男として学校に通っている。
だから当たり前だが、女子であっても、女子寮に住むことはできない。
それに、ロミオは学校で、かなりひどい扱いを受けていた。
そんなロミオを今更、男子寮に戻すことなんて
俺には出来ない。
「ロミオ、お前はここにいていいんだよ。 いや友達として、ここに居てくれ」
「ユーリ・・・」
俺はロミオを笑顔を向けると―
「何だと貴様! ロミオはよくて、私は駄目だとでもいうのか!」
エミリが割って入ってきた。
「いやそうわけじゃないんだが」
「もちろん家賃は払う! 家事だってするぞ! 料理はまだ・・・アレだが・・・。 料理以外なら私も役に立てる。 私はこう見えて・・・できる女なのだ!」
エミリは胸を張ってそう言った。
ダメだ・・・
こいつ・・・
全く引く気がねえ。
だが確かに・・・
ロミオはよくて、エミリは駄目なんて、
それもおかしな話だ・・・
うーん。
俺は頭を抱え、数分考えこむ。
そして―
結果・・・新たな同居人が増えた。




