4話 エリオット・ラングヴェイ
「お母さんが亡くなる数日前・・・僕は会ったことのないお父さんのこと・・・ラングヴェイ家の話をお母さんから聞かされた。 なので、義理の兄さんがいるということは知っていたけれど・・・顔も知らない・・・今日初めて会った男の子に、いきなり・・・僕は君の兄だ! と言われても、正直不安と恐怖でしかなかった。 だけど、その男の子の・・・僕に向けた真っすぐな瞳・・・そして本当の家族を見るような・・・そんな優しい表情を見ると・・・不思議と恐怖心は消えた」
ロミオは一呼吸おいて続ける。
「兄さんの話によると、お母さんが屋敷を追い出され、数年が経過した頃には、お父さんや兄さん、そしてラングヴェイ家の者に・・・僕の存在は知れ渡っていたらしい。 だけど、もちろん・・・妻は僕のことを好ましく思ってなくて。 お父さんと兄さんは今まで何度か、僕に接触しようとしてくれていたみたいだけど・・・妻、そして両家の圧力もあり、今まで会うことが出来なかったらしい。 だけどそんな妻も・・・実の息子である、エリオット兄さんにだけはあまくてね。 ラングヴェイ家の中で、妻と対等に話が出来るのは、エリオット兄さんただ一人だった。 そして三日前・・・僕のお母さんの訃報は、ラングヴェイ家の者に伝わり・・・それを機にエリオット兄さんは、妻、そして両家に強く訴えかけ・・・僕を屋敷に住まわせるように説得した。 そして今日・・・兄さんが僕を迎えに来てくれた・・・そういう流れだった」
その兄貴の強い説得がなければ
ロミオはラングヴェイ家に住まうことが出来なかったということか。
それどころか、母親を失い一人になった、幼いロミオは
もしかすると、路頭に迷い・・・命を落としていたかもしれない。
なるほど。
その兄貴は、ロミオにとって命の恩人ということか。
ロミオは、少し俯いて続ける。
「だけど・・・兄さんが妻と両家を説得した際・・・ある条件を出されたんだ」
「ある条件?」
エミリがロミオにそう問いかける。
「うん・・・。 それは・・・僕をラングヴェイ家の、正式な家族として屋敷に住まわせるのではなく・・・屋敷の使用人として昼夜働くのであれば・・・屋敷に住まわせてもいいという・・・そういったものだった」
「何だと・・・」
俺は思わず声を漏らした。
たとえ、母親が違ったとしても、ロミオには父親の血・・・ラングヴェイ家の血が流れているはずだ。
それなのに、ロミオはラングヴェイ家の家族として、迎えいれてもらえないのか?
ふざけやがって・・・
俺はこみ上げてくる激しい憤りを抑え、ロミオの話を聞いた。
「だから兄さんは・・・僕に無理強いすることなくこう言ってくれた」
***
「たとえ母親が違っても、君は僕の妹であり家族であることに変わりはない。 僕は君と一緒にいたいと思っているし、家族は一緒にいるべきだと思う。 だが無理強いはしない。 僕は君の意向を優先する。 君が屋敷で使用人として働いてもかまわないと・・・そう思ってくれるのなら、僕の手を取ってくれ」
「エリオット兄さんはそう言って、僕に手を伸ばした。 だけどその時の僕は、どう返事を返せばいいのか分からなかった。 何が正解で、何が間違いなのか・・・僕はどうしたらいいのか、どうするべきなのか・・・。 お母さんが亡くなり・・・会ったこともない兄さんが急に現れて・・・頭の中と・・・僕の心はぐちゃぐちゃだった。 そして、下を向き俯いている僕の姿を見て、エリオット兄さんは優しい口調でこう言った」
「君はどうしたいんだ?」
「・・・え? ・・・僕は・・・」
「君が心で感じ、思った通りにすればいい。 その決断に間違いなど決してない。 僕が保証する」
「・・・でも・・・、と、僕が俯いていると」
「そうだな。 もしかすると、自らが希望を抱いて選択し、進んでみた道が、いざ足を踏み入れてみると、苦難だらけの茨の道ということもあるかもしれない。 だがそれは決して、誤った選択でも間違った道でもない。 どんなに苦しく険しい道だろうと、自らの足で踏みだし、進み続けたその先には、必ず光があり、希望がある。 僕はそう信じている。 だから大丈夫。 君も自分を信じて進んでみないか?」
「・・・そう、エリオット兄さんは僕に言った。 兄さんの純粋なその瞳と、真剣な表情から・・・この人は嘘偽りなく、本心でそう言っているのだと伝わった。 そして僕は、そんな兄さんの真っすぐな言葉に勇気をもらった。 お母さんが亡くなって、目の前が真っ暗になって、明日のことさえ考えられなかった僕に・・・立ち上がり・・・歩き出す力をくれた。 そして僕は、エリオット兄さんの手を取り、ラングヴェイ家の屋敷で使用人として働くことを決めた」
***
「そして僕は屋敷で初めて、お父さんに会った。 お父さんは、初めて会ったときから僕に優しく接してくれた。 だけど僕は・・・やっぱりどうしてもこの人が自分のお父さんなんだと・・・そう思うことが出来なくて、お父さんからは距離をとって接していた。 それと、屋敷に来た時から覚悟はしていたけれど・・・やっぱり妻には、僕が目障りなようで・・・僕のことを一人の人間として扱ってはくれなかった。 妻は僕に、様々な嫌がらせを行った。 僕の目の前で、わざと皿を床に落として割ったり・・・それを片づけさせたり・・・僕が運んできた食事をフォークもつけず、ゴミの臭いがすると言って他の使用人に下げさせたり・・・そんな執拗な嫌がらせを受けた」
「だけどある時、そんな妻の嫌がらせをエリオット兄さんが目の当たりにした。 そしてエリオット兄さんは、自身にとっては実の母である妻に、僕の為に本気で怒ってくれた。 ・・・僕を守ってくれた。 そして妻は、エリオット兄さんにそう言われると、それ以上嫌がらせを行ってくることはなかった。 僕は嬉しかった・・・屋敷での生活は、つらいことの方が多かったけれど・・・ここには、僕のことを本当の家族として接し、僕の味方でいてくれるエリオット兄さんがいる。 そう思うと、たとえつらくても頑張ることが出来た。 だから僕は、そんな兄さんに恥じぬよう、使用人として精一杯働いた。 ・・・だけど、それから四年が経過し、僕が11になった頃・・・僕は、あるとんでもないことをしてしまった」
そう言って、ロミオは再び俯いた。
・・・とんでもないこと?
一体、何だというんだ。
ロミオは数秒の間を置いて、顔を上げた。
そして、俺を真っすぐと見つめ・・・
覚悟を決めたように、口を開いた。
「僕は・・・人を殺しかけた・・・化け物なんだ」
ロミオは無理に作ったような笑顔を向けそう言った。




