3話 ロミオの過去
俺とエミリは脱衣所を出て、リビングの椅子に座りロミオを待った。
そして数分後―
「お待たせ・・・」
身なりを整えたロミオがリビングにやってきた。
「おう・・・?」
あ、あれ?
その服・・・
ロミオなぜか、寝間着ではなく学校の制服を着て、俺たちの前に現れた。
「ロミオ、学校の制服なんて着て、一体どうしたんだ?」
俺は疑問をそのままロミオに投げかけた。
ロミオは胸に手を置き、口を開く。
「うん・・・ちゃんとした格好で、二人と話をしたかったから・・・」
なるほど。
「そうか」
ロミオは「うん」と頷き、椅子に座る。
「えっとね・・・僕の話・・・ラングヴェイ家の話を聞いてほしいんだ・・・その・・・少し長くなるかもだけど」
ロミオは少し俯きながらそう言った。
「長くなってもいいよ。 ロミオのペースで話してくれ。 俺たちはちゃんと、ロミオの話を聞いてるから」
「そうだ、私たちは同じパーティーメンバーの仲間だ。 安心して、ゆっくりと話してくれ」
俺とエミリがそう言うと、ロミオは顔を上げ
「ありがとう」
と、少し笑顔を見せてそう言った。
そして、数秒の間を置き
ロミオは話始めた。
「ユーリもエミリさんも・・・僕が正式なラングヴェイ家の後継ぎじゃないことは・・・知っているよね? ラングヴェイ家が穢れた一族だって言われている理由も・・・」
マクルドが言っていた話か。
ラングヴェイ家の当主であるロミオの親父さんが、使用人と不貞を働き
そして生まれたのが・・・ロミオだっていう、あの話。
そして続けて、ロミオをラングヴェイ家の後継ぎにしたことで
他の貴族から、ラングヴェイ家は穢れた一族と言われるようになったと
確かそういった話だった。
「亡くなったお母さんから聞いた話なんだけど。 もともと、お父さんと、使用人だった僕のお母さんは・・・お父さんが結婚する前から、既にお互いを想いあっている・・・いわゆる恋仲だったんだ。 だけど・・・貴族の中ではいろいろとあって・・・結婚相手を自分で選ぶことが許されなかった。 そして、お父さんとお母さんはお互いを想いあっているにも関わらず・・・お父さんは名家の貴族の人と結婚させられ、後継ぎをのこした。 そうして生まれたのが僕の義理の兄・・・エリオット・ラングヴェイ。 僕の大切な・・・たった一人の兄さん」
・・・兄?
そういえば、マクルドが挑発するように何か言っていたな。
もう亡くなってしまっているということだったが。
ロミオは続ける。
「それでも僕のお母さんは・・・お父さんの傍にいることを選んだ。 お母さんは、お父さんが別の人と結婚してしまっても、今までと変わらず、お父さんの屋敷で使用人として働いた。 だけど・・・ラングヴェイ家に嫁いできた名家の貴族・・・その妻はかなり性格のきつく横暴な人柄で・・・使用人に対し、まるで道具扱いするような人だった。 そして、お父さんに対してもその態度は使用人とそう大差がなく、性格の優しいお父さんは・・・そんな妻の対応に、どんどん疲弊していった。 だけど、そんな疲れきったお父さんを、陰ながら支えていたのが・・・使用人である僕のお母さんだった。 そして、お父さんは、そんな献身的なお母さんに、再び想いを募らせ・・・二人は一線を超えてしまった」
ロミオは一呼吸おいて続ける。
「妻にお父さんとお母さんの関係を知られるのに、そう時間はかからなかった。 そして数日後に、お母さんは屋敷を追い出された。 そして、お父さんの不貞は瞬く間に両家に伝わり、お父さんは事実上、ラングヴェイ家での力を失った。 そのこともあり、お父さんは、お母さんを屋敷から追い出すことを取りやめられなかった。 そしてこの時、既にお母さんのお腹の中に・・・僕がいるということは、お父さんもお母さんも知らなかった」
「そして数年の月日が流れ・・・僕の記憶にあるころには、僕はお母さんと二人で小さな家で暮らしていた。 僕は、誰かから教わったわけではないんだけど、なぜか不思議と、この ―氷結魔法― を幼い頃から使うことが出来た。 そして幼かった僕は、この魔法を使って、バラの花やヒマワリなど、お母さんが大好きだった花を作って、それをお母さんに見せることが何よりの楽しみだった。 僕が魔法を使っている姿を見て、お母さんは笑顔で、いつも僕を褒めてくれた。 お母さんはおおらかで・・・あったかくて・・・どんな時でも僕の話を聞いてくれる・・・そんな優しいお母さんだった」
ロミオは少し笑顔を見せ、幸せそうに母親の話をしていた。
「とてもいい母さんだったんだな」
俺がそう言うと
「うん」
と、ロミオも笑顔でそう言った。
・・・だが再び、ロミオの表情が暗く落ちた。
「お母さんは、僕を食わすために、休む間もなく働いていた。 ・・・そして、急にあるとき・・・お母さんは倒れた。 ・・・きっと、休む間もなく働いていたせいで、体に無理がたたったんだろう・・・その時の僕はそう思っていた。 そして僕は、お母さんが倒れたその日から、家事や料理、裁縫を覚えた。 お母さんの負担を少しでも減らして、わずかでもお母さんが休まる時間を作ってあげたかった。 その為なら、僕は何だって覚えることができたし、苦にも感じなかった。 だけど・・・お母さんが倒れたその日・・・医者から、お母さんだけに、ある申告をしていた」
「ある・・・申告?」
「うん・・・それは、お母さんは、治療困難な重い病気を患っていて、余命もあとわずかだということ。 ・・・だけどお母さんは、もちろん僕にそんな話を聞かすわけもなく・・・結局僕は、お母さんが亡くなる数日前まで・・・その事実を知らなかった。 そしてお母さんは、僕が7つの時・・・この世を去った」
そう言うと、ロミオの瞳から一筋の涙がこぼれた。
「ロミオ・・・」
ロミオの気持ちを考えると、胸が痛い。
俺も家族を失っている。
家族を失ったとき、俺は己の無力さに打ちひしがれると同時に
深い悲しみに陥った。
絶望した。
シルバーがいなければ、俺は自ら命を絶っていたかもしれない。
それくらい、その時の俺は、悲しみに暮れ、この世界に絶望していた。
家族を失う心の痛みというのは・・・
剣で胸を貫かれるよりも
何倍も何十倍も
つらく、苦しいものだ。
ロミオは袖で涙を拭い、口を開く。
「お母さんが亡くなる直前・・・僕はお母さんが大好きだったお花をたくさん摘んで、お母さんに見せた。 季節の関係で咲いていなかった、お母さんが特に大好きだった、ヒマワリの花は、僕が氷で作ってみせた。 そのヒマワリを見たお母さんは・・・涙を流しながら、満面の笑みを向けて僕の頭を撫でてくれた。 そして、「愛している」「一人にしてごめんね」とそう言葉を残して・・・お母さんはこの世を去っていった」
「そんな・・・」
エミリはそう声をもらした。
そしてエミリに視線を向けると
エミリの瞳からも、涙がこぼれていた。
エミリも・・・母親を亡くしているんだったな。
エミリもきっと同じように、母親を亡くした悲しみを・・・なんとか踏ん張って乗り越えてきたんだろう。
言葉で言い表せないほど・・・つらく苦しいものだったのだろうが・・・
ロミオが続ける。
「それから僕は、丸二日、ご飯も食べずに泣き続けた。 たった一人の家族・・・お母さんを失った悲しみは、僕の心にポッカリと穴をあけるくらいに、とても大きいものだった。 そしてお母さんが亡くなってから、三日が経ったある時・・・急に、僕の家にある男の子がやってきた。 僕はその男の子と面識はなく、初めて会った子だったが・・・その男の子は僕を見た瞬間、キリッとした表情から一変し、優しい笑顔を向けた。 そして―
「迎えにきた。 僕は君の兄だ!」
そう言った。 ・・・そう、この人が僕のたった一人の兄さん・・・エリオット・ラングヴェイその人だった」




