2話 真剣白刃取り
「よかったユーリ、こんなところに―」
そこまで言うと、エミリはピタッと固まった。
まるで、目の前の光景に脳が追いついていないといった感じだ。
それもそうだ。
裸のロミオ(女)と・・・俺。
しかも偶然にも、俺たちは身を寄せ合っているような状態。
まあ、転びそうになったロミオを俺が支えて
自然とこうなってしまったわけなんだが・・・。
だが、このまま黙っていては
それこそ本当に「変態」という不名誉な称号を与えられかねない。
ここは正直に、いま起きたことを包み隠さずに話すのが一番だろう。
俺は意を決して口を開いた。
「エミリ、これは違うんだ! いろいろと事情があってだな」
・・・なんだが言い訳じみた言い方になってしまった。
ま、まあいい。
俺は続けて口を開く。
「一から説明するから話を聞いて・・・くれ?」
あ、あれ?
エ、エミリさん?
目の前で固まっていたエミリは、無表情のまま腰に携えている剣をゆっくりと抜いた。
お、おい。
一体どうしたというのだ?
「エ、エミリ? 家の中で剣を抜くなんてすごく危ないぜ? それにここには魔物はいな―」
俺がそう言った瞬間―
「覚悟おぉおおおおおおおおおっ!!!」
エミリは大声を発し
兜割のごとく、俺の頭上に剣を振り下ろしてきた。
「う、嘘だろおぉおおおおおおお!」
ガシッ!!!
俺は反射的にエミリの剣を両手で抑えた。
そう・・・真剣白刃取りというやつだ。
真剣白刃取りなんて生まれて初めてしたんだが
まさか初見で成功するとは。
って、感心している場合じゃねえ!
危ねえよ!
一歩間違えばマジで死ぬって!
「エ、エミリ、俺を殺す気か!」
俺はエミリの剣を両手で抑えながらそう言った。
「ええい! 黙れ浮気者! 絶対に・・・絶対に許さんぞ!」
そう言って
ぐぐぐ
っと、剣を握っているエミリの手に力が増す。
「う、浮気者? 一体何の―」
「私のことを好きと・・・好きと言っていたくせに・・・言っていたくせに」
エミリはそう言って、下を向いた。
そして―
「私は貴様のことを信じていた・・・私の家族を救ってくれた・・・貴様のことを・・・私は・・・私は・・・」
エミリは、涙を流しているかのように、顔を赤くしていた。
だが、一つ。
エミリから、身に覚えのないフレーズが聞こえてきた。
俺はエミリに
「好き」
などと、そんな言葉を口にしたか?
・・・全く記憶にないんだが。
俺は全神経を集中させ、必死に記憶をたどるが
わ、わからねえ。
くそ、わからないものはいくら考えたってわからない。
ここは正直に、言うしかねえ。
「エミリ、頼むから俺の話を聞いてくれ! そ、それに申し訳ないんだが、俺がエミリにそんな・・・そんな言葉を口にした覚えが全くないんだが」
俺がそう言うと―
「何だと貴様! あの時の・・・私との勝負の時のことを忘れたとでも言うのか!」
「勝負の時?」
「そうだ! ・・・貴様それともなにか? あの時の言葉は・・・口から出た出任せだとでも言うのか!」
俺は必死に、エミリと初めて会った時のことを思い出す。
そして
ハッ!
と、俺は思い当たるふしを見つけた。
も、もしやあれか?
リギルとのいざこざの後、エミリが落ち込んでいたときに俺がエミリにかけた言葉・・・
―俺はさっきまでの勇ましく凛としているエミリの方が好きなんだが―
だが・・・だが・・・だが・・・
こ、これに違いねえ!
気づいた途端、俺は全身の血の気が引いていくのを感じた。
そんな・・・
確かに俺は、エミリに「好き」と言った。
だ、だが!
俺は異議を申し立てたい!
たしかに俺は、好きという言葉を発してはいる。
だがしかし!
同じ言葉でも、あの時の「好き」は言葉の意味が違うだろ!
雰囲気もな!
俺は落ち込んでシュンとしているエミリよりも、凛とした勇ましいエミリの方が好きだっていうことを言っただけで―
などと、脳内でそんな言い訳を呟いていると
「そうか・・・貴様の気持ちはよくわかった」
そう言うと、エミリは俺に向け振り下ろしている剣を取り下げた。
よ、よくわからないが、正気を取り戻してくれたか?
とりあえず、一安心だ。
と、思ったその時―
「私は本気だったのに・・・本気で・・・お前のことを・・・」
そう言って、エミリは再び剣を構えた。
「エ、エミリ?」
エミリはスゥーっと一呼吸おき、大声を上げた。
「貴様を殺して・・・私も死んでやるうぅううううう!!!」
エミリは半分焼けになったように、再び剣を振り下ろした。
何だとおぉおおおおおおお!
俺は再び白刃取りの構えをとるが
スカッ・・・
エミリの剣は俺の手をすり抜けた。
・・・あ、死んだ・・・
と、死を覚悟したその時―
「エ、エミリさん!」
ピキキキ!!!
ロミオの声で、エミリは剣を止めた。
「エミリさん・・・話を聞いて」
俺はロミオに視線を移した。
するとロミオは、片方の手でバスタオルを持ち、身を隠しながら
もう片方の手はこちらに向け真っすぐ伸ばしていた。
そして、その伸ばした手の先には、魔法陣が展開されていた。
「な、これは・・・」
エミリの声で、俺はエミリに視線を移す。
なに・・・
エミリはロミオの声で剣を止めたんじゃない。
ロミオの魔法で止められたんだ!
そう。
エミリの腕から剣先にかけて、大きな氷が纏っていた。
・・・あの一瞬で、エミリの腕と剣を・・・凍らせたのか?
「ごめんね、エミリさん・・・」
ロミオが申し訳なさそうにそう話す。
「き、貴様その声・・・ロミオ・・・なのか?」
「・・・うん・・・」
ロミオがそう言うと、エミリは驚いた様子で口を開いた。
「だが、その体は・・・」
エミリはロミオの顔を見つめ
次に視線を下げ全身を見回し
再び顔を見つめた。
そして―
「た、たしかに貴様はロミオのようだ」
エミリは完全には理解できていない様子だった。
それもそうだ。
男だと思っていた奴が、実は女だったと言われても、すぐには理解できないだろう。
俺だってそうだった。
「エミリさん、今それを解くね」
そう言って、ロミオの手の先に再び魔法陣が展開された。
すると次の瞬間
パリンッ
っと、エミリの腕と剣にまとっていた氷が、一瞬で砕けた。
エミリは自由になった手を一度見つめた後、ガチャッと腰に剣を収めた。
そしてロミオは、俺が家に帰ってきてから、今まで起こったことを全てエミリに説明した。
「だからね、ユーリは何も悪くないんだ。 だから、ユーリを責めないでほしい。 そもそもこうなったことの責任は・・・全部僕にある」
ロミオはそう言って、俯いた。
「ロミオ・・・」
「状況は理解した。 だがロミオ、どうして自身が女だってことを・・・私たちに黙って・・・」
エミリもロミオに事情があってのことと思ってか、後半は声が小さくなっていった。
そしてエミリの問いから、数秒の沈黙が流れた。
そして、数秒後
ロミオは顔を上げ―
「ユーリ、エミリさん・・・このことは僕からちゃんと説明するから・・・リビングで待っていてくれないかな?」
ロミオは少し暗い表情を向けて、俺たちにそう言った。
俺とエミリは、一度顔を見合わせ
ロミオに視線を戻した。
俺は思わず口を開いた。
「ロミオ、誰だって秘密や誰にも話したくないことの一つや二つあるもんだ。 だから友達だからって、俺たちに無理に打ち明ける必要はないんだぜ」
俺は少し笑ってみせた。
「だな・・・私も配慮が足りなかった。 ロミオ、すまなかった」
俺とエミリがそう言うと
「ううん、違うんだ。 僕が・・・ユーリとエミリさんだから・・・話したいと思うんだ。 誰にも話せなかった・・・僕の話を・・・聞いてほしいと思うんだ。 だから・・・」
ロミオは、つらい気持ちを押し殺しながらも、必死に俺たちにそう伝えている
そんな印象を受けた。
俺はそんなロミオの・・・友達の気持ちに応えたくなった。
「わかった。 じゃあリビングで待ってるな」
俺がそう言うと、ロミオから「・・・うん」という返事が返ってきた。
そして、俺とエミリは脱衣所を抜け、リビングに向かった。




