1話 緊急事態
何ということだ・・・
先ほどの光景を思い返しても
やはり、理解が追いつかない。
あの学校で初めてできた友達。
男だと思っていた友達が
まさか・・・女だったなんて・・・。
一体・・・何がどうなってるんだ・・・
俺は、ロミオに背を向けたまま、そんなことを考えていた。
「あの・・・ユーリ・・・その・・・」
俺の後ろから、ロミオが小さな声を上げた。
「お、おう・・・ど、どうしたんだ?」
俺も、動揺しながら答える。
「えっとね・・・その・・・」
「あ、ああ」
「そ、その・・・お風呂場から・・・」
ロミオの申し訳なさそうな口調から、ロミオが伝えたいことを理解した。
俺は慌てて脱衣所のドアに手をかけ、口を開いた。
「わ、悪いロミオ。 い、今すぐ出ていく、ごめんな―」
俺がそこまで口を開いたその時―
トントン
っと、誰かが家の玄関をノックする音が聞こえた。
俺は反射的に音のする方へ視線を向ける。
とは言っても、壁のむこうではあるが。
そして―
「ユーリ、夜分にすまない! 起きているか? 起きていれば、お前と話がしたいのだが・・・」
と、玄関から先ほどまで行動を共にしていた、とても聞き覚えのある声が聞こえてきた。
な、なぜこのタイミングで・・・
エ、エミリが俺の家に来るんだよ。
エミリは親父さんと一緒に診療所に行ったんじゃないのか?
い、いやそれよりも!
この状況をエミリに見られるのは、非常にまずい。
脱衣所に裸のロミオ(女)と・・・俺。
うん、完全にだめだ。
エミリから「変態」という不名誉な称号を与えられかねない。
よし、ここは音を立てず、穏便にやり過ごすしかない!
と、そう考えたその時―
「あ、あわわわ・・・ど、どど・・・どうしようユーリ、エ、エミリさんががが・・・」
な、なにっ!
ロミオが、今まで見たことないほどに取り乱している。
ががが、って言ってるぞ。
って、そうじゃなくて!
ロミオを早く落ちつかせないと。
「ロ、ロミオ、落ち着け、落ち着くんだ。 エミリが帰るまでここは静かにやり過ごすぞ」
俺は必死に、声を下げてそう言うが―
「ぼ、僕の、い、今の姿を見られたら・・・エ、エミリさんに・・・ぼ、僕が女だって・・・し、知られちゃう」
駄目だ。
動揺していて、俺の言葉がまるで届いていない。
このままじゃ、外にいるエミリに気づかれる。
どうすれば・・・
すると―
ダダダッ
っと、ロミオが俺のそばまで歩みよってきた。
そして、ぎゅっと俺の服を掴んだ。
「ロ、ロミオ?」
ロミオは、俺のすぐ真後ろに立っていて、手を伸ばせば届く距離にいる。
そして、ロミオからとてもいい匂いが漂ってくる。
シャンプーの匂いだろうか?
・・・よく分からないが、とてもいい匂いだ。
そうか。
ロミオは本当に・・・
女だったんだな。
今更だが、やっと俺の頭は、ロミオが女であるということを理解してきたようだ。
「うう・・・ユーリ・・・」
ロミオは不安そうな声を上げる。
そして、少し震えているようだった。
ロミオは、自身が女だということを他者へ知られるのをかなり恐れているようだ。
・・・だがどうして、ロミオは性別を偽ってこの学校に入学しているんだ?
・・・。
わからない。
まあロミオにも、人には言えない秘密があるんだろう。
友達にも言えない秘密が。
俺は一呼吸おいて、口を開いた。
「ロミオ、大丈夫だ。 俺がついてる」
俺はロミオが安心できるように、力強く言ってみせた。
そして―
「・・・うん・・・」
俺の後ろから、小さくそう声が聞こえた。
そして、心なしか体の震えもおさまったようだ。
よかった。
ロミオも少し落ち着けたようだ。
この調子で静かにやり過ごせば、きっとエミリも帰るだろう。
と、思っていたのだが・・・
ドンドン!
と、先ほどよりも強く、玄関の扉がたたかれる。
「ユーリ! ロミオの慌てたような声が聞こえたのだが大丈夫か? 何かトラブルが起きているのか?」
な、なんだと・・・
ここから玄関まで距離があるというのに。
なんという地獄耳なんだ。
・・・いや、決して馬鹿にしているわけではないが。
って、そんなことを言っている場合じゃない!
やばい、やばいぞ。
「・・・返事がないな。 まさか緊急事態か? やむを得ん! すまないが、勝手に上がらせてもらうぞ!」
エミリはそう言って、玄関のドアを
ダンッ!
と開けた。
おい、嘘だろ。
カギごと玄関の扉を破壊しやがったのか?
ご、豪快すぎる。
そのたくましさには、賞賛の声を上げたいが
今の状況下ではちょっとご遠慮いただきたいところだ。
トン、トン
っと、エミリの足音がこちらに近づいてくる。
「ユーリ、ロミオ! 何事だ? 無事か?」
エミリが声を上げて、俺たちを呼ぶ。
だ、ダメだ。
このまま、黙っているのには無理がある。
このまま黙っていたところで、いずれエミリがここの扉を開けるだろう。
どうする・・・
俺がそう考えていたところ―
「ユーリ、どうしよう・・・」
ロミオが小さな声を上げた。
「ど、どうかしたか?」
俺も小声で返す。
「そ、その・・・言いづらいんだけど・・・」
「あ、ああ」
「そ、その・・・ト、トイレに・・・」
「な、なに!?」
ま、まずいぞ。
いろいろと緊急事態だ。
う、うーん。
俺は必死に、この状況の打開策を考える。
そして、閃いた。
そうだ!
「ロミオ、俺に考えがある」
俺は小声でロミオにそれを伝える。
「え、ええ!?」
「今言った通りだ。 ロミオは服を着て廊下に出ろ。 そしてエミリに説明して、エミリに帰ってもらうんだ。 俺は目隠ししたままこのまま風呂場に入り、エミリが家を出るまで浴槽に身を隠す」
「よ、浴槽に身を隠すって言ったって・・・お湯も入ってるんだよ?」
「大丈夫だ! 3分くらいなら息を止めていられる・・・はずだ!」
「ほ、本当に大丈夫?」
「ああ! 俺を信じろ!」
「う、うん・・・わかった」
「よし、それじゃあロミオ、俺の目をタオルでしばってくれ」
「そ、そこまでしなくても―」
「いいや駄目だ! 外れねえようにきつく頼むぜ!」
「う、うん」
そして、棚に置かれているタオルにロミオが手を伸ばすと―
「ユーリ! ロミオ! 返事をしてくれ!」
エミリの声がすぐそばで聞こえた。
まずいぞ。
かなり近いところにいる。
「ロ、ロミオ急いでくれ」
「う、うん!」
そして、ロミオが俺から離れ
棚からタオルをとり、こちらに戻ってこようとしたその時―
「あ、、、」
ロミオがそう声を漏らすと同時
ツルンッ
っと、ロミオが足を滑らせた。
俺はただならぬ事態を察知し、目を開けロミオに視線を向けた。
「ロミオ、だいじょ―」
そこまで言ったその時には
ロミオが倒れかけていた。
俺は反射的に
ダダッ!
っと、ロミオに距離を詰め、ロミオが転ばないように、ロミオの体を支えた。
「大丈夫か? ロミオ」
俺はロミオの身を案じてそう声かけた。
「う・・・うん」
ロミオは顔を赤くしながらも、そう答えた。
「よかった」
俺がそう言ったその時―
脱衣所の扉が
ガチャ・・・
っと開いた。
俺はハッと、背筋が凍るような感覚に陥った。
そして、おそるおそる扉が開いた先に視線を移すと
そこには
学校一の剣術使いであり
俺のパーティーメンバーである
エミリの姿があった。




