53話 魔人戦⑭ 決着
*エミリ*
ユーリが神器を振り終えると、神器から発せられていた雷が消えた。
そして―
ガッ・・・ガタン
魔人は白目を向き、膝をついてうつ伏せに床に倒れた。
あまりに一瞬の出来事で、私は状況を整理するので精一杯だった。
・・・き、斬ったのか?
ユーリはお父様を・・・
私は思わず―
「お父様!」
必死に足に力を込め、お父様にかけよった。
そしてお父様を仰向けにすると、私はあることに気づいた。
・・・斬られた跡がない・・・
それに出血もしていないようだ。
ユーリは・・・お父様を斬ってはいないのか?
そんなことを考えていると
「うう・・・」
お父様が小さな声を上げた。
「お、お父様!」
私はお父様に呼びかけた。
「う・・・あ・・・」
お父様はゆっくりと目を開け、私に視線を合わせた。
「エ・・・エミリ・・・どうして・・・ここに」
「お父様・・・お父様だ・・・よかった」
私はホッと安堵した。
そして同時に涙が溢れた。
「だから言っただろ」
私はユーリの声で顔を上げた。
「俺を信じろってな」
ユーリはそう言って、ニコっと笑顔を向けた。
「ああ・・・だな」
私は涙を流しながら、満面の笑みを返した。
そして―
「お姉さま!」
私はその声で、ハッと部屋の入口に視線を移す。
すると、私の妹サラが私とお父様の元へ駆け寄ってきた。
ガシッ
「お姉さま・・・お姉さま・・・」
サラが私に抱きつき、泣きながら私を呼んだ。
「ああ・・・サラ・・・」
私もサラを抱きしめ返す。
少し震えている。
よっぽど、怖かったのだろうな。
私はサラの頭を優しく撫でた。
「サラ・・・無事でよかった・・・本当によかった」
「私は信じていました・・・お姉さまが必ず・・・助けに来てくれると」
「ああ・・・遅くなって・・・すまないな」
「いえ・・・そんなことはありません・・・お姉さま・・・」
私とサラが抱きあっていると
「うう・・・ああ・・・」
お父様がゆっくりと口を開いた。
「長い・・・長い悪夢を見ていた。 私が・・・愛する娘を傷つけていた・・・そんな夢だ。 とても・・・とても辛く苦しい夢だった。 すまないね・・・エミリ・・・サラ・・・」
お父様は申し訳なさそうに私たちに謝った。
私とサラはお父様の手をギュッと握った。
「お父様さま安心してください。 悪夢は終わりました。 私もサラも無事です」
「そうですお父様。 お父様は何一つ謝ることなんてありません」
その声でお父様は―
「ああ・・・ありがとう・・・」
お父様の瞳から涙が溢れた。
*ユーリ*
数分後―
エミリの親父さんは、眠るように目をつむった。
「お、お父様! お父様お気を確かに!」
エミリは慌てた様子で、そう言った。
俺はエミリの親父さんに近づき、首筋の脈に触れる。
ドクンッ・・・ドクンッ・・・
・・・脈はある。
「大丈夫・・・気を失っただけだ。 だが、応急処置をした方がいいな。 それに一度医者に診てもらった方がいい。 エミリ、この近くに診療所などはないか?」
「ああ、診療所はすぐそこにある・・・サラ」
エミリはサラに視線を移した。
「はい! 治癒魔法であれば私も心得があります」
エミリの妹、サラが手を上げて、そう言った。
サラはエミリと同じ濃い青髪で、背中まで真っすぐ伸びている。
エミリとは違ったタイプで、背丈も低く、凛々しいといった感じではない。
表情は柔らかく、ニッコリとしており
・・・可愛らしい・・・
そんな言葉がよく似合う女の子だ。
そういえば、闘技場でエミリが言っていた話では
サラは魔力が高く、魔法が得意と言っていた。
それなら―
「それじゃあサラ、俺が医者を連れてくるまで応急処置を頼めるか?」
「はい! もちろんです」
「ありがとう」
俺は笑顔を向けた。
良かった。
応急処置をしていれば、致命傷にはならないだろう。
「そ、それに・・・」
サラはそう呟き、体をもじもじさせながら続けた。
「命の恩人である・・・ユーリさんの頼みとあれば・・・私は何だって致します・・・」
サラは顔を赤くしながらそう言った。
・・・一体、どうしたというんだ?
ま、まあいいか。
「それじゃあ応急処置は任せた」
「はい!」
サラは満面の笑みを向けた。
俺はエミリに視線を向けた。
「エミリ、診療所の場所を教えてくれ」
「ああ。 私が案内して―」
エミリはそう言って、膝を立てようとした。
俺は慌てて口を開く。
「いや、俺一人で大丈夫だ。 エミリも傷を負っているんだし・・・それに・・・その格好じゃあ・・・その・・・」
俺は顔を逸らしながらそう言った。
エミリは俺の上着を着てはいるが、下はほとんど下着姿だ。
非常に目のやり場に困ってしまう。
エミリはハッと自身の姿を思いだしたのか、しだいに顔を赤くした。
「す、すす、すまない! 自身の身なりを忘れていた!」
「そ、そうか」
俺はそう答えるも、エミリは信じていないと言わんばかりに、慌てて続けた。
「わ、忘れていたのだぞ! 決して、このような格好で、外に出歩こうなどとは、全く思ってなどいないんだからな! 私はそんな、い、いやらしい女では、決してないんだからな!」
エミリは俺を見つめながら、必死にそう言った。
別に、俺はエミリを疑っていないんだが・・・
・・・仕方ない。
俺は大声を上げた。
「ああ、もちろんだ! エミリはただ忘れていただけ! 下着姿で外をうろつくような・・・そんないやらしい女では決してない!!!」
ない・・・ない・・・ない・・・
俺が高らかに上げた声が屋敷中にこだました。
そして、まるで時が止まったかのように、辺りはシーンとした空気になった。
自分で言っておいて・・・恥ずかしさがこみ上げてきた。
頼む・・・誰か口を開いてくれ・・・恥ずかしくて・・・死んでしまう。
そして―
「そ、そうか・・・ユーリがそう想ってくれるのなら・・・よいのだ」
エミリはなぜか安心したように呟いた。
「あ、ああ・・・」
俺は自分でもわかるくらい、気味の悪い笑みを浮かべた。
―20分後―
俺はエミリに診療所の場所をメモで教えてもらい、医者を連れて屋敷に戻った。
エミリは服を着替えており、サラは親父さんに治癒魔法をかけていた。
そして、医者が親父さんに近づき、診察を行う。
―診察を行うこと数分―
「うん・・・骨は数か所折れてはいますが命に別状はありません。 一か月ほど入院して治療すれば、後遺症なども残らないでしょう」
医者がそう言うと、エミリとサラの表情はパアーっと明るくなった。
「よかった・・・お父様・・・」
エミリとサラは親父さんの手を握りしめた。
良かった・・・
エミリとサラにとって、この世でたった一人の父親だ・・・
決して無事とは言えないが
本当によかった。
俺も自然と笑みがこぼれた。
その後、医者にミネアとアイラも診てもらった。
幸運なことに、ミネアもアイラも無傷と言っていいほど軽傷だったらしく、二人して診察中に意識を取り戻した。
二人とも、魔人に操られていた時の記憶は定かではないようだが
親父さん同様に、エミリとサラに謝罪していた。
まあとにかく、二人とも無事でよかった。
・・・一つ心残りがあるとすれば・・・
屋敷をボロボロにしてしまったことだ。
サラの部屋の床にも穴をあけてしまった。
ちなみに言うと、サラの部屋の床の下には広く洞窟のような空間があった。
その空間の端には、牢獄のような、鉄格子でできたものがあり、
サラはその中で手足を縛られ、身動きが取れないでいた。
そして鉄格子の反対側には、見張りとしてだろうが、フェンリルが一匹放置されていた。
俺はフェンリルを片付けたあと、牢獄を破壊しサラを救出。
直ちにエミリと合流・・・といった流れだった。
・・・まあ、直ちにと言っても、俺が駆けつけた時は結構ギリギリの状態だったが・・・
まあとにかく・・・みな無事だ。
これにて一件落着だな。
俺はそんなことを考えていると―
「ユーリ、そういえば奴が言っていた話だが」
エミリは真剣な表情を向けていた。
「ああ」
「実は―」
俺はエミリから、魔人の話を全て聞いた。
数年前、生徒が行方不明になった事件の話・・・そしてその事件の裏で、魔人が糸を操っていたということ。
そして
ダルウィン家の当主が魔人であることも・・・
「そうか、なら急いだほうがよさそうだ。 早くしないと、リギルが殺される」
「ああ。 生け好かない奴ではあるが・・・何も死ぬことはない」
「だな。 エミリ、後のことは任せていいか?」
「ああ、だが私も―」
「大丈夫だ、俺を信じてくれ」
俺はエミリを真っすぐ見つめる。
「わかった」
エミリも静かに頷いた。
俺はエミリから、ダルウィン家の場所を記したメモをもらい
部屋の出口に向けて走った。
すると―
「ユーリ!」
背中から声をかけられ振り返る。
「・・・気をつけて・・・」
エミリが心配そうな表情を向けてそう言った。
「ああ!」
俺はエミリに心配をかけないよう力強くそう言って、屋敷を後にした。




