52話 魔人戦⑬ 碧眼の神威使い
*エミリ*
ユーリのあの眼は何だ?
どこか、魔人が使っていた魔眼と似ている。
だが魔眼と違い・・・
ユーリのあの瞳からは、何か神秘的なものを感じる。
ユーリ・・・お前は一体・・・
ユーリは魔人に向け口を開いた。
「お前の魔法は、俺には効かない」
「なんだと・・・どういうことだ」
ユーリは碧眼の瞳を光らせながら答える。
「魔法を使うには必ず、魔法術式・・・つまり魔法陣の展開が必要だ。 魔法陣の展開なくして、魔法を使うことは出来ない。 だが俺のこの眼は・・・その全ての魔法陣を破壊する」
「な、なに・・・」
そして次の瞬間、魔人はハッっとした表情を見せた。
「その碧眼の眼・・・貴様は・・・まさか・・・」
魔人は、何かに気づいたようにそう呟いた。
ユーリは怒りを帯びた声色で話す。
「俺はお前ら魔人を許さない。 俺の家族を殺し・・・リリアを奪ってった・・・お前ら魔人を!!!」
い
ユーリはそう言って、ロングソードを構えた。
「ぐっ・・・」
魔人も顔を引きつらせながら剣を構える。
ユーリは勝負を決める気だ。
ユーリのあの瞳・・・
魔法によるものなのか、正体は不明だが
ユーリには奴の魔法は効かない。
そして、剣術に関してもユーリが圧倒的に上手。
ユーリなら確実に魔人を殺せる。
「これで・・・終わりだ!」
ユーリはロングソードの剣先を真っすぐ魔人に向けた。
だが・・・魔人を殺せば・・・
お父様も・・・
そんなことを考えていると―
ダンッ!!!
ユーリは地面を蹴り、一瞬で魔人の間合いに入った。
魔人はユーリの動きに反応できず、立ち尽くしている。
「雷轟一閃流」
ユーリがそう言い、魔人に剣を入れる寸前で―
「ユーリ待ってくれ!!!」
私は思わず声を上げた。
「なに―」
ユーリは魔人を斬る寸でのところで剣をとめた。
そして、魔人はユーリの動きが一瞬止まった隙を逃さず―
ガキンッ!!!
ユーリの剣を弾いた。
ダダッ!
ユーリは後ろに下がり、魔人から距離をとった。
「エミリ、どうかしたのか?」
ユーリは剣を構えたまま、私に疑問を投げかける。
私はゆっくりと口を開いた。
「魔人の・・・奴の体は・・・私のお父様のものなんだ」
「な、なんだと・・・一体どういうことだ」
ユーリはこちらに振り返り、驚いた様子でそう言った。
「奴の話では・・・はるか昔に魔人は、神に肉体を滅ぼされているらしい。 そして、肉体を滅ぼされた奴ら魔人は・・・人間の体を奪って生存しているんだ」
「なに・・・」
ユーリはそう声を漏らした。
私は続ける。
「私は先ほど、奴の心臓を刺し・・・確実に魔人を殺した。 だが奴は・・・いつの間にか・・・お父様の体に・・・」
魔人は気味の悪い笑みを浮かべた。
「フフフ、フハハハハハハハハハハハハハ。 そうだ、そうだとも! 俺を殺せばこいつも・・・その女の父親も死ぬぞ!」
「くっ」
私は魔人を睨みつける。
魔人は、笑みを浮かべながら続ける。
「貴様ら人間に、そんなことができるのか? 親、兄弟、仲間と、自分ではない他人に、下らぬ情愛を抱く、貴様ら人間に! 俺は今まで、数多くの人間を殺してきた。 その中には、貴様らのように腕が立つ者もいた。 だがそいつらはみな・・・親や兄弟、仲間を人質にとれば、それはもう簡単に殺せたぞ。 フフフ、人間は愚かだ。 自分ではない、他人を守る為に、自らの命を落としてしまうんだからな。 ・・・まあ、人質にとった人間ももちろん・・・みんな殺してやったがな・・・ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ」
魔人の下卑た笑い声が屋敷中に響く。
魔人の言葉で、私はリファレンの話を思い出した。
仲間を守るために命を落とした、リファレンの話を。
「黙れ、黙れ、黙れ!!!」
私は大声を上げた。
ここまで、他者に殺意を抱いたのは初めてだ。
今すぐにでも・・・奴を殺したい。
だが・・・
「くそっ!」
私は怒りを押し殺すように、拳を強く握りしめた。
「やはり、俺に攻撃を仕掛けられないか。 ハハハ、いいことを教えてやる。 俺たち魔人と貴様ら人間の決定的な違いを」
魔人は両手を広げて続ける。
「それは繋がりだ! 親、兄弟、仲間などという、人間同士の下らぬ繋がり。 貴様ら人間はその眼で見えない繋がりのせいで、弱点につけ込まれ、自らを死に至らしめる。 だが俺たち魔人にそのような繋がりはない。 俺たち魔人は貴様らのように、他者の為に命をかける、そんな馬鹿げたことは決してしない。 これが俺たち魔人と、貴様ら愚かな人間との決定的な違いだ」
魔人は声を上げてそう言った。
違う・・・
繋がりは・・・決して弱点なんかじゃない。
自分の命に代えてでも、大切な人を守りたいという想いは
決して馬鹿げたものではない。
リファレンが・・・私にそう教えてくれた!
私が口を開こうとしたその時―
「黙って聞いてりゃあごちゃごちゃと・・・ふざけたことをぬかしてんじゃねえ!!!」
ユーリが大声を上げた。
「ユーリ・・・」
私はユーリへ視線を移す。
「繋がりが弱点だ? 繋がりが自らを死に至らしめるだ? ふざけるな!!! お前ら魔人のくだらねえ価値観を・・・俺たち人間に押し付けてんじゃねえ!!! 繋がりは弱点なんかじゃねえ! 人は繋がりがあるからこそ、前を向いて生きていけるんだ! 繋がりが、命にかえてでも守りたい大切な人がいるから、人は強くなれるんだ! ・・・人はときに、その繋がりを失ったとき・・・生きることを諦めそうになってしまうことだってある。 だがそれでも! 人はそれを乗り越え、前を向いて歩いていけるだけの力を持っている! 俺たち人間の繋がりを・・・想いをなめんじゃねえ!!! 俺はもう二度と・・・俺の大切な繋がりを断ち切らせはしない!!!」
ユーリは咆哮を轟かすようにそう言った。
魔人は不敵に笑う。
「ほう、では俺を殺すか? 貴様にそんなことが出来るのか? 俺を殺せばあの女の父親も死ぬ。 貴様がほざいている、その大切な繋がりを・・・貴様自らが断ち切ることになるんだぞ!」
魔人は、私の方へ指を指しそう言った。
「くっ・・・」
私は唇を噛んだ。
どうすればいいんだ・・・
一体、どうすれば・・・
すると―
「エミリ、俺を信じろ」
ユーリはそう言って、ロングソードを鞘に納めた。
「ユーリ・・・何を・・・」
するとユーリは―
ガサッ!
ユーリは、腰に携えていたもう一つの剣を鞘事手にとった。
あの剣は・・・刀?
見る限り、鞘や刀の握りなど、いたるところが錆びていて、とても使えるようには見えないのだが。
「そんな錆びた刀で一体どうする気だ? 気でも狂ったか?」
魔人はニヤけ面でそう言った。
ユーリは少しだけ間を置き、口を開いた。
「見せてやる。 お前を斬る・・・神の剣を」
「なに―」
魔人がそう声を漏らしたと同時―
ユーリは、その錆びた鞘から刀をゆっくりと抜いた。
バチッ!!! バチチ!!! バチチンッ!!!
垣間見えた刀身から、小さな雷が放たれる。
そして次の瞬間―
ダダダンッ!!! ダダダダダンッ!!! ダダダダダダダンッ!!!
ユーリは鞘から刀身を全て抜ききった。
刀身から凄まじい雷が辺りに飛散する。
「なんだ・・・これは・・・」
私は声を漏らした。
す、凄まじい魔力だ。
この雷はあの刀から放たれているのか?
私はユーリの刀を見つめた。
な、なぜだ?
さ、錆びていない。
先ほどまで、刀の握りや柄など、いたるところが錆びていたはずが、
刀身を含め少しも錆びてなどいない。
ど、どうなっているんだ・・・
そんなことを考えていると―
「その忌々しい魔力・・・間違いようがない・・・それは・・・忌々しい神の産物!」
魔人は先ほどまでのニヤケ面から一変し、怒りを帯びた声色でそう言った。
ユーリは刀を両手で持ち、魔人に告げる。
「神器―スサノオ― 古より伝わる・・・雷神の剣だ」
「な・・・なに・・・」
私はそう声を漏らした。
神器・・・
それは神が創造し、神が使っていたと伝えられている武器。
神器はこの世界に数本しか存在しないと言われており
誰もが扱えるわけではない。
神器は人を選ぶ・・・
神器に選ばれた者のみが、それを扱うことが出来る。
そしてもう一つ。
神器に選ばれた者は ―神威― という特別な力を使うことができる。
私たちは、神器に選ばれ、その特別な力を使う者のことを
―神威使い―
そう呼んでいる。
ユーリは・・・神威使いだったのか。
「くっ・・・やはりその碧眼の瞳。 貴様は・・・俺たち同胞を各地で殺して回っているという・・・碧眼の・・・碧眼の神威使いか!」
魔人は、少し動揺しながらも大声を上げた。
「碧眼の・・・神威使い」
私は呟きながら、ユーリに視線を移す。
碧眼の神威使い。
その言葉には聞き覚えがある。
S級やSS級指定されている強暴な魔物を、世界各地で狩っていると噂されている者のことだ。
だがその正体はわかっておらず、実際に実在しているかもわからない。
私は正直・・・誰かがいたずらに流した噂話だろうと思い信じていなかった。
だが、
今までのユーリの戦い・・・
そしてあの碧眼の瞳。
実在していた・・・
ユーリは・・・
碧眼の神威使い!
「俺はお前ら魔人を絶対に許さねえ。 魔人は・・・俺がぶった斬る!!!」
そう言って、ユーリは神器を構えた。
「く、くそがああああああああああああああああああ!!!」
魔人はそう言って、巨大な魔法陣を複数展開した。
だが―
ダンッ!!!
ユーリはものともせず、地面を蹴り魔人に向かって突進する。
「人間めが、死にさらせええええええええ!!!」
魔人が叫び、魔法陣から炎が見えた瞬間―
バリンッ!!! バリンッ!!! バリンッ!!!
「ぐ―」
ユーリの碧眼の瞳が光り、魔法陣は破壊される。
そして―
ダンッ!!!
ユーリは魔人の懐に潜り込み、構えた。
魔人は焦り、ハッとした表情を見せる。
だが―
「雷神の一太刀 ―アメノ・ムラクモノタチ―」
ユーリはそう言って神器を振った。
ダダダダダダダダダダダダダダダンッ!!!
神器を振った軌道上に激しい雷が走る。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああ」
屋敷中に魔人の断末魔が響いた。




