51話 魔人戦⑫ 碧眼
*エミリ*
私はユーリを見ると、ホッと安堵した。
今まで一人で戦っていたというのもあるが・・・
ユーリの背中はとてもたくましく、心強かった。
「ユーリ・・・」
私がそう声を漏らすと
ユーリはこちらに振り返った。
すると―
「な・・・」
そう声を漏らし、私から視線を外した。
一体、どうしたというのだ?
すると次に、ユーリは自身が着ている上着を脱ぎはじめた。
「ユ・・・ユーリ?」
そして、ユーリは真剣な表情で、私に歩み寄ってきた。
「ユ、ユーリ・・・い、一体何を・・・」
「エミリ・・・」
ユーリは腰を下ろし、私の肩に手をまわした。
私は、自身の鼓動が速くなっていくのを感じながら―
「う・・・」
覚悟を決め・・・目を閉じた。
すると―
バサッ
・・・
・・・・・・ん?
私はそっと目を開けた。
するとユーリは、少し照れたように顔を逸らしており、
私の肩には、ユーリの上着がかかっていた。
「エミリ・・・その・・・目のやり場に困るから・・・とりあえず着ててくれ」
目の・・・やり場?
「一体、何を・・・」
私は自身の体を見回した。
そして―
「な、ななななななな―」
私は自身の状況を把握した。
わ、私の服が・・・
焼けてボロボロになっている。
かろうじて下着は焼き切れていないが、上着とスカートはボロボロで
私の体は、ほぼむき出しの状態だった。
私は羞恥で顔が熱くなる。
「す、すす、すま、すまない! き、きた、汚ならしいもの見せてしまった」
私は反射的に謝罪の言葉を述べた。
きっとユーリも不快に思っているだろう。
私がそう考えていると―
「べ、別に汚くなんか・・・ねえよ」
ユーリは照れたようにボソっとそう言った。
私はユーリの言葉でさらに顔が熱くなった。
「そ、そうか・・・それなら・・・よいのだが・・・」
・・・嬉しい・・・
ユーリは不快にも・・・汚らしいとも思っていない。
・・・よかった・・・
・・・って、私は一体何を考えているのだ!
別にユーリにどう思われようが
そんなもの・・・
どうでも・・・よいではないか・・・
そんなことを考えていると―
「おい貴様・・・今何をした?」
魔人の言葉で、私は我に返った。
そして、魔人へ視線を向ける。
「貴様が現れた途端、俺の魔法が消えた。 一体・・・何のトリックを使った」
魔法が・・・消えた?
私はユーリを見つめた。
「・・・」
だが、ユーリは黙ったまま口を開かない。
すると魔人は―
「答えぬか・・・なら力づくでも・・・そのトリックを吐かせてやる!」
そう言って魔人は剣を構えた。
「気をつけろユーリ・・・奴は魔法だけでなく、剣の腕もかなりのものだ」
私はユーリへそう告げる。
「ああ」
ユーリはそう言って、黒色のロングソードを鞘から抜いた。
魔人は体勢を低く構え
そして―
ダンッ!!!
地面を蹴り、一瞬でユーリの間合いに詰めた。
そして、素早く連続して斬りかかる。
ガッ! ガンッ! ガチンッ!
ユーリも魔人に応戦する。
「ほう・・・この速さについてくるか。 なら―」
魔人は不敵に笑い、そう口にした。
「気をつけろ! 奴のスピードはそんなものではない!」
私はユーリへそう告げた。
それとほぼ同時に、魔人はさらに速度を上げユーリに斬りかかる。
ガンッ!!! ガンッ!!! ガガンッ!!!
魔人の勢いに押され、ユーリは少しずつ後退していく。
「ほらほらどうした! こんなものか!」
ユーリは表情を変えず魔人に応戦する。
くっ・・・
ユーリは魔人の剣撃を食らってはいないものの
魔人の勢いに押されている。
ユーリでも・・・
魔人を倒すことは出来ないのか。
魔人は不敵な笑みを浮かべながら続ける。
「ハハハハ・・・所詮はこの程度。 そろそろ終わりに―」
「ごちゃごちゃうるせえよ」
魔人の言葉を切り、ユーリがそう口にした瞬間―
ガンッ!!!
「なに―」
ユーリは魔人の剣を強く弾いた。
「魔剣持ちのくせに遅すぎるんだよ」
ユーリがそう言うと―
「くっ・・・調子に乗るな!!!」
魔人は再び、ユーリに斬りかかる。
そして―
「お前ら魔人は・・・俺がぶった斬る」
ユーリがそう呟いた瞬間―
ダンッ!!!
「な―」
ユーリは再び魔人の剣を弾き―
ガンッ!ガガッ!ガガンッ!ダンッ!ダダンッ!ダダダンッ!
ユーリの猛攻が始まった。
「な、なに―」
ユーリは目にも止らぬ速さで魔人に斬りかかる。
は、速すぎる。
速すぎて・・・私の目ではユーリを正確にとらえられない。
以前私と勝負をした時とは・・・まるで比べ物にならない動きだ。
形勢は逆転し、魔人はユーリに圧倒され、後退していく。
そして―
ガンッ!!!
ユーリは魔人の手から、剣を弾き飛ばした。
そして続けて―
ボキィィィッ!
「ぐは―」
ダアアアアアアアアアアン!!!!
ユーリは魔人の腹部を殴り、壁まで吹き飛ばした。
・・・圧倒的すぎる。
まるで子どもと大人が戦っているかのようだ。
「ぐ・・ぐぐぐ・・・」
魔人は地面に手をつき、立ち上がろうとするも―
ブンッ!
ユーリは魔人の目先で剣を振り、剣先を魔人に向けた。
そして―
「俺は魔人に、いつも2つの質問をしている。 地獄を見たくなければ、さっさと答えろ」
「な・・・なんだと・・・なぜ俺が貴様の質問に―」
「まず1つ。 リリア・ローレンはどこだ?」
ユーリは魔人の言葉を切り、そう続けた。
「フンッ・・・俺がなぜ貴様にそのようなことを―」
魔人がそう言ったところで―
ガシッ! ダンッ!
ユーリは目にも止らぬ速さで、魔人の首を掴み上げ、壁に打ちつけた。
「ぐ・・・ぐっ・・・」
そしてもう片方の手で、魔人の顔スレスレに剣を打ちつける。
「答えろ」
ユーリはそう告げた。
魔人は、数秒の間を開け―
「・・・そんな人間は・・・知らない」
そう答えた。
「なら、二つめの質問だ」
ユーリは先ほどよりも怒りを帯びた声色で続ける。
「首筋に・・・Ⅰと書かれた・・・白髪の魔人はどこだ」
ユーリがそう言うと―
「なん・・・だと」
魔人の表情にも、みるみる内に怒りが帯びていく。
「俺の家族・・・村人を殺し・・・リリアを連れて行った・・・白髪の魔人のことだ!!! 答えろ!!!」
ユーリは咆哮を轟かすように大声をあげた。
だが―
「人間ごときが・・・あの方のことを知る必要は・・・ない!!!」
魔人がそう言うと―
ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
っと、魔人の体から大量の魔力が一気に溢れ出る。
ユーリは後方に下がり、魔人から距離を取った。
そして魔人は両手を前に構え、
瞬時に複数の魔法陣を展開させた。
「な、なんだと・・・」
私は驚愕した。
複数の魔法陣を展開させるというのは、かなりの魔力と魔法の知識、才能が必要不可欠だ。
それこそ特級魔法師でなければ、あれほど複数の魔法陣を展開させることは不可能だろう。
もちろん、上級魔法師だったお父様にも・・・できない。
だが奴は・・・お父様にできなった芸当を・・・そのお父様の肉体で・・・やってみせたというのか・・・。
魔人・・・なんという生物なんだ・・・
私はこの時、魔人の恐ろしさを再び思い知らされた。
「貴様がどうやって魔法を消したかは知らんが、これほど同時に魔法を打たれては、貴様でもさばけまい!」
魔人がそう言うと、魔法陣が光始めた。
まずい・・・このままでは・・・
ユーリが・・・いや・・・ここにいるアイラまで
みなが無事ではすまない。
私は剣を持ち、立ち上がろうとするが―
「うっ・・・」
・・・た、立ち上がれない。
魔力が切れたことと、疲労が重なり・・・足に力が入らない。
くっ・・・どうすれば・・・
私は必死に思考回路を巡らせるが
無情にも魔人が、声を上げた。
「死にさらせええええええ!!!」
くっ・・・ここまでか・・・
魔人が魔法を唱えようとした瞬間―
バリンッ!
「な―」
魔人がそう声を漏らした直後―
バリンッ! バリンッ! バリンッ! バリンッ! バリンッ! バリンッ!
魔人が展開していた魔法陣が
まるでガラスでも割れるかのように音を立て、粉々に吹き飛んでいく。
「な、なん・・・だと」
そして―
ほんの一瞬で、全ての魔法陣が消えた。
一体、どうなっているんだ。
まさか、ユーリが・・・魔法の類を使ったのか?
いやだが・・・
魔法を破壊する魔法なんて・・・
私は知らない。
「おい貴様・・・その眼はなんだ」
魔人はユーリへ指を指してそう言った。
・・・眼?
私はユーリに視線を移した。
すると―
「ユーリ・・・それは一体」
黒色だったはずのユーリの眼が
碧眼になり、碧く光を放っていた。




