50話 魔人戦⑪ 魔人の肉体
*エミリ*
目を覚ました時―
私の体から信じられないほどの魔力が溢れでてきた。
その魔力により、折れていた骨や全身の傷は癒え
先ほどまで速すぎて対応できなかった魔人の攻撃も、対応することが出来た。
これはリファレンが私に託してくれた・・・
精霊の加護というものなのだろうか。
私は剣を強く握りしめる。
手ごたえはあった。
私は確実に、奴の心臓を刺した。
私は、破壊した壁の方へ視線を向けた。
視線の先には、仰向けの状態で魔人が倒れており、微動だにしない。
倒せたか?
いや、まだ安心はできない。
もっと近づいて確認しなければ。
私はゆっくりと魔人に近づき―
そっと覗き込んだ。
魔人の左胸には、私が剣で刺した大きな傷があり、かなり出血している。
そして・・・息もしていない・・・
魔人は・・・死んでいる。
「はぁ・・・」
私は安堵と疲労で膝をついた。
終わった・・・
魔人を・・・倒すことが出来た。
私は胸に手を置いた。
「リファレン・・・勝ったよ。 あなたが私に託してくれた・・・この力で・・・魔人を倒すことが出来た。 ・・・ありがとう・・・リファレン・・・ありがとう・・・」
感謝してもしきれない。
あなたは私に剣を教えてくれた。
戦う力をくれた。
そして今回も・・・
あなたの力が無ければ
魔人を倒すことは出来なかった。
本当に・・・ありがとう・・・ありがとう・・・
心の中で、リファレンにそう伝えたその時―
『エミリ、よく頑張ったな』
リファレンが私の頭をなで、そう言ったような気がした。
私はハッと周りを見渡した。
・・・そこに、リファレンの姿はなかったが
いくつもの小さな光が、空に向かって飛んでいくのが見えた。
「ああ・・・ああああああああああ」
私はこらえていたものが、一気に溢れ出てしまった。
私は泣き崩れ
しばらくその場から動くことが出来なかった。
数分後―
私は涙を流し終え、前を向いた。
アイラとお父様は無事だろうか。
かなりの激闘で、二人をかばう余裕がなかった。
戦闘の被害が飛んでいないといいが・・・
私は、近くで横たわっているアイラの元へかけつけた。
「アイラ・・・しっかりしろ。 目を覚ますんだ」
私がそう声をかけると
アイラは「う・・・」という声を漏らした。
よかった・・・命に別状はなさそうだ。
そして―
「お父様」
私は横たわっているお父様の元へかけよった。
先ほどの戦闘で、私はお父様の体をだいぶ痛めつけてしまった。
すぐに、手当をした方がいいだろう。
私はお父様の肩に触れ、声をかけようとした瞬間―
お父様はガッと目を大きく開けた。
「よかった。 目が覚めましたか、お父―」
そう言った所で―
ブンッ!!!
お父様は横たわっている状態から、体をひねり私に蹴りかかった。
「ハッ―」
私は紙一重でそれを避けた。
「お、お父様! 一体何を・・・」
私がそう言うも、お父様からの返事は返ってこない。
そんな・・・
お父様が私に向かって蹴りをいれてくるなんて・・・
まさか、まだ魔眼が解けていないのか?
だが魔人は倒した。
一体どうなって・・・
そうこう考えていると、
お父様は立ち上がり、ボキボキと首の骨を鳴らし、口を開いた。
「まさか・・・俺が殺られるとはな。 万が一に備え、この体に俺の細胞を分けておいてよかった」
お父様はそんな言葉を口にしていた。
この歪な魔力に・・・この口調・・・
まさか―
「貴様はもしや・・・魔人か!」
私がそう言うと、魔人は不敵な笑みを向けていた。
な、なんということだ。
「だ、だが・・・お前は私が殺したはずだ。 それに・・・どうしてお父様の体に・・・」
「騒ぐな、そんなに驚くことではない」
魔人は続けて、とんでもないことを口にした。
「肉体が死ぬ直前、あらかじめ細胞を分けておいたこの体に・・・俺の核を移した。 ただそれだけの話だ」
なんだと・・・
肉体が死ぬ直前に・・・核を移した?
正直、理解が追いつかない。
「一体何を言っているのだ貴様は!」
魔人は大きなため息をついた。
「お前ら人間に説明する義理はないが・・・お前は一度俺を殺った。 お前には特別に教えてやろう」
魔人は続ける。
「俺たち魔人はな、とっくの昔に肉体を滅ぼされているんだよ。 お前ら人間どもが信仰している・・・忌々しい神どもによってな! つまり魔人はみな、お前ら人間の体を奪って生きているんだ」
「なんだと・・・」
私は、闘技場でのユーリの話を思い出した。
ユーリは、魔人は人と同じ見た目をしていると言っていた。
話を聞いた時、魔人の外見が人に似ているという意味だと思っていた。
だが違った。
こいつら魔人が・・・人の命を・・・体を奪い・・・生存しているから。
だから人となんら変わりない見た目をしているんだ。
くっ・・・
なんて・・・なんて醜い種族なんだ!
私は腹の底から怒りが煮えたぎってきた。
「ハハハハ・・・実にいい。 体を乗り換えたのは10年ぶりだが・・・この体も悪くない」
そう言って魔人は剣を持つように構えた。
すると、魔人が構えているその両手に黒色の剣が瞬時に現れた。
魔人は攻撃を仕掛けるつもりだ。
私も剣を構える。
おそらく、先ほど同様に心臓を貫けば、魔人を倒せるだろう。
だが魔人の体は、お父様だ。
心臓を貫けば・・・
お父様まで死んでしまう。
私は必死にお父様に呼びかけた。
「お父様! どうか、目を覚ましてください!」
「ハハハハ・・・無駄なことだ。 こいつにお前の声は届かない」
魔人は体勢を低く構えた。
「父親になぶられるお前の様を・・・じっくりこの眼で見させてくれ!」
そう言って、魔人は私に向かって斬りかかる。
ガキンッ!
私は魔人の剣を受けながら、続けてお父様に呼びかける。
「お父様・・・目を・・・目を覚ましてください! 私です・・・エミリです!」
「いくら呼んでも無駄だ! この体はもう俺のものだ!」
そう言って魔人は、鋭い猛攻を繰り出してきた。
ガンッ! ガキンッ! ガチンッ!
私もそれに応戦する。
依然私は、魔人の動きに対応できている。
考えろ・・・何か方法があるはずだ。
お父様の体から・・・魔人をおいだす方法が!
「どうした? 防戦一方じゃないか・・・もっと俺を楽しませろ!」
そう言って魔人はさらに速度を上げ、斬りかかる。
ガチンッ! バチッ! バチンッ!
くっ・・・
考えても答えは出ない。
なら―
ガンッ!
私は魔人の剣を強く弾いた。
今はとにかく、殺さずに奴の意識を断つ!
それしかない!
私は一気に距離をつめようとしたその時―
「あまい」
魔人がそう言うと
私の目の前に、大きな魔法陣が展開された。
「なにっ―」
「ギガ・フレイム!」
魔法陣を通して、大きな火炎玉が私に向かって飛んでくる。
私は横に飛び、それを紙一重で避ける。
ダアアアアアアアアアン!!!
火炎球は後方の壁を破壊し、屋敷が大きく揺れた。
私は驚きを隠せなかった。
無詠唱に・・・これほど素早い魔法陣の展開。
それにこれは・・・お父様が得意だった最上級クラスの火炎魔法。
まるで・・・お父様が魔法を唱えたようだった。
そうこう考えていると、魔人が口を開いた。
「この体はなかなかいい。 少し老いてはいるが、魔法に関しての知識量が半端ではない。 気に入った・・・気にいったぞ!」
魔人は右手を前に出し、瞬く間に魔法陣を展開させた。
そして魔人の右手に、炎の渦が巻きあがり始めた。
「それはお父様の・・・。 やはり・・・お父様が扱える魔法は・・・貴様も同じように扱えるというわけか」
「そういうことだ。 理解が早いではないか」
魔人は不敵な笑みを浮かべる。
「だが、魔法が使えたところで、当たらなければ意味がないことだ! 絶対にお父様を・・・救ってみせる!」
奴の剣術に、魔法をさばきながらの戦い。
正直かなり苦戦を強いられるとは思うが
私は決して諦めない。
少しずつ距離を詰め、確実に奴の意識を断つ!
私は剣を構えた。
だが―
「当たらなければ意味がない・・・たしかにそうだ。 だが―」
そう言うと、魔人は右手をアイラが横たわっている方へ向けた。
「なに!」
「これではどうかな!」
魔人はアイラに向けて―
「ギガ・フレイム・ゼブラ!」
そう言って渦上に巻きあがる火炎魔法を打った。
「貴様あああああああ!!!」
ダンッ!!!
私は地面を蹴り、アイラに覆いかぶさった。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「ぐっ・・・」
ジュウウウウウウウウウウウウウ・・・
私は背中で奴の火炎魔法を受け止める。
背中が・・・焼けるように痛い。
・・・だがそれと同時に
リファレンが託してくれた、精霊の加護により
背中に負った焼け傷が、またたく間に治癒している。
リファレンが・・・私を守ってくれている!
魔人は少し驚いたように口を開く。
「焼けた瞬間に傷が癒えている・・・なかなかの回復速度だ。 だが見るからに、それは相当の魔力を使うようだな。 ハハハハ・・・いつまで魔力が持つか・・・我慢比べといこうか!」
そう言って、魔人は火炎魔法を連続して唱えた。
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!
私は背中で、何度も何度も奴の魔法を受け続ける。
耐えろ・・・耐えるんだ・・・
私がここを離れれば・・・アイラが殺されてしまう。
「ハハハハ、いい眺めだ。 もっとだ・・・もっと俺を楽しませろ!」
私は魔法を受けながら、必死にお父様に呼びかけた。
「お父様・・・目を・・・目を覚まして・・・ください! 魔人なんかに・・・負けないで!」
だが無情にも・・・私の声はお父様には届かない。
「無駄だ! 何度言えばわかる! こいつには何も聞こえていない! こいつの体は、もう俺の物なんだよ!」
魔人はそう言って、さらに速度を上げ魔法を唱える。
くっ・・・このままでは魔力が持たない。
どうする・・・どうすれば・・・
「ほらほらどうした! 魔力が薄れているぞ! 回復も追いついていない! そろそろ限界か? 俺をもっと・・・楽しませろ!!!」
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
負けてなるものか・・・
リファレンが・・・
繋いでくれた命だ。
私は絶対に・・・諦めない!
「はああああああああああああああ!!!」
私は声を上げ、奴の魔法に耐える。
だが―
シュウウウウウウウウウ・・・
くっ・・・
魔力が・・・底をついた。
私を守ってくれていた
精霊の加護が消えた。
魔人は、一度魔法を止め、不敵に笑いながら口を開く。
「存分に楽しませてもらった。 そろそろ終わりにしよう」
そう言って、魔人は巨大な魔法陣を展開させる。
あんなものを食らっては・・・
ひとたまりもない。
くそっ・・・
ここまでなのか・・・
リファレンが・・・私に命を繋いでくれた・・・
私に・・・戦う力をくれたというのに・・・
全てが無駄になってしまう。
悔しい・・・悔しい・・・
「これで・・・終いだ!!!」
魔人がそう言って、魔法を唱えた。
せめて、アイラだけでも!!!
私は体に力を入れ、アイラに覆いかぶさる。
リファレン・・・ごめん・・・
そう、心に思ったその時―
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
という、耳を塞ぐような轟音が鳴り響き、屋敷が揺れた。
そして―
「エミリ、遅くなってすまない!」
私はハッとすぐさま振り返る。
そこには―
私を打ち負かし、リギルから私を救ってくれた
ユーリの姿があった。




