49話 魔人戦⑩ リファレンの加護
*エミリ*
「お前を初めて見たとき、私は驚いた。 お前はあまりにも・・・私の妹に似ていた。 とっくの昔に死んでいるはずの・・・私の妹に・・・」
リファレンは一呼吸おいて続ける。
「私はとてつもなく嬉しかった。 私が精霊となって、長い間この地に住み着いていたのにも・・・ちゃんと意味があったんだ・・・そう思った。 お前と出会えたおかげで、私の心は救われたんだ」
リファレンが笑顔を向けてそう言った途端
リファレンの体が光始めた。
「リファレン・・・その光は一体・・・」
「もう・・・時間のようだな・・・」
「・・・時間? 一体どういうことだ?」
「さっきも言ったが、私はあの湖の精霊だ。 あの湖の壁を強制的に抜ければ・・・この世界から消えてしまう」
「なっ・・・そんな・・・」
「それでも私は・・・私の命に代えてもお前を守りたい・・・お前に死んでほしくなかった。 だから私は、万が一の時に備えてお前に魔法をかけておいた。 お前の身に何かあった時に・・・助けてあげられるように・・・」
私が魔人にやられたから・・・
こんなボロボロになってしまったから・・・
リファレンはあの湖から離れて・・・私の元へかけつけてくれた。
私のせいで・・・
リファレンが消えてしまう。
悔しさと悲しみが同時にこみあげ、私は頬を濡らした。
「今まで苦しい想いを・・・たくさん抱えて・・・生きてきたというのに・・・私のせいで・・・リファレンが・・・そんな・・・ひどすぎる。 それでは・・・リファレンは・・・報われないじゃないか・・・」
私は膝を落とし、地面に手をついた。
私のせいだ・・・
私が弱いから・・・
リファレンが・・・
私の大切な人が消えてしまう。
「エミリ・・・それは違う」
リファレンは姿勢を下げ、私の肩に手を置いた。
「エミリのせいでは決してない。 自分の命に代えても大切な人を守りたい・・・たとえ自分が死んでしまっても、その人には笑顔で生きていて欲しい。 そう思うのは、自然のことなんだよ。 それにね、私はもう報われているよ。 お前に出会えて、お前に剣を教えることができて本当に幸せだった。 私の存在が少しでもお前の役に立てて、本当によかった・・・私は心から満足している。 だからエミリ、どうか顔を上げてくれ」
リファレンの言葉で、私は顔を上げた。
リファレンは優しく、満足そうな表情を私に向けていた。
「うう・・・リファレン・・・」
「エミリ、私の全魔力と精霊の加護をお前に授ける。 だからエミリ・・・絶対に勝つんだ。 絶対に死なないでくれ・・・これが私からの・・・最後の願いだ」
「そんな・・・最後だなんて・・・嫌だ・・・消えないでくれ・・・リファレン・・・どうか・・・ああ・・・」
リファレンの両手が光の粒となって消えていく。
私は思わずリファレンに抱きついた。
「リファレン・・・私の方こそ・・・あなたをお姉さんのように想っていた。 私は・・・特級騎士になって・・・あなたに・・・胸を張って報告できる日を・・・夢見ていた。 リファレン・・・お願いだ・・・どうか・・・消えないでくれ・・・お別れなんて・・・嫌だ・・・ああ・・・」
リファレンも涙をこぼしながら口を開く。
「ありがとう・・・そんな風に私を想ってくれて・・・本当に・・・ありがとう」
リファレンは優しく、私を包み込むように抱きしめる。
「お前は強い子だ。 お前なら立派に、自身の目的を叶えられる。 特級騎士になれる。 私はそう信じている」
「うう・・・ううう・・・」
「エミリ・・・私はお前をいつも見守っている・・・お前が特級騎士になった姿を・・・ちゃんと見ているからね」
「・・・うう・・・はい・・・」
私はなんとかそう言った。
リファレンは満面の笑みを向けた。
そして―
リファレンの体が瞬く間に光の粒になって消えていった。
「リファレン・・・ああ・・・ああああああああ」
私は泣き崩れながら、眩く大きな光に包まれた。
***
「やっと落ちたようだようだな。 人間のくせにてこずらせやがって・・・。 まあいい、なかなか屈強な精神を持った人間だった。 肉体もかなり鍛えられている。 よし、試しに少しだけ動かしてみるか」
魔人がそう言った途端
ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
エミリの体からもの凄い勢いで魔力があふれ出した。
「なんだ・・・この魔力は」
魔人はエミリの体から放出される魔力の勢いに押され
後ろに下がり距離を取った。
そして、エミリが立ち上がる。
涙で頬を濡らしながらも・・・
強い闘志を心に宿して。
「俺の魔眼を自力で解いたというのか? バカな、そんなことはあり得ない。 ましてや人間ごときの分際で・・・」
シュウウウウウ・・・
エミリの全身の傷が、瞬く間に治癒していく。
「何だと・・・俺が与えた傷がみるみるうちに治癒している。 魔人ならまだしも、これほどの治癒能力を持った人間を見たことはない。 一体どうなっている・・・奴の体に何が起きたというんだ」
エミリは声を震わせながら口を開いた。
「お前だけは・・・絶対に許さない。 よくも・・・よくも・・・」
エミリは魔人を睨みつけて
「絶対に・・・お前をたたき斬ってやる!!!」
そう大声を上げた。
「ふん・・・調子にのるな人間風情が。 傷が治癒したところで、俺とお前の力の差は歴然だ。 どうあがいたってお前は俺には勝てないんだよ!」
そう言って魔人はもの凄い速さで間合いを詰め、エミリに向け剣を振った。
ガキンッ!!!
「なに・・・」
エミリはそれに対応し、受け止めた。
「なら、これならどうだ!」
そう言って魔人は、先ほどエミリを斬り刻んだ時と同様
またはそれ以上のもの凄い速さで連撃を繰り出してきた。
ガキンッ! ガシャンッ! ガチンッ!
だがエミリはそれさえも対応し、受け流している。
そして―
「はあああああああああああ!!!」
エミリは声を上げ、魔人の剣を弾き返した。
「なに―」
魔人は後退し、エミリから距離をとった。
「これで終わりだ・・・」
エミリはそう言って、自身の視線と同じ高さまで剣を上げ、剣先を魔人に向けた。
「少し動きに対応できたぐらいで調子に乗るな! もうお前の体のことなど気にしない・・・全身の骨を折り、お前の断末魔をこの屋敷内に響き渡らせてやる!!!」
そう言って魔人は再びエミリに間合いを詰めた。
「水無月流・奥義―」
エミリがそう言った瞬間、辺り一面の景色が変わる。
ブンッ!
魔人の剣が空を斬る。
「なに・・・どこに消えた。 それにこの景色は何だ? 海―」
魔人がそう言った次の瞬間―
「水天一碧」
どこから現れたのか、エミリはもの凄い速さで魔人に間合いを詰め―
ブスッ!!!
「がはっ―」
「はああああああああああああ!!!」
ダアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!
エミリは目に止らぬ素早い突きで、魔人の心臓を突き刺し
後方の壁もろとも吹き飛ばした。




