46話 魔人戦⑦ リファレン
*エミリ*
私は立ち上がり、口を開く。
「リファレン・・・どうして・・・ここに」
私はそう言ったところで、辺りを見渡した。
・・・ここはどこだ?
私は見覚えがない場所に立っていた。
周り一面、真っ白で・・・私の下は・・・
「わっ・・・」
驚いて声が漏れてしまった。
それもそのはず―
私は・・・
水の上に立っていた。
私だけではなく、リファレンも同じように水の上に立っている。
というより・・・
私が見渡せる範囲は・・・下は一面、水だった。
・・・巨大な湖の上に立っていると言った方が正しいだろうか。
私があたふたとしていると、リファレンは私の心を読んだかのように口を開く。
「そんなに驚かなくても大丈夫・・・沈んだりなんかしないよ。 ここはお前の心の中だからな」
・・・え?
「な、なんだと? ・・・リファレン・・・私をからかっているのか?」
私がそう言うと、リファレンは笑みをこぼしながら答える。
「ハハハハ・・・誰もからかってなんかいないよ。 エミリだって、水に浮かんだことや・・・この場所にだって見覚えはないだろ?」
「た、たしかにそうだが・・・。 心の中というのは・・・にわかには信じられない」
「たしかに、急にそんなことを言われても・・・信じられないよな。 だがエミリ・・・あれを見てみろ」
リファレンは少し真剣な表情を向け、私の後方へ指を指す。
私は振り返り後方を見つめる。
「な、何だ・・・あれは・・・」
遠くの方から・・・黒いドロドロとした液体が辺りを侵食するかのように、徐々に広がりながらこちらに近づいてくる。
ここからかなり離れているが、あの液体がこちらに来るのに、そう長くはかかりそうにない。
「エミリ、あれにここが侵食されれば・・・お前の精神は魔人に乗っ取られる」
「ま・・・魔人・・・? 一体、何を・・・・・・!!!」
私は、ハッとここまでのことを思い出した。
そうだ!
私は屋敷で、魔人と戦っていたんだった。
そして私は、奴の魔眼にかかり・・・気がつけばここに来ていた。
そういえば、私は何事もないように自然と立っているが・・・痛みが消えている。
私は全身を見回した。
傷が消えたわけではないが、痛みなどは微塵も感じない。
リファレンの言った通り・・・
ここは私の心の中なのか?
いや、それよりも―
「どうしてリファレンが・・・魔人のことを知っているんだ? それに、私の心の・・・中になんて・・・」
「それについてだが・・・エミリ・・・時間がないから手短に話すよ。 どうか驚かないで聞いてくれ」
「あ、ああ」
リファレンは真剣な表情を向けて、話始めた。
「私は、エミリに万が一のことがあったときの為に、ある魔法をかけていた。 それがいま発動し、私は今こうしてお前の心の中に現れたというわけさ。 魔人や、屋敷でのことについては、先ほどエミリの記憶を読ませてもらった。 勝手に記憶を覗いたことは、どうか許してくれ」
・・・驚かないというのは無理な話だが。
なるほど・・・あらかた理解は出来た。
「ああ、それはいいんだが・・・どうして私に魔法なんかを・・・」
そう言うと、リファレンは笑みをこぼしながら口を開く。
「そんなのは簡単なことさ・・・私はエミリに生きていてほしい。 エミリの願いを・・・叶えてほしいからさ」
リファレンは一呼吸おいて続ける。
「私はねエミリ・・・あの湖に住み着いていた・・・精霊なんだ」
な、なんだと・・・
「せ・・・精霊?」
精霊というのは、あの・・・
小さな頃に読んでいた、童話の絵本なんかに出てくる・・・あの精霊か?
あれは架空のものではなく、実在しているのか?
そもそもリファレンが精霊ということに・・・頭がおいつかない。
「まあ精霊とは言っても・・・実際のところ・・・亡霊と言った方が正しいかな」
「ぼ・・・亡霊? リファレン、一体どういうことなんだ?」
リファレンは苦笑いをしながら私に告げる。
「私は・・・200年前にすでに死んでいるんだよ」
「な、なんだと・・・」
私は驚きを隠せなかった。
リファレンは続ける。
「私は醜くも、この世に未練を残してしまい・・・精霊となってあの湖に住み着いた。 だから私には実体がなく、誰の目にも私は映らない。 それに、本来なら私はあの湖から離れることだって出来ないんだ」
リファレンの口から様々な驚愕な事実が発せられ、正直理解が追いつかない。
リファレンは200年前に死んでいて・・・精霊となって・・・あの湖に住み着いた。
・・・考えてみればリファレンはいつも決まって、あの湖にいた。
あの湖以外でリファレンに会ったことはない。
離れたくてもあの湖から離れられなかったというのか。
だが―
「だ、だが・・・実体がないと言っても、私にはリファレンが見える。 それにリファレンは自ら剣を取り、私に剣を教えてくれたではないか」
「私も驚いた。 200年の間で・・・私のことが見えたのはエミリ、たった一人だけだった。 私はエミリにそれを悟られないように、他の人の目があるときは、お前の前から姿を消した。 それに剣の訓練では、あたかも私に実体があるかのように魔法で感じさせていただけなんだ」
「そ、そうだったのか・・・」
確かに・・・
リファレンと会っているときは周りに人はいなかった。
私に感づかれないように、他の人がいるときには姿を現さなかったということか。
リファレンは、とても優しい表情を向けて続ける。
「エミリ・・・お前は私の妹によく似ている。 初めてお前に会ったとき、私は嬉しかった。 妹が私を迎えに来てくれたのかとも思った。 まあ実際話してみれば、お前はかなりの負けず嫌いで・・・性格は私の妹とは似ても似つかないんだがな・・・ハハハ」
リファレンは幸せそうに笑った。
リファレンはそんな風に私を見ていたのか。
だから初対面の、しかもこどもだった私の話を、あんなにも真剣に聞いてくれたのだろうか。
リファレンは「それに―」と続ける。
「5年前に、お前の話を初めて聞いた時・・・あまりにも私の生前の境遇と似ていてな・・・どうしてもお前を放っておくことが出来なかった。 だから私は、お前に剣を教えたんだ」
そうだったのか・・・。
だが―
「境遇が似ているというのは・・・どういうことだ?」
「そうだな・・・。 少しだけ、私の生前の話を聞いてくれるかい?」
「ああ」
リファレンは笑みを浮かべて続けた。




