45話 魔人戦⑥ 魔眼
*エミリ*
「水無月流 ―睡蓮の舞―」
私は四方八方に移動しながら、魔人に斬りかかる。
「ほう・・・一見、数人に分身したように見える・・・だが―」
ガキンッ!!!
「くっ・・・」
魔人はどこから出したのか分からないが、黒色の剣で応戦する。
「所詮は残像・・・そんな小細工・・・俺には通用しない!」
そう言って、私の剣を弾く。
私は勢いで、少し後ろへ後退させられるが・・・
「まだだ!」
私は続けて魔人に何度も斬りかかる。
ガン! ガシャン! ガキンッ!
だが、魔人は私の剣撃を全て受け流していく。
くっ・・・こいつ・・・
動きが速いだけではない。
剣の腕もかなりのものだ。
あと一歩・・・斬りこめない。
「お前の剣の腕はなかなかのものだ・・・だが所詮は人間。 俺たちには通用しない!」
そう言って魔人は、鋭い剣裁きで猛攻を繰り出してきた。
ガキンッ! ガシンッ!
は、速すぎる!
対応するので精一杯だ。
私は魔人の剣撃をなんとか受け流していくが―
ジャッ! ザッ!
「うう・・・」
奴の剣が、私の肩と腰をかすめた。
「ほらほらどうした! こんなものか!!!」
そう言って、魔人はさらに速い速度で猛攻を繰り出してきた。
まだ速くなるのか!
「はあああああああああ!!!」
私は声を上げ魔人の剣撃を迎え撃つ。
だが―
ザクッ! ザンッ! ブシュ!
魔人の剣撃が私の全身を襲う。
「ああああああああああああああああああッ・・・」
「つまらん。 所詮は人間・・・やはりこの程度か!」
そう言って魔人は、私に鋭い蹴りを入れた。
メキィィィッ!!!
「うっ―」
ダアアアアアアアンッ!!!
私は後方の壁まで吹き飛ばされ、床に倒れる。
「ぐ・・・ぐぐ・・・」
早く・・・体勢を立て直さねば・・・
私は体を起こそうとするも―
「う・・・ううっ・・・」
・・・全身が・・・痛い・・・
致命傷ではないが・・・
奴に全身を斬られた。
体のいたるところから出血している。
だが・・・ここで・・・負けるわけにはいかない・・・。
私はサラを・・・助けるんだ・・・
私は剣を握り、再び立ち上がろうとするも―
「ぐぐ・・・ぐぐぐ・・・」
左の肋骨の辺りにものすごい激痛が走った。
くっ・・・
骨が・・・折れているのか・・・
だが・・・それでも・・・
「ああああああああああああああ!!!」
私は必死に痛みを堪えながら膝を立てた。
立て・・・立って剣を構えるんだ!
「ほう・・やはりタフな人間だ。 お前のような精神を持った人間は嫌いではない」
魔人は何か閃いたように両手をパンッっと叩く。
「そうだ! あの方の元へ送る前に、お前を俺の人形にしてやろう。 俺の人形になれば、お前は自我を失い、その痛みすら感じなくなる・・・そうだ・・・そうしよう」
魔人はニヤリと笑いながらそう言った。
「誰が・・・お前の人形になんか・・・なるものか!」
「これは決定事項だ・・・お前の意思は関係ない」
そう言うと、魔人は瞬時に私の前に移動した。
くっ・・・
はやく立って構えなければ・・・
だが、そう思ったつかの間
ガッ!
「俺を見ろ」
魔人は私の頭を掴み、無理やり視線を合わせる。
そして黒色だった魔人の目が瞬時に紫色に光った。
すると次の瞬間
私の脳内へ奴の声が直接流れこんできた。
「なんだ、これは・・・」
私は反射的に耳を塞ぐ。
「無駄だ・・・お前はもう俺の魔眼にかかった。 俺の魔眼を自力で解いたやつはいない・・・諦めろ」
「魔眼だと・・・何を言っているんだ」
ぐるぐると景色が回っているような感覚に陥り
・・・気持ちが悪い。
「俺の魔眼はありとあらゆる生物を催眠・操作できる。 ・・・だが、俺の魔眼の真の能力はそれではない」
何だ、これは・・・
奴の声を聴いていると、強烈な睡魔に襲われる。
「俺の真の能力・・・それは、操作している生物の・・・脳のリミッターの解除。 生物の脳は全て、脳が傷つかないようある程度の所でリミッターがかけられている。 つまり、全ての生物は、己の100%の力を引き出すことは出来ない。 だが、俺の魔眼はそれを可能にする。 俺の人形は全て、通常では到底出せないスピードとパワーを引き出すことが出来る。 そして傷さえも、通常の何倍もの早さで治癒することができる」
そういうことか・・・
「お父様の・・・あれほどのスピードとパワー・・・そして人並外れた耐久力は・・・この魔眼によるものだったというのか・・・」
「そういうことだ。 お前も早く楽になれ・・・お前の痛みを俺が取り除いてやる」
「ふ・・・ふざけるな・・・貴様の思い通りに・・・決してなるものか」
私は必死に睡魔に耐える。
だが・・・
どんどん眠気が強くなっていく。
一体、どうすれば・・・
この状況を打破できるんだ。
どうすれば・・・
「お前のような人間は嫌いではない。 なんとも惜しい話だ・・・あの方にさえ選ばれていなければ・・・永遠に俺の人形にしてやれたものを・・・」
くっ・・・
ダメだ・・・
瞼を閉じたつもりはないのだが・・・
どんどん目の前が暗くなってきた。
私には・・・こいつは・・・倒せないのか・・・
私には・・・誰も守れないのか・・・
くそ・・・
悔しい。
無力な自分に嫌気がさす。
今回のことだけではない。
私は特級騎士になって、レンガーデン家を守ると言っておきながら・・・
いまだにその目標を達成できていない。
私がどれだけ頑張った所で・・・
私にはきっと、何も成し遂げられないんだ。
私には最初から・・・
レンガーデン家を救うことなんて出来なかった。
サラ・・・お父様・・・
アイラ・・・ルミナさん・・・
ごめんなさい・・・
私には・・・誰も救うことが・・・出来ない
ごめん・・・なさい・・・
私には・・・
誰も・・・
「ハハ・・・ハハハハハハハハハハハ。 いいぞ、あともう少しだ」
目の前は完全に真っ暗になり、私の意識は遠のいていく。
誰だったか?
誰かの声が聞こえる。
私は何をしていた・・・
・・・わからない・・・
いや・・・もうどうでもいい
眠りたい・・・
疲れた・・・
眠り・・・たい・・・
意識が遠のき、瞼を閉じようとした瞬間―
「エミリ」
・・・誰だ?
「エミリ・・・目を開けろ」
誰だろう・・・この声・・・
どこか懐かしいような・・・
「エミリ・・・目を開けるんだ! 諦めることは許さない・・・私はそんな風にお前を鍛えた覚えはないぞ」
・・・こ・・・この声は・・・
!!!!!!
私は反射的に目を開けた。
「やっと目を開けたか・・・よう! 久しぶりだな!」
「あ・・・あなたは・・・」
私の目の前には
私に剣を教えてくれた
リファレンの姿があった。




