43話 魔人戦④
*エミリ*
落雷のような轟音と共に、屋敷が大きく揺れる。
ガクッ
「何だ?」
お父様は揺れで少し足を取られ、私から視線を外しそんな言葉を漏らした。
私はお父様のこの一瞬の隙を見逃さなかった。
私は体を大きく振り、お父様の後頭部めがけて蹴りを入れる。
ブンッ!
お父様は蹴りに気づき、私の首を締め上げている手を離して、蹴りを避けた。
「くっ・・・」
私は地面に着地すると、すぐさま振り向き―
ダンッ!
アイラの首へ手刀を入れた。
アイラは意識を失うようにその場へ倒れる。
そして、すぐさまお父様の方へ振り返った。
「スゥー、ハァ~・・・スゥー、ハァ~」
私は呼吸を整えながら、剣を構える。
先ほどの轟音・・・あれはきっとユーリが放ったものだ。
私はまた、お前に助けられた。
・・・ありがとう・・・
私は大きく息を吸いこみ、ぐっとお父様を睨みつける。
ユーリが技を出すということは、おそらくユーリも誰かと戦っているんだ。
この戦いを終わらせて、早くユーリと合流しなければ!
そう考えていると
お父様は気に食わないような顔を向けて口を開いた。
「さっさと落ちていればいいものを・・・私の手を煩わせるな」
お父様は怒りを帯びた声色でそう言った。
・・・だが、怒りで狂いそうなのは私も同じだった。
「お父様だけでなくアイラまで・・・魔人め!!! 絶対に許さん!!!」
私は大声でそう言った。
「許さないからどうだと言うんだ・・・貴様が私に勝つことなど・・・あり得ない」
そう言うとお父様はブツブツと詠唱を唱えた。
そして―
ゴオオオオオオオオオオオオオオ
っと、お父様が持っている剣が黒い炎で包まれた。
なんだ・・・あの黒い炎は・・・
私が知っている火炎魔法に・・・あんなものはない。
それに、この禍々しい歪な魔力・・・なんとも気味が悪い。
「これで終いだ」
お父様がそう言うと、黒い炎がさらに大きく膨れ上がり、巨大な炎の大剣と化した。
あれは、リギルが闘技場で見せたものとは桁違いのものだ。
あんなものを食らったら、ひとたまりもないぞ。
・・・どうする・・・
「おとなしく眠っていろ」
そう言ってお父様は腰を低く落とし、剣を構える。
臆するな!
考えても仕方がない。
私は・・・
私にできることを全力でやるだけだ!!!
私はそっと目を閉じた。
すると―
「諦めたか・・・いい判断だ。 安心しろ、貴様はあの方へ送る身。 急所は・・・外してやる!!!」
ダンッ!!!
そう言ってお父様は、もの凄い速さで突っ込んできた。
私は全神経を集中させ、お父様が私の間合いに入る瞬間を捉える。
そして―
「水無月流 ―霧消流斬―」
ザンッ!!!
私を狙って振り下ろされたお父様の剣が、空を斬る。
「なにっ・・・消え―」
シュンッ!
私はお父様の背後に立ち―
ダンッ!
「ぐはっ・・・」
剣の柄頭でお父様の首を強く打ちつけた。
そしてお父様は、意識を失うようにその場へバタンと倒れた。
良かった・・・
何とか、お父様の意識を断つことが出来た。
水無月流 ―霧消流斬―
・・・これは相手が自分に攻撃をぶつける直前、まるでその場から消えるように霧の中に姿を消し、相手の背中を斬るカウンターの技だ。
私は背中は斬らず柄頭で首を打ちつけて、お父様の意識を断った。
正直、ギリギリだったが・・・上手くいって良かった。
そんなことを考えていると―
「ほう・・・俺は少しばかり・・・お前を侮っていたようだ」
私は声のする方へ振り返った。
すると、部屋の入口から一人の男が歩いてきた。
「貴様は!!!」
私の視線の先には、お父様が一か月前から雇った秘書の姿があった。
秘書はおよそ180cmほどの背丈をしており、黒髪だ。
外見は、そこらへんにいる人と何ら変わりないのだが・・・首に入れ墨のような模様がある。
ユーリの話だと、この模様が魔人である確証らしい。
それに、一か月前には気づかなかったが・・・
なんて気味の悪い、歪な魔力を放っているんだ。
この魔力で分かる・・・人は、こんな気味の悪い魔力は放たない。
こいつが、お父様やアイラを操り・・・
妹の命を脅かしている、魔人で間違いない!!!
私はとっさに剣を構えた。
「俺の人形が二人ともやられるとは・・・正直誤算だった」
誤算だと?
・・・何を・・・言っているんだ!!!
私は怒りを抑えられず、魔人へ向けて大声を上げた。
「ふざけるな! 私のお父様と、アイラはお前の人形などではない! 魔人め・・・ここでたたき斬ってくれる!!!」
ダンッ!!!
私は床を強く蹴って、魔人に斬りかかった。
「水無月流―」
だが―
サッ!
「なっ―」
魔人は瞬時に私の目の前に現れ、私の腹部に殴打を入れた。
ガンッ!
「ぐはっ―」
ダアアアアンッ!!!
私は殴打の衝撃で、後方の壁まで飛ばされた。
何だ・・・今の動きは・・・
速すぎる・・・
私が剣を振るうよりも・・・速い。
いや、考えてる場合じゃない。
はやく立って、構えなければ!
私は痛みを堪えながら、立ち上がった。
「タフな人間だ・・・あの方に選ばれた理由も、今なら頷ける」
魔人は目をつむり、一人で頷く。
「貴様は・・・なぜレンガーデン家を・・・妹を狙う!」
私は剣を構えてそう言った。
「お前は何を言っているんだ? お前の家や、お前の妹など俺たちの眼中にない・・・俺たちの標的は・・・」
魔人は私に指を指して、続ける。
「お前だ、エミリ・レンガーデン」
「な、何だと・・・」
私は驚きを隠せなかった。




