41話 魔人戦②
*エミリ*
お父様が壁にぶつかった衝撃で本棚が崩れ、バラバラとお父様の上に本が落下する。
・・・やりすぎてしまった。
操られているとは言え、相手はお父様だ。
水無月流 ―水流石穿脚―
・・・これは高密度な魔力を足に込め、真っすぐ穿つように繰り出す蹴り技で、剣を持たぬ技では最も威力が高い。
私は追い込まれて、つい繰り出してしまった。
・・・肋骨が折れていてもおかしくはない。
「お父様―」
私がお父様に近づこうとしたところで―
「今のは、少し効いたな・・・」
そう言って、お父様が立ち上がった。
「何・・・だと・・・」
お父様はやれやれといった具合に、私の技が効いた様子はなく、パタパタと肩にかかった埃を振りほどいていた。
・・・手ごたえはあった。
確実に技は、お父様に当たった。
それなのに・・・まるで効いた様子がないだと・・・
お父様は首をボキボキと鳴らしながら呟くように口を開いた。
「なかなかの魔力だ・・・あの方に選ばれた理由が、少しだけわかった・・・」
あの方に・・・選ばれた?
奴は何を言っているんだ。
「一体何の話をしているんだ!」
お父様は首を鳴らすのをやめ、私に視線を合わせた。
「だから何度も言っているだろ・・・貴様が知る必要はない」
お父様はそう言って、壁に取り付けられている護身用の剣を手に取った。
剣先を手で触りながら―
「出来るだけ傷をつけたくはなかったが・・・仕方ない!」
お父様はそう言って、もの凄い速さで剣撃を繰り出してきた。
私も剣を抜き、応戦する。
ガンッ! カキンッ! ガシンッ!
剣と剣がぶつかりあい、鈍い音が部屋中に響き渡る。
お父様の剣撃一つ一つが重く、そして素早い。
お父様は剣撃を繰り出しながら、口を開く。
「ほう・・・魔力だけでなく、剣の方もなかなかの腕前のようだ・・・なあ!!!」
そう言って、お父様は強力な一撃を繰り出す。
私は後方へ宙がえりして、それを避けた。
・・・お父様は若い頃、かなり腕の立つ上級魔法師だったとお母さまから聞いたことがある。
私が幼かったころ、お父様によく魔法を見せてもらっていたのも覚えている。
・・・だが剣に関しては、お父様は素人同然だ。
お父様が剣を振っているところなど一度も見たことがない。
だが・・・目の前のお父様は、とても素人とは思えない剣裁きで、私に鋭い剣撃を繰り出している。
それに・・・このパワーとスピード、私の技を食らっても平然としているあの耐久力・・・どこか人間離れしているように感じる。
魔人は、お父様をただ操っているというわけではないのか?
そうこう考えていると―
ダンッ!!!
お父様は私に向かって鋭い剣撃を繰り出してきた。
そして―
ザクッ!
っと、お父様の剣先が私の右肩へ少しかすめた。
「くっ・・・」
私は痛みを堪えながらも、お父様の剣撃を迎え打つ。
「どうした・・・この程度か!」
お父様は剣撃を繰り出しながらそう言った。
分からないことをあれこれと考えても仕方がない。
とにかく今は、目の前のお父様に集中するんだ。
「はああああああ!」
私は声を上げながら、お父様へ鋭い一撃を加えた。
「ぐっ」
お父様は剣で防ぐが、衝撃で後方へ下がる。
私は大きく深呼吸し、剣先を床につけ、体をねじり構える。
全身の魔力を刀身へ込める。
・・・お父様のあの耐久力だ。
私が全力で技を出しても、お父様の体はきっと大丈夫。
それに・・・全力を持って打たなければ・・・おそらく通用しない。
この一撃で決める!!!
お父様は体勢を立て直し、口を開いた。
「ほう、技を出すか・・・やってみろ・・・フフフ」
お父様は不敵な笑みを浮かべながら、私の剣撃を待つようにその場に突っ立っている。
・・・完全に私を侮っている。
だが、その油断が命取りになるということを・・・
この一撃で叩き込んでやる!
「水無月流―」
「まあ、技が出せればの話だがな―」
お父様が、かぶせるようにそう言った瞬間
ガンッ!!!
という鈍い音と、激しい痛みが私を襲った。
「がっ・・・」
脳が揺れ・・・視界がぐらつく。
私は床に膝をついた。
頭が痛い・・・
後頭部を何かで殴られたようだった。
私はゆっくりと後ろへ振り返る。
するとそこには―
「アイラ・・・どうして・・・」
アイラが椅子を持って立っていた。
アイラは虚ろな目で、まるで感情がこもっていないような冷たい表情のまま口を開かない。
あの椅子で私を殴ったのか・・・
・・・だが、アイラが私にこんなことをするはずがない。
アイラもお父様同様・・・魔人に操られていたのか・・・。
いや・・・アイラだけではない。
ユーリが言っていた通り・・・この屋敷の者は全員、魔人に操られているのかもしれない・・・。
くそ・・・早く立って、構えなければ・・・。
私は足に力を入れ、立ち上がろうとするが―
「あ・・・」
目の前の景色が、ぐらぐらと揺れ、再び膝をつく。
まずい・・・どうする・・・。
だが、次の瞬間―
ギイイイイイイイイイイ
「ぐ・・・」
お父様が私の首を握りしめ、高く持ち上げた。
・・・い、息が出来ない・・・
私は必死にお父様の手を振りほどこうともがくが、もの凄い握力で握られびくともしない。
この状況は・・・まずい・・・
何とかしなければ・・・
「ぐぐ・・・ぐぐぐ・・・」
私は必死にもがく。
だが―
「無駄な抵抗だ・・・さっさと落ちろ」
お父様は不敵に笑いながらそう言った。
くそ・・・
だめだ・・・全く振りほどけない・・・。
体内の酸素濃度が減り、視界は徐々に白くぼやけていく。
くそ・・・ここまでか・・・
ユーリ・・・サラ・・・すまない・・・
半場諦めかけたその時―
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!
という、まるで落雷のような轟音が屋敷中に鳴り響いた。




