37話 魔人
*ユーリ*
何やら、エミリが首にかけていた魔法具が赤色にキラキラと光っている。
あれは、確か・・・
俺がクエスト勝負に行く前に、エミリがくれた魔法具・・・その信号をキャッチするものじゃないのか?
俺がもらったものは緑色の宝石のようなものだった。
もちろん、俺は使っていないし・・・赤色に光っている。
それに、エミリはひどく動揺しているようだった。
「エミリ、どうしたんだ?」
「・・・そんな・・・」
エミリには俺の言葉がまるで届いておらず、取り乱している様子だった。
俺はエミリの正面に立ち、エミリの肩を軽く揺さぶる。
「おい、エミリ! しっかりしろ! どうしたんだ」
エミリの顔はひどく青ざめており、体は震えていた。
「妹が・・・妹の身に何か・・・」
「エミリ・・・一度落ち着くんだ、ゆっくりでいいから、説明してくれないか?」
エミリは俺と目が合い、ハッと我に返った。
そしてゆっくりと一呼吸つき―
「ああ・・・すまない」
そう言って、エミリは魔法具を握りしめて続ける。
「私は、この学校に入学する前・・・妹のサラに・・・二つの魔法具を渡していたんだ。 一つは青色の魔法具・・・何か困ったことがあったり、トラブルなどがあったときに私に知らせるようにと渡していた・・・だが、もう一つの・・・赤色の魔法具は・・・」
エミリは数秒の間を置き、続ける。
「・・・もし、自身の身が危ないと感じたとき・・・つまり命の危険を感じたときに私に知らせるようにと渡していた・・・つまり・・・サラの身に、何か・・・」
そういうことか。
「エミリの妹は、どこに住んでいるんだ?」
「サラは、私の実家・・・レンガーデン家の屋敷に住んでいる・・・だが屋敷にはお父様もいるし、ボディガードのルミナさんも一緒にいるはずだ・・・なのにどうして・・・」
家にボディガードもいるのか。
それに家にいるのなら・・・安全じゃないのか?
・・・なんだか嫌な予感がする。
「エミリ、最後に実家に行ったのはいつだ?」
「今から一か月前だ・・・それが、どうかしたのか?」
「その時、何か変わったことはなかったか? 何でもいい、教えてくれ!」
エミリは少し考えるように間を置いて、話す。
「変わったこと・・・そういえば・・・お父様が新しい秘書を雇っていた・・・私は知らない男の人だったな」
何だと・・・。
俺は自分の鼓動が早くなっていくのを感じながら、エミリに続けて問いかける。
「そいつの髪色は何色だ? 何か特徴はなかったか?」
「髪・・・髪は確か、黒色だった。 特徴・・・」
エミリは続ける。
「・・・そういえば、首に何か入れ墨のようなものを入れていたな・・・お父様はあまり、そういったものを好かないのだが、なぜあのような人を秘書にしたのか―」
やはり・・・
俺の嫌な予感は的中したようだ。
俺は声を大にしてエミリへ告げる。
「エミリ! その秘書というのは、おそらく魔人だ!」
だが―
「ま、魔人? ・・・魔人というのは一体、何なんだ?」
エミリはそんな疑問を俺に投げかけていた。
何を言っているんだ?
「魔人だよ! 魔人! この世界にうじゃうじゃといるだろ!」
俺がそう言った所で、アランも口を挟んだ。
「僕も魔人というのは、初耳だな・・・そいつは一体どんなやつなんだい?」
何だと・・・。
こいつら、魔人のことを本気で知らないのか?
俺は周りの生徒を見渡した。
「魔人って何だ? お前知ってるか?」
「いや、知らねえな・・・聞いたこともねえよ」
などとそんな声が聞こえてきた。
・・・そんな・・・
この学校の奴らは・・・魔人の存在を知らないのか・・・。
・・・というか、ここは北東最大の大国バラドールの学校だぞ。
そんな学校に通う、生徒たちが魔人のことを知らないということは・・・
魔人という存在は・・・世間一般では周知されていないことなのか?
俺は今までずっと、外でシルバーと旅をしながら、魔人と何度も戦ってきた。
俺は勝手に、魔人の存在はみんなが当たり前のように知っているものだと思っていたんだが・・・。
これは、認識を改める必要があるみたいだ。
俺は一呼吸置き、エミリとアランへ魔人について、説明した。
「魔人ってのは、いわば魔物の上に立つ存在だ・・・魔人は魔物と違って、人と同じように高度な知能があり、人と同じ見た目をしている」
俺がそういった所で、アランが口を開く。
「・・・人と同じ見た目をしている、その魔人とやらは・・・どこで見わけをつければいいんだい?」
アランはそんな疑問を俺に投げかけた。
「魔人はみな、エミリの父親の秘書のように、首筋に入れ墨のような模様が入っている・・・俺は、今まで外の世界で魔人と何度も戦ってきたが、みんな首筋に同じような模様が入っていて、例外はなかった」
それに、魔人と戦ったことがあるものはみな同じだと思うが
奴らが放っている歪な魔力、雰囲気、ニオイを俺は覚えている。
一目みれば、そいつが人なのか魔人なのかは判断できる。
アランは顎に手を置いて続ける。
「なるほど・・・その首筋の模様が目印ということか・・・それでは・・・エミリ君の屋敷の秘書が、君のいう魔人だと仮定して・・・その魔人はどうしてエミリ君の屋敷の秘書になったんだろうね・・・魔人の目的は何なんだい?」
・・・正直、俺にも魔人の目的は分からない。
だが、全てが謎に包まれているわけではない。
俺は・・・自身の故郷で起こったことを話した。
「俺はアキノ村という小さな村で生まれ育った。 決して裕福な村ではなかったが、みんな仲がよく、毎日がお祭り騒ぎで楽しかった。 だが・・・俺が・・・10の時・・・そんな楽しい日々は・・・一瞬で崩れ去った。 ・・・ある魔人によって・・・俺の家族・・・村人が・・・殺された・・・」
俺は少しだけ、当時の記憶が思い出され、怒りを帯びた声色になってしまった。
「な、なんだと・・・」
エミリは、動揺していた。
「あ・・・悪い・・・」
俺は冷静さを取り戻すように、一呼吸おいて続ける。
「・・・だが、その魔人は・・・なぜか俺の幼馴染だけは殺さずに、連れ去っていった。 俺は、その幼馴染を救うために・・・剣をとり、旅をしてきた。 そんな旅の最中に、俺の村と同様に、魔人による大量虐殺を受けた村など数件見てきた・・・そして、俺と同様にそんな状況から奇跡的に生き延びたある男がいた・・・そいつから聞いた話によると・・・そいつの村でも、ある一人の人間だけは殺されず・・・魔人に連れ去られていったという」
「どういうことなんだい? なぜ、魔人は大量虐殺をしておきながら、一人の人間だけを生かし、連れ去っていくんだろうね」
アランがそんな疑問を投げかけていた。
「理由はわからない・・・だが、ここで、俺たちの話にはいくつか共通することがあった・・・それは・・・俺の幼馴染も、そいつの村のさらわれた人も・・・二人とも、魔力が高く、どちらも若い女性ということだ。 俺の幼馴染・・・リリアも、誰かに教わったわけではなかったが、幼いころから、魔法が使えた。 しかも、恐ろしく強力な、高度な魔法だった。 ・・・つまり、魔人の正確な目的はわからないが・・・魔人は若く、魔力が高い女性を連れ去っているということだ」
俺がそう言うと―
「そ、そんな・・・私の妹も・・・魔力が高く・・・魔法が得意だぞ・・・」
エミリは体を震わせながら、そう言った。
「なるほど・・・あらかた理解はできたよ・・・それではとにかく、エミリ君の実家に急いだほうがよさそうだね」
アランは真剣な表情でそう言った。
「ああ。 エミリ、実家にはここからどれくらいかかる?」
エミリはハッと我に返ったように、俺に視線を合わせ、体の震えを止める。
「馬を使って、3時間ほどだ」
「馬か・・・馬なんてどこで借りれば―」
そういったところでアランが口を開く。
「馬は僕が手配しよう、君たちは学校の正門の前で待っていてくれ」
アランはそう言って、その場から消えた。
テレポートか?
その場から消えるというのは、相変わらず奇妙な感覚だ。
・・・いや、いまはそんなことを考えている場合じゃない。
事態は一刻を争う。
急がないと!
「エミリ!行くぞ!」
「ああ」
俺とエミリは闘技場を出ようとしたところ―
「ユーリ! ぼ、僕も行くよ!」
観客席からロミオの声が聞こえた。
俺は上を見上げ、ロミオと視線を合わせる。
「相手は魔人だ! ここの奴らが言っている、S級モンスターなんかよりも危険な相手だ! だから、ロミオは家で待っていてくれ!」
「で、でも・・・」
「大丈夫だ! 俺たちは絶対に無事に帰ってくる! ロミオは上手い晩飯を作って、待っていてくれ」
俺は笑顔を向けてそう言った。
「・・・うん、わかった・・・・・・気を付けてね!」
「ああ!」
すまない、ロミオ。
お前を・・・俺の友達を、危険な目に合わせたくないんだ。
俺は気持ちを引き締めなおし―
「行くか!」
そう言って、闘技場を後にした。




