34話 決闘② 雷轟一閃流
*ロミオ*
ダアアアアアンッ!!!
エミリさんの斬撃が結界へぶつかり、凄まじい音が場内へ鳴り響く。
衝撃が観客席にも伝わり、僕を含め周りの人たちは反射的に目をつぶった。
そして数秒後―
僕はゆっくりと目を開けた。
「そ、そんな・・・」
目の前の結界は、ヒビすら入らず元の状態を保っていた。
「な、何だと・・・」
エミリさんからはそんな声が漏れていた。
すると、リギルさんがニタニタと笑いながら口を開く。
「ふふふ・・・君たちがいくら頑張っても、この結界は外からは絶対に破壊すことはできないよ・・・まあ、私がこれを解かない限りは・・・たとえ中からだろうが破壊することは出来ないだろうけどね」
「おのれリギル! 勝負の前からこんな魔法を仕掛けているなど・・・貴様は騎士として恥ずかしくはないのか! こんなのは決闘ではない! 今すぐ中止しろ!!!」
エミリさんは大声でそう叫んだ。
「おかしいな~・・・私の記憶では、決闘の正式なルールの中に、あらかじめ魔法を仕掛けていてはいけないなどとは、一文も記されていないんだけどな~」
リギルさんはわざとらしく首をかしげて、そんな言葉を口にしていた。
・・・たしかに、リギルさんが言っていることは本当だった。
僕の記憶でも決闘のルールの中に、そんな表記はされていない。
・・・だけど決闘というのは、騎士や魔法師が自身の誇りと名誉をかけて、正々堂々と戦うもので、それはこの学校に通うものならばみんなが当たり前のことのように理解している。
決闘のルールの中にわざわざそんな禁止事項を設ける必要はない。
・・・だけどリギルさんはそこを逆手に取り、決闘のルールに反さずにこのような卑怯な手を講じてきた。
なんてズルくて、卑怯な人なんだ・・・こんな人が・・・上級騎士だなんて。
「くっ・・・騎士の風上にもおけない外道が! たとえ、ルールに反してないと言っても、こんなものが決闘だとは私は認めない!!! 絶対に止めてやる!!!」
エミリさんはそう言って、結界に向かって斬りこんだ。
ザンッ! ダンッ! ザクッ!
っと、エミリさんは何度も何度も、結界に向けて鋭い斬撃を与えていく。
・・・だけど、それでも結界は、破壊どころかヒビの一つも入らない。
「くそっ! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ!」
エミリさんは手を止めることなく、続けて斬撃を与えていく。
お願い、壊れて!
僕は祈るようにエミリさんの背中を見つめていた。
「ふふふ・・・無駄なことを・・・まあいい」
リギルさんはユーリに向かって両手を開き、続ける。
「これからはショータイムだ! ・・・さあ、君が泣きわめき、私に謝る姿を・・・ここにいる生徒の前で存分に披露してもらおうじゃないか・・・まあ、謝った所で、許してあげるつもりはないんだけどね・・・ふふふ、ふはははははははははははははははははは」
リギルさんは表情を崩し、お腹を抱えて笑い出した。
「・・・」
対するユーリは黙ったままだった。
するとリギルさんは笑いを止めて―
「おやおや・・・さっきまでの威勢はどうしたのかな? ・・・まさか、あまりの恐怖で正気を保てなくなっているんじゃないよな? ・・・ふふふ・・・まあ無理はないか・・・君がそこから少しでも足を宙に浮かせれば・・・その瞬間に・・・君の足はバァーン! と木端微塵に吹っ飛ぶからね・・・まあ、そんなことは、そこに立っている君が一番分かっているだろうけど・・・ふふふ」
「何だと!」
エミリさんは手を止めて、リギルさんの方へ視線を向けた。
「そりゃそうさ・・・この地雷魔法も、周りにはっている結界魔法も・・・6人の上級魔法師が、時間をかけて組み込んだものだからね・・・人の足なんて・・・それはもう簡単に吹っ飛ぶさ・・・ふふふ」
「そんな・・・」
僕はあまりの衝撃に声が漏れた。
あの大きさの魔法陣を見れば、恐ろしく強力なものだとは理解できる・・・
けれど、上級魔法師が6人がかりで組み込んだ地雷魔法なんて・・・そんなものが、足だけで済むはずがない。
それに、この学校には上級魔法師を全員集めてもわずか4人しかいない。
・・・つまり、ここにいるエミリさんはもちろん・・・この結界を破壊できるものはおそらくこの学校には誰一人いないだろう。
一体・・・どうすればいいんだ・・・。
すると、リギルさんは考えるようにあごに手を当てて続ける。
「さてと・・・君はそこから一歩も動けないわけだが・・・う~ん、どうやっていたぶってあげようか・・・火炎魔法を与え続けて炙り続ける・・・う~ん、それもいいが・・・君は確か・・・エミリ君を剣で一度負かしていたね・・・」
リギルさんは何か閃いたように両手を合わせた。
「そうだ! 私の模造刀に火炎魔法をありったけ付加させて、君の体を少しずつ炙りながら斬り刻んであげよう! ・・・ふふふ・・・模造刀だからといって、侮ってはいけないよ。 火炎魔法の付加のさせ方一つで・・・模造刀だろうが何だろうが肉と骨をたつほどの切れ味を作ることだってできるんだ・・・そして、君がその手に持っている・・・ただの模造刀で私に応戦してきたとしても・・・火炎魔法を付加している私の模造刀であれば、ほんの一太刀で君の模造刀なんて焼き切ってしまうからね~」
「くそっ・・・」
隣のエミリさんは悔しそうに体を震わせていた。
一体どうすれば、この決闘を止められるんだ。
考えろ、考えろ・・・何か・・・。
その時―
僕はふと、アラン会長のことを思いだし、視線をアラン会長へ向けた。
アラン会長は、観客席に座ったまま真剣な表情でユーリたちを見つめていた。
僕はアラン会長のところまで走った。
「ア、アラン会長! すみません、お願いがあります!」
アラン会長は視線を僕に向けて、口を開く。
「君は・・・ロミオ君だね、一体どうしたんだい?」
「アラン会長に、お願いが・・・。 その、ユーリを助け・・・いや、この決闘を止めてくれませんか? この決闘を止められるのは会長しかいないんです! どうかお願いします!」
僕は必死に頭を下げた。
アラン会長の空間移動魔法 ―テレポート― なら、この結界の向こう側へいけるんじゃないかと僕は考えた。
そして、アラン会長なら、あのリギルさんを止めることだって出来るはずだ。
「お願いします・・・」
僕は祈るように、再び頭を下げた。
数秒の間を置き、アラン会長は落ち着いた声色で話す。
「ロミオ君、顔を上げたまえ・・・たしかに、僕ならこの決闘を止めることは出来る・・・だが、この状況下で強引に決闘を止めれば・・・ユーリ君の負けになってしまうよ? それでもいいのかい?」
「そ、それは・・・・・・で、でも、このままじゃユーリが―」
「大丈夫さ、ユーリ君は負けないよ・・・僕には何となくわかるんだ・・・ユーリ君を信じよう」
アラン会長は笑顔を向けてそう言った。
・・・不思議な感覚だった。
アラン会長が大丈夫と言えば、なぜか本当に大丈夫な気がしてくる。
僕は少しだけ冷静さを取り戻して、再びユーリたちへ目を向けた。
「ユーリ・・・」
「・・・ふふふ・・・楽しみだな~・・・君は私にされるがまま、何も抵抗できず、少しずつ体に傷を負っていくんだ・・・そして、傷を負うたびに、君の断末魔が場内へ響き、恐怖と絶望で顔を―」
「さっきからごちゃごちゃうるせえよ!」
ユーリは大声でそう言った。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、好き勝手言いやがって・・・とにかく足を浮かせなければいいだけの話だろ! ・・・もう、何でもいいからさっさとかかってこい!」
ユーリはそう言って、剣を鞘に納めた。
そして―
ユーリは足を地につけたまま移動させ、足を前後に大きく開き、体をねじるように構えた。
いうなれば、居合切りのような構えだ。
リギルさんはニヤケ面を消して―
「ほう、この状況でもまだそんな口が利けるのか・・・なんとも頭の残念な平民だ・・・それじゃあお望み通り・・・君の体を炙り斬り刻んであげよう」
リギルさんはそう言って、火炎魔法を唱える。
ゴオオオオオオオオオオオオオオ
っと、激しい炎がリギルさんの模造刀に宿る。
「まだまだ!」
そう言って、リギルさんは何度も何度も火炎魔法を唱えていく。
「メガ・フレイム・コンプレス! メガ・フレイム・ベイル! メガ・フレイム・コンプレス! メガ・フレイム・ベイル! ふふふ、ふははははははははははははははははははははは」
リギルさんが火炎魔法を唱えるたびに、炎が激しく、大きくなっていく。
そして・・・まるで巨大な炎の大剣を持っているかのような大きさまでに炎が膨れ上がった。
あんなのはもはや模造刀ではない・・・。
ここから見ると、リギルさんはとても大きな燃えさかる炎をそのまま掴んでいるようにも見えてしまう。
そして、熱い。
リギルさんからかなり離れているのに、観客席にまで、熱気が伝わってくる。
「なんて熱さなんだ」
「こんなに離れているのに・・・なんて魔力だよ」
観客席にいる生徒たちもそんな言葉を口にしていた。
そして―
「さてと・・・ここまで炎が大きくなれば・・・私は君の間合いに入らずに、君を斬ることができる・・・ふふふ・・・せいぜい私を楽しませてくれ!!!」
そういって、リギルさんはもの凄い速さでユーリへ距離を詰め、剣を振りかぶった。
「ユーリ!」
僕は思わずユーリの名を叫んだ。
「雷轟一閃流 ―轟―」
ユーリがそう言った瞬間
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
という轟音と、ユーリの周囲に激しい雷が走った。




