33話 決闘①
*ロミオ*
「ユーリ・・・ここにいる誰が見ても、この勝負・・・お前の勝ちだ・・・なのに・・・」
エミリさんは悔しそうにそう言った。
「そうだ・・・何も決闘まで受ける必要はなかったんじゃないか?」
カイさんはエミリさんの言葉に続くように、そう言った。
だけど―
「俺も奴に言いたいことが山ほどあるんだが・・・奴とは話し合いは出来そうにない・・・ならいっそ、こっちの方が手っ取り早くていいだろ」
ユーリは腰に携えていた剣を鞘ごと手に取り、続ける。
「それに・・・俺もこの手で奴をぶっとばさねえと・・・気がすまないからな」
ユーリは剣を持った腕を前に出して、そう言った。
「そうか」
カイさんは少し笑顔をみせて、納得したように頷いた。
だけど―
「だが! ・・・私の問題に・・・お前をここまで巻き込んでしまって・・・私は・・・」
エミリさんは俯き、少し震えながらそう言った。
「前にも言ったが、そんなことはエミリが気にする必要はない! それに、ここまでくれば、俺と奴の問題でもあるしな」
「だが―」
「エミリは俺のパーティーメンバーだ! だから絶対に退学になんかさせねえ!」
「・・・ユーリ・・・」
「それに安心しろ・・・俺は絶対に勝つからな!」
ユーリはニコリと笑って、そう言った。
「・・・ああ・・・・・・ありがとう」
エミリさんは涙をこらえるように、口を押えてそう言った。
そして翌日―
PM―12:20
僕たちは昼食を手短に済ませて、闘技場へ向かった。
途中でエミリさんと合流して、僕とエミリさんは観客席へ上がる。
観客席を見渡すと・・・およそ600人ほどの生徒がここに集まっていた。
「す、すごい人だね・・・」
僕は驚きを隠せず、声が漏れていた。
「ああ、そうだな・・・」
隣のエミリさんも驚いている様子だった。
・・・今日の朝、学校に来た時から、ユーリとリギルさんの決闘の話で、校内は賑わっていた。
廊下の壁には
―前代未聞! 上級騎士と下級騎士の決闘! 本日12:30より闘技場にて!―
と書かれた大きな紙が無数に貼られていたし、周りの人たちも―
「おい、上級騎士のリギルさんと、一年の下級騎士が決闘するって本当かよ?」
「ああ、何でも決闘を挑んだのはリギルさんの方かららしいぜ」
「ああ、かわいそうに・・・下級騎士がボコられるのは、目に見えてるじゃねえか・・・」
「いや、それがよ、その下級騎士は一年のトップを一瞬でボコったとか・・・ブラックウルフを600体討伐したとか・・・いろいろ噂があんだよ」
「お、おい、マジかよ? 本当にそいつは下級騎士なのか?」
など様々な声が聞こえてきていた。
・・・朝から話題になっていたから、きっと大勢の人が見に来るだろうとは思っていたけれど・・・
ここまで大人数が集まるなんて思ってもいなかった。
おそらく、全校生徒の半数以上がここに集まっているだろう。
僕は周りを見渡していると―
そこには、騎士生徒会長のアランさんの姿もあった。
生徒会業務で忙しいはずなのに・・・アラン会長まで足を運んでいるなんて・・・。
僕はそんなことを考えていると、隣のエミリさんが口を開く。
「ユーリが来たぞ」
エミリさんの言葉で僕は中央に目を向ける。
僕から見て左側からユーリが歩いて出てきた。
そしてタイミングを合わせたかのように、リギルさんも反対側から出てきて、お互いが中心に向かって歩いている。
そして、中心に引かれている2本の線の前で、お互いが立ち止まった。
すると―
「ふふふ・・・逃げずにこれたんだね」
リギルさんはニヤニヤと笑いながらそう言った。
「誰が逃げるかよ」
ユーリは表情を変えずに堂々としていた。
「ふふふ・・・今から君がどんな目に合うかも知らないで・・・ああ、なんとも哀れな平民だ・・・そうだ・・・君に一つ提案をしてあげよう」
「提案だと・・・」
「ああ、そうだよ・・・君が今ここで、私に敗北を認め・・・死ぬまで私の奴隷になるというのであれば・・・ここで君を許してあげよう・・・心が広い私からの提案だ・・・どうだい?」
リギルさんはニヤケ面で、そんな提案をユーリに投げかけた。
「くっ、外道が・・・」
隣のエミリさんは怒りで震えていた。
だけど、ユーリはそんな提案に乗るわけもなくて―
「そんな提案、誰が乗るかよ・・・それにてめえに許してもらう必要は微塵もねえ・・・俺はてめえをぶっ飛ばしたくて昨日からウズウズしてんだ! 御託はいいから、さっさと始めようぜ!!!」
ユーリは声を上げてそう言った。
すると、リギルさんからニヤケ面が消え、怒りを帯びた表情へと変貌していった。
「・・・なんとも私をイラつかせる平民だ・・・いいだろう・・・貴様には最高級の屈辱と・・・絶望を与えてあげよう」
リギルさんがそういうと、ユーリとリギルさんの間に一人の教官が現れた。
「お前ら、これを取れ」
そういって、教官は二人に模造刀を渡す。
模造刀は赤色の鞘で、ロングソードを模した形だった。
受けとった二人は腰に鞘をつけ、鞘から剣を抜く。
そしてユーリは、剣をじっくりと見つめ、その場で軽く振っていた。
そして、教官が続ける。
「それでは、騎士の流儀に乗っ取り、決闘を始める・・・互いのどちらかが戦闘不能、または自ら負けを認めるまで、お互い全力で剣を交えるように・・・なお、この勝負は魔法師の流儀に乗っ取り・・・魔法の使用も許可する。 ・・・だが、相手を死に至らしめるような強力な魔法を使用した場合は、その時点でその者の敗北とする・・・理解できたか?」
「ふふふ・・・もちろんですよ」
「ああ」
二人が教官に向けてそう言った。
そして数秒の間を置いて、教官が開始の合図を告げる。
「それでは・・・・・・はじめ!」
そう言って、教官は中央から姿を消した。
決闘が始まった!
・・・のだけど
開始の合図が告げられてから数秒・・・お互いがその場から動かない。
すると―
「どうしたんだ? あいつら・・・なぜ打ち合わない?」
「おい、さっさと始めろ! 昼休みにわざわざ来てやってんだぞ!」
などと、周りからそんな声が飛んでいた。
一体・・・どうしたんだろう?
そうしていると、ユーリがリギルさんに向かって口を開いた。
「おい、てめえ、何を仕込みやがった」
仕込んだ? ・・・一体何を・・・。
すると
「ふふふ、ふははははははははははははははははははははははは」
と、お腹を抱えてリギルさんが笑い出した。
ま、まさか・・・
そう思った矢先、リギルさんは指を鳴らした。
パチン、と指が鳴った瞬間
ユーリの足元からとても大きな赤色の魔法陣が浮かび上がった。
僕はそれを見た瞬間、その魔法陣が何のものか理解した。
「あ、あれは・・・地雷魔法・・・それもあんなにも大きく・・・強力な・・・」
僕は声に出してそう言った。
「なに? ・・・奴は魔法を使用するような動作をとっていなかったのに・・・どうして」
エミリさんは不思議そうにそう言った。
僕は、自分の推察を口にした。
「・・・きっとリギルさんは、ユーリが来る前から・・・あの場所へ地雷魔法を仕掛けていたんだ・・・しかも、教官も気づかないほど、隠密に・・・」
あんなにも大きな魔法陣を詠唱もせずに瞬時に展開するなんて・・・たとえ上級魔法師であっても不可能だ。
しかも、近くにいた教官でさえ、それに気づかないほど巧みに隠して・・・
するとエミリさんは―
「そんな・・・あらかじめ・・・魔法を仕掛けていただと・・・」
エミリさんは怒りで震えながら続ける。
「そんな・・・これでは昨日と同じではないか! こんなのは・・・決闘ではない! ロミオ、いますぐこれを止めるぞ!」
「うん!」
僕たちが席を立った瞬間、リギルさんは再び指をパチンと鳴らした。
すると―
ユーリとリギルさんを囲むように、巨大な結界が瞬時に張られる。
ちょうど、観客席から中央へは下りて行けないような大きさだった。
しかも・・・一つではない。
いくつもの結界が重なって張られている。
こんなの・・・壊せない。
それに・・・この結界魔法もあらかじめ仕掛けられていたものだ。
地雷魔法と同様に、たとえ上級魔法師であっても、こんなにも大きな結界・・・しかも複数を一瞬で張ることはできない。
「そんな・・・僕は・・・また・・・」
僕は膝の力が抜け、地面に手をついた。
僕は悔しくて、目から涙が零れ落ちた。
僕はユーリに守られてばかりで・・・
ユーリがピンチの時に・・・何もできない。
僕は・・・なんて無力なんだ・・・。
「・・・うう・・・・ごめん・・・ユーリ・・・」
僕がそう言って地面にうずくまっていると―
隣のエミリさんが、鞘から剣を抜いた。
「ロミオ・・・顔を上げろ・・・こんな結界・・・私が斬ってくれる!!!」
「エミリさん・・・」
エミリさんは剣先を地面につけて、体をねじるように構えた。
すると、周りの生徒たちもエミリさんから距離を取った。
そして―
「水無月流 水刃斬!!!」
エミリさんはそう言って、結界に向かって素早く剣を振った。
すると、エミリさんの剣から水を帯びた斬撃が結界に向かって飛んでいった。




