30話 クエスト勝負③
俺はバラドールを出て、ロミオにもらった地図を確認した。
方角的には、南西だな。
エミリの情報だと、ここから走って2時間くらいと言っていたな。
まだ昼の12:30……時間は十分にあるな。
「よし! ブラックウルフを片っ端から狩りつくしてやるぜ!」
俺は高らかに声を上げて、マルデリッツ山に向かって走りだした……
のだが……
―8時間後―
時刻は夜の20:30
すでに日は落ち、外は暗闇に包まれていた。
俺はというと……
森の中で、完全に道に迷っていた。
おかしい……なぜこうなった?
バラドールを出てから、ロミオの地図に沿って道なりに進んできた……はずなのに。
なぜか、気がつけば森の中に入っていて、現在に至るのだった。
さらに不可解なのは、どの方角に進んでも同じような景色が永遠と続いていることだ。
まるで同じ場所に閉じ込められているような、そんな感覚だった。
「はぁ~、どうしたものか」
そうこう考えていると―
ぎゅるるるるるるるるるるるるる
と腹の虫も騒ぎ出した。
考えてみれば、昼からずっと動きっぱなしだ。
腹が減っては何とやらっていうし……
とりあえず何か食うか。
俺はそこらへんに落ちている木の枝を集めて火をつけた。
火のそばで、腰を下ろしバックをあさる。
俺は家から少量の食料をバックに入れて持ってきていた。
万が一の為にと思って、持ってきていたのだが
本当にその万が一の状況になるとは。
そんなことを考えながら、バックをあさっていると―
「ん?」
何やら、バックの底に、見覚えのない物が入っていた。
何だ……布?
俺はそれを取り出した。
「こ、これは……」
それは、ピンク色の風呂敷に包まれた可愛らしいお弁当箱だった。
昨日の昼休みと同じく。
「ど、どうして……」
家を出る前にはこんなもの入ってなかった。
それに、俺は家を出てからも、ずっとここまで肌身離さずバックを背負っていたんだが……
俺は今日あったことを思い出す。
そして、ハッとギルドを出てからすぐのことを思い出した。
あの視線、それにバックを触られたような感触……
「あの時か!」
あの時に誰かがこの弁当を入れたのか。
いや、誰か……ではないな。
あの視線には覚えがある。
昨日学校の教室で、同じような視線を感じた。
きっとこの弁当を作った本人だ。
だが結局、姿を見ていないので
誰が作ったのかわからないが……
「いや、こんなの普通に食えな―」
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるる
「……」
ま、まあ、せっかく作ってくれたものだし中身だけでも見てみるか。
俺は脳内で若干言い訳じみたことを述べながら、風呂敷を広げ、弁当箱を開けた。
そこには―
俺の好物のハンバーグに、卵焼き、握り飯やフルーツと、色とりどりの様々な具材が入っていた。
昨日の豪華な弁当に比べると、少し庶民よりというか、俺好みの内容だった。
だが、昨日と同様に、具材やフルーツはハート型でカットされていたり、握り飯には海苔で可愛らしく顔が作られている。
かなり手が込んでいて、愛情を感じる。
それに……
「美味そうだ」
俺は、昨日のことを思いだし、弁当箱と風呂敷の間を確認すると
昨日と同様に一枚の紙切れが入っていた。
そこには―
‘‘ユーリ様、どうかお気をつけて‘‘
ただ一言、ピンク色のペンで丁寧に書かれていた。
「……」
この弁当とこの一文から、この人の想いが、嫌でも伝わってきてしまう。
俺は意を決して、ハンバークを一口、頬張る。
こ、これは―
「美味い!」
何だこれ、めちゃくちゃ美味いぞ!
俺は続けて卵焼きを口に入れる。
「卵焼きも最高だ!」
これはロミオにも引けを取らないくらいに、めちゃくちゃ美味い!
俺は食欲に火が付き、他の具材もどんどん口に放り込んでいった。
そして―
ものの10分たらずで、弁当を平らげてしまった。
結局、全部食べてしまった。
まあ、怪しい物も入っている様子はなかったし……
それどころか、むしろ体が軽くなった気がする。
まるで、魔法をかけられたような……
そんなことを考えていると
次の瞬間―
俺の脳内で魔法陣が、パリンッ! と壊れるイメージが浮かんだ。
驚き俺は反射的に立ち上がる。
「今のは……何だ?」
俺は自身の体を確認するが、特に何も変化はない。
次に周囲を確認した。
すると―
「何だ……?」
さきほどまで広がっていた森の中の景色が、まるで靄が晴れていくようにまだらに崩れていく。
そして辺り一面の景色が一変し、
「な、何だと……」
そこはバラドールを出てからすぐの、少し道をそれた平地だった。
どういうことだ?
俺はかれこれ8時間ほど、ずっと道に沿って進んできたはずだ。
こんなところは、とっくの昔に通りすぎている。
なのにどうして……
俺は、閃いたようにあることを思い出した。
まさか……
俺は昼間、ギルドのドアノブを握った瞬間、電流が走ったのを思い出した。
あの時から俺は、催眠魔法にでもかかっていたのか?
そして、それがいま解けた……
ああ、間違いねえ
こう考えるのが、一番納得がいく。
そして、俺に魔法をかけた奴は……間違いなくリギルだ。
だから俺がギルドに入ったとき、奴はやたらニタニタと笑っていたのだ。
リギルの野郎……性根が腐りきってやがるぜ。
俺はフツフツと怒りがこみあげてきた。
だが―
俺は手に持っている空の弁当に目を向ける。
この弁当を食べて、魔法が解けた。
これを作った奴は、おそらくこの弁当に何かしらの魔法を施していたんだろう。
こうなることを読んでいたのかは定かではないが。
どちらにしても、俺はこの弁当……いや、これを作った人に救われた。
「ありがとう」
俺は自然と声に出た。
奴との決着をつけた後に、一度会って、直接感謝の言葉を伝えたい。
この弁当をくれた差出人に少しだけ興味がわいた。
そして―
「よし! だいぶ出遅れたが、ここから巻き返してやるぜ! あんな外道には絶対に負けるか!」
俺は気合を入れなおし、再びマルデリッツ山に向けて走り出した。




