24話 エミリの訪問
「さて、俺たちもそろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
「ロミオ、今日の晩飯は何だ?」
「ユーリは今日頑張ったから、ユーリが食べたい物を、僕が何でも作ってあげるよ!」
「本当か!? それじゃあ―」
「お、おい!」
エミリがそう言って、俺たちの会話に入ってきた。
「どうしたんだ?」
俺はエミリへ向けて、問いかけた。
「お前たちはその……一緒に住んでいるのか?」
「ああ、そうだが、何か問題あるのか?」
別に男同士だし、特に問題ないはずだ。
「そういうわけでは……ないのだが……」
そう言って、エミリはロミオを頭の先から足の先まで、見定めるように見つめていた。
まさかエミリのやつ、ロミオを女だと思っているんじゃないだろうな?
いやでも、無理はないか。
俺だってロミオが男の制服を着ていなかったら、間違いなく女だと勘違いをしていただろうし……
「あ、あの、エミリさん」
ロミオが少し照れたようにもじもじと体を動かしていた。
「す、すまない、そんなつもりはないんだ! べ、別に性別を疑っているわけでは……ない! 断じてないぞ!」
いや、その言い方は完全に疑ってるだろ。
俺は一応エミリへ伝えておく。
「ロミオは男だぞ」
「いや、だから私は別に―」
「もう何でもいいが、俺たちは帰るぞ」
俺はそう言って、訓練場の入り口へ振り向くが―
「お、おいちょっと待て!」
一体、何だというんだ。
「まだなんか用があるのか?」
俺がそう問うと、エミリはみるみる内に険悪の形相へと変わり―
「なん……だと? ユーリ、先ほど貴様は……私のことを大切なパーティーメンバーだとか……お前には絶対にやらないなどと……し、しかも……す、好き……とも言っていたくせに……その言い方はなんなのだ!」
なんなのだ!……と言われてもな。
今日はクエストに行くわけでもないし、リギルは帰っていった。
他に特に用事はないと思うんだが……。
だが、目の前に立っている、学校一の剣術使いことエミリさんはご立腹の様子だ。
下手な言い方をすれば、火に油を注ぎそうなので、俺は一応謝罪を入れておいた。
「ああ、悪かったよ。それで、他に何かあるのか?」
「ま、まあ、いいだろう」
納得しているとは言い難いが、エミリの表情が少し緩んだように見えた。
エミリは「ゴホン!」っと、咳払いをして、続ける。
「その……リギルと、私のことについて、少し話しておきたいのだが、こんなところではなんだ……その……」
エミリは一呼吸置き、意を決したように口を開いた。
「わ、私もユーリの家にお邪魔しても……いいだろうか……?」
エミリは顔を赤くしながら、そう言った。
なんだ、そんなことか。
そんなに、遠慮して尋ねてくることではないと思うんだが。
「ああ、いいぞ」
俺はロミオへ視線で確認する。
「うん、僕も構わないよ」
ロミオも笑顔でそう言った。
大丈夫みたいだ。
「だってよ」
俺がエミリへそう告げると、みるみる内にエミリの表情がパアーっと明るくなった。
「あ、ありがとう!それではお邪魔させていただくよ」
そう言って、満面の笑みを見せた。
それから、俺たちは帰路につき、あっという間に俺の家についた。
聞いた話によると、エミリは学生寮に住んでいるらしい。
学生寮の門限は夜の21時らしいが、それまでには帰るだろう。
「さあ、着いたぞ」
「お、大きいな……」
エミリは俺の家を眺めながらそう言った。
エミリの言うように、この家はかなり大きい。
正直、1人で暮らすのには持て余してしまう。
使っていない部屋もあと2部屋あるくらいだしな。
もともとシルバーと2人で暮らすはずだったのだが
あの人は帰ってくる様子がない。
すると、ロミオが苦笑いをしながら口を開く。
「そうですよね。しかもこの家、買ったらしいですよ」
「な、何だと……。ユーリ、貴様は本当に平民なのか?」
なんか同じようなやり取りを昨日にもした気が……
「ああ、村出身の生粋の平民だぜ」
「し、信じられん……」
「よかったです、僕と同じ反応で……」
ロミオは少し安心しているようだった。
そんなに、おかしなことなのか?
まあ確かに、外での生活が長かったのもあり
一般的な金銭感覚は持ち合わせていないのは確かだが……。
「まあ、とにかく入ろうぜ、もう日も落ちるしな」
俺は話を切るように、そう言った。
「お、お邪魔します」
エミリは少し遠慮ぎみに、玄関から入る。
帰りに決めたことだが、今日の晩飯はチキンのステーキとハンバーク、茸スープになった。
俺はステーキなどの肉塊も好きだが、特にハンバーグが好物なので、ロミオにリクエストした。
あの香ばしい香りと、ジューシーな肉汁……
想像しただけでお腹がすいてくる。
ハンバーグに勝る料理がこの世に存在するとは思えないし、俺は信じない!
「それじゃあ、僕は晩御飯の準備に取り掛かるね。ユーリ、それにエミリさんも少し待っててくださいね」
「ああ、頼んだぞ」
俺がそう言うとエミリが口を開く。
「わ、私も手伝わせてもらえないだろうか!」
「「え?」」
俺とロミオがほぼ同時にそう言った。
エミリは少しの間を置き続ける。
「何もせずただご馳走になるというのは、騎士の道に反する。私も最低限の礼儀を尽くさせてくれ」
エミリは胸に手を置き、そう訴えていた。
「エミリ、料理できるのか?」
俺は思わず口を挟んだ。
「ああ。一応、実家のメイドから手ほどきは受けている。多分大丈夫だ!」
多分大丈夫って……
何だか嫌な予感がするぜ。
というか、実家にメイドがいるっていったか?
貴族の世界ってのは、俺の想像をはるかに凌駕した恐ろしい世界のようだ。
「あの、僕はいいですよ」
ロミオから許可が下りたようだ。
「ありがとうロミオ君! あとは……」
ジーっとエミリの視線が俺に突き刺さってくる。
拒否権は無さそうだ。
「あ、ああ、いいよ」
俺がそう言うと、エミリの表情はパアーっと明るくなった。
「よし! それでは早速取りかかろう! 家主様はそこでくつろいでいてくれ」
「ああ……」
エミリは上機嫌でロミオの背中を押しながらキッチンへ向かった。
ほんとに大丈夫か?
まあ、ロミオがついているし大丈夫か。
こうして、俺は晩御飯を待つことになった。




