23話 俺と勝負しろ
「おい、あの1年、急にあんな所に現れやがったぞ」
「ま、まったく、見えなかった」
エミリはキョトンとした顔で俺を見つめていた。
「平民の分際で、私に気安く……触れるな!」
そう言って、リギルは俺の手を振りほどいた。
振りほどく瞬間、俺はエミリをリギルから引き離した。
「ユーリ……」
エミリは少し驚いた表情を見せた。
「く……」
リギルは憤慨した顔を見せた後、ふっと笑顔に戻し
手をはたきながら続ける。
「久しぶりに、少しだけイラっとしてしまったよ」
「奇遇だな、俺もそこに関しては同意見だ」
いや、少しじゃないな。
俺はかなり憤りを覚えた。
「ふふふ、ふはははははははははははは」
リギルは表情を崩し、お腹を抱えて笑いだした。
気持ちの悪いやつだ。
「何が面白い?」
「私の父上はね、このバラドール王国の大臣を務めているんだ。つまり、私が父上に一言、言いつければ、君はこの国を敵に回すことだってあり得る。そこまでわかっていて君は、私にそんな生意気な口を聞いているのかい?」
リギルは脅すように、不敵に笑いながら告げる。
「ああ? 国を敵に回すだ? そんなもんな……関係ねえよ!」
俺は怒りをぶつけるように大声で叫んだ。
「エミリは俺の大切なパーティーメンバーだ! お前のような奴には絶対に渡さねえ! 俺はもう、俺の大切なもんを何一つ奪わせない……俺から大切なもんを奪おうとするやつは……国だろうが何だろうが絶対に許さねえ!」
「……」
エミリは俺の隣で、少し震えながら、泣きそうな顔を隠すように口を押えていた。
「ふふふ、君は筋金入りのバカのようだね。一時の感情でヒーローを気取るのはいいが、私が言っていることを全然理解できていないようだ。その気になれば君なんて―」
俺はリギルの言葉を切り続けた。
「リギル、俺と勝負しろ」
「勝負だって?」
「ああ! 俺が勝てば、エミリとの結婚を白紙に戻せ! 俺が負けたときは、お前の奴隷にでもなんでもなってやる」
「ユーリ、私のためにそんなことをする必要は―」
俺はエミリの前に手を置き、言葉を切った。
「ふふふ……別に平民の奴隷がたった1人増えた所で、私には何のメリットもないんだが」
リギルは少しの間を開けて続ける。
「君はエミリ君を負かして調子づいているのかな? エミリ君のように、同じ上級騎士である私にも勝てると……そう思っているのか。ふふふ、何とも哀れな平民だ」
中々うなずかないか……
なら―
「お前みたいなクズには死んでも負けねえよ」
俺は挑発するように、そう言った。
するとリギルは、ニヤけた顔から一変、怒りを帯びた険しい表情へ変わった。
「ふふふ、頭の悪い平民には、上流騎士様への口の利き方を教えないといけないみたいだな。よし、君の勝負、受けようじゃないか」
「決まりだな、木刀を持てよ」
俺がそう言うと、リギルは再びニヤケ面で、わざとらしく両手を前に出した。
「まあ、待つんだ。私も鬼じゃない、1対1の勝負なら私が勝利するのは目に見えている。特別にここは、クエストで勝負をつけないかい?」
「クエストで勝負だと?」
「ああ、私と君が同じクエストを受注して、より多くの魔物を狩ったほうの勝ち……これでどうだい?」
クエストに行ったことがないので、いまいち勝手がわからないが……
魔物を狩ればいいのなら俺にもできる。
「ああ、それでいい」
俺がそう言うとエミリが口を挟んだ。
「ユーリ、クエスト勝負なんて受けてはダメだ! こいつは―」
「エミリ君! これは男同士の戦いだ、君は黙っていたまえ」
向かいのリギルはニヤケ面から一変し、険しい表情でエミリを睨みつけていた。
「大丈夫だ、俺に任せてくれ」
「だが……」
俺はエミリに向かって笑顔を向けたが、エミリの表情から不安な影は消えなかった。
そしてリギルは、表情をニヤけ面へ戻した。
「明日は休日だ。正午にギルドに集合でいいかな?」
「ああ」
「それじゃあ今日の所は、エミリ君は君たちに返しておくよ。ふふふ、逃げずに来るんだよ」
「それはこっちのセリフだな」
「ふふふ、今のうちにせいぜい粋がっておくといい」
そう言って、リギルは訓練場を後にした。
***
「ユーリ、私のせいで……すまなかった」
エミリは深々と頭を下げていた。
「何でエミリが謝るんだよ、俺がただ単にあいつにむかついただけだ」
「だ、だが、私の問題に巻き込んでしまって……なんて言ったらいいか」
エミリは申し訳なさそうに、下を向いていた。
そんなことを気にしていたのか。
「別に巻き込まれたわけじゃないだろ、俺から奴に勝負を吹っ掛けたわけだし。それにエミリは俺のパーティーメンバーだ。退学されたら俺が困るんだよ」
「ああ……そうだな」
エミリからは先ほどまでの覇気が感じられず、俯いていた。
先ほどのように勇ましく、凛としていた方がエミリには似合っているんだが……
俺は思っていることを素直に口にした。
「顔を上げてくれよ。俺はさっきまでの勇ましく凛としているエミリの方が好きなんだが」
するとエミリから、俺の想像とは違った反応が返ってきた。
「な!? ななな、何を言っているんだ、き、貴様は!」
エミリは顔を赤くし、動揺していた。
「何って、そのままの意味だが……」
「お、おおお、おま、お前、お前は……#$%!」
エミリは軽くパニックに陥っているようだった。
一体どうしたというんだ?
後半、何を言っているのかよく聞き取れなかった。
そうこうしていると、ロミオが俺に近づき、不安そうな目で尋ねてきた。
「ユーリ、大丈夫? 怪我とかない?」
「ああ、見ての通り、大丈夫だ」
「そう、ならよかった」
俺は先ほど、ロミオがかけてくれた声援を思い出した。
「ロミオ……エミリとの勝負の時、ロミオの必死の声援が俺までちゃんと聞こえてきたぞ。すごく嬉しかったし力をもらった、ありがとな!」
俺がニシっと笑顔を向けた。
「……うん……」
ロミオは顔を赤くし、はにかんだような笑顔を見せた。
「ユーリ、と言ったか……作戦はあるのか?」
カイが俺に近づき、そのクールな表情を崩さず俺に話しかけてきた。
「作戦……うーん、クエストに行ったことがないから、何とも言えないが……。奴が言っていたように魔物を多く倒せばいいっていうのなら、たぶん大丈夫だろう」
「そうか。俺は正直スカッとしたよ。もし君が望むなら、俺は全力で君をサポートしよう」
カイからなんとも心強い言葉をもらった。
だが―
「ああ、ありがとう。だが、気持ちだけ受け取っておくぜ。もし何か困ったことがあれば、その時は頼らせてもらうよ」
「わかった、いつでも待っている」
カイはそう言うと、振り返り、周りの連中へ向けて口を開いた。
「今日の訓練は終了だ!さあ、みんな今日の所は帰るんだ」
「「はい!」」
そう言って、周りの連中は帰り支度を始めた。




