44話 着せ替え人形
*ロミオ*
クラス対抗戦が終わり、二週間が経過した。
対抗戦の翌日、ユーリは騎士生徒会に入り
会計という役職を与えられ
放課後はほぼ毎日
ベルガー副会長に連れられ生徒会室で業務を行っている。
そして今日も
「や、やめろッ・・・離してくれ、頼む!」
「駄目だ、貴様には今日も山のようにやらなければならない業務がまっている、逃がしはしない」
「い、嫌だ! もう書類なんて懲り懲りだ! ロ、ロミオ助けてくれ!」
ユーリは僕に助けを求めるが
「何度も同じことを言わせるな、駄目なものは駄目だ」
そう言って、ベルガー副会長は無理やりユーリを連行する。
「ロ、ロミオォォォォォォォォォォッ・・・!」
ガタンッ
と教室のドアが閉じ、
ユーリの姿も消えた。
ごめん、ユーリ
助けてあげたいんだけど・・・
生徒会の業務は大事なことだから
どうか頑張って!
と、僕は心の中でユーリに謝罪しながら
クラス全員の小テストを提出する為、教官室へ向かった。
そして―
「失礼しました」
小テストを提出し終わり、教官室を出た。
こういった雑務は、その日の日直当番が行っている。
今日は僕が日直だったので、放課後に小テストを提出しに来たというわけだった。
それにしても
「暇だな・・・」
ユーリと同じ家に住むようになってから
放課後は毎日、ユーリと一緒だった。
クラス対抗戦の二週間前からは
学校に毎日残り
ユーリとメリーナと修行をしていたし・・・
クラス対抗戦が終わった途端、
放課後の予定がなくなってしまった。
ちなみにメリーナは、
一週間ほど前から学校を休んでいる。
レイラ教官いわく、王女としての職務が多忙を極めており
特別に学校を休学しているらしい。
メリーナの身に何かあったというわけではないので
レイラ教官の話を聞いて安心した。
一方エミリさんも、放課後は剣術指導係の仕事で
訓練場で生徒たちに剣術指導を行っている。
それにエミリさん自身、
「もっと鍛錬を積まないとな! ユーリと肩を並べられるように!」
と意気込んでいた。
エミリさん自身も指導を行いながら、
自身の腕も磨いているようだ。
そんなエミリさんとユーリは、遅くても夜の8時頃には家に帰ってくる。
僕に出来ることは、疲れて帰ってくる二人に
少しでも元気になってもらえるよう
料理をふるまうことぐらいだ。
さて、今日は何を作ろうか
そういえば、
お米と卵があと少しで底を尽きそうだった。
今は16時過ぎ・・・
ユーリとエミリさんの帰宅にはまだ時間があるな。
うん、今から買い出しに行こう。
そう意気込み、僕は学校の玄関へ向かった。
―廊下―
玄関へ続く廊下を歩き、角を曲がった瞬間
目の前に大きな‘‘谷‘‘が現れ―
「あ」
僕は反射的に後ろへ下がった。
間一髪、谷にぶつかることなく回避した。
「す、すみません、僕の不注意で」
僕は即座に頭を下げ謝罪すると
「お前は・・・ロミオ・ラングヴェイか」
「え?」
聞いたことある声が聞こえ、僕は頭を上げる。
「あ、あなたは、ユリネ魔法師生徒会長!」
と、僕の目の前には凛とした佇まいで腕を組んでいる
ユリネ魔法師生徒会長の姿があった。
そしてその後ろには、ミア副会長の姿もあった。
「し、失礼しました、ユリネ会長。 お、お怪我はありませんか?」
僕は慌てて謝罪した。
「ええ、問題ないわ」
「そ、そうでしたか。 よ、よかったです」
僕はペコリと頭を下げる。
「そんなにかしこまらなくても―」
「そうですよ、ロミオ君。 こんな‘‘無駄に‘‘大きな物をたれ下げているユリネ会長が悪いんですから」
ユリネ会長の言葉にかぶせるようにミア副会長がそう言った。
「ちょ、ミア、誰がたれてるって―」
「ユーリ・アレクシス君とは一緒じゃないんですか?」
「無視するんじゃないわよ!」
ユリネ会長がプンプンとそう言った。
僕はミア副会長の問いに答える。
「えっと、ユーリは生徒会の業務があって、今はおそらく騎士生徒会室へいるはずです」
「そうでしたか、クラス対抗戦後に騎士生徒会に入ったという話は本当だったのですね」
「えっと、そうですね。 正確には、入ったというよりは入れられたという方が正しい気がしますが・・・」
「フンッ、入学して間もない一年を半場強制的に生徒会に入れるなんて、アランもほんっとにバカなんだから」
とプンプン怒りながらユリネ会長はそう口にした。
「ユリネ会長、男子生徒にまで対抗心を燃やさなくても」
「そ、そうじゃないわよ!」
そう言うと、ユリネ会長は少し下を向いて続ける。
「私はただ、エリオットの件で躍起になっているアランがとても見ていられないってだけで―」
僕はその言葉を聞いた瞬間、
「エリオット兄さんのこと、知ってるんですか!?」
反射的にユリネ生徒会長へそう問いかけた。
そんな僕に驚き、「ま、まあね」と答える。
「それに同学年だったもの、もちろん知っているわ」
ミア副会長がユリネ会長に続ける。
「エリオット君は私たちの学年で剣術トップの成績でした。 彼の明るい人柄もあり入学当初からとても目立っていましたよ。 それに入学してわずか数か月で、次期騎士生徒会長候補として彼の名が上がっていたほどでしたからね」
「そうだったんですね」
兄さんの話を聞いて、僕は胸が熱くなった。
嬉しい・・・
兄さんの話を聞くことが出来て
純粋に嬉しかった。
そしてやっぱり
兄さんは凄い人だ。
「それに彼は、アラン会長の親友でもありましたから」
「え?」
そうだったんだ、
兄さんがあのアラン会長と
全く知らなかった。
「アラン会長はエリオット君にかなりの信頼を寄せていました。 それはそれは、学校では常に行動を共にしているほどで」
「ミア、そんなことは別に言わなくたって」
「嫉妬してるんですか? ユリネ会長」
「は、はぁ!? 誰が誰に嫉妬をしているですって!?」
そうだったんだ。
僕は屋敷での兄さんしか知らない。
外ではどんな人だったのか、どんな交流があったのか
そんなことは僕の知る由ではなかった。
だけど兄さんの話を聞けば聞くほど、
あのアラン会長も信頼を寄せているほど
兄さんは素晴らしい人で
周りからも慕われていたというのがうかがえる。
・・・嬉しい・・・
僕は自然と涙を流していた。
「ちょ、え?」
「あー、ユリネ会長。 生徒会長ともあろう者が下級生を泣かしちゃ駄目じゃないですか」
「い、いや、そんなつもりは」
「す、すみません、兄の話が聞けて、その、嬉しくて」
僕は眼鏡を外して涙を拭い
二人に笑顔を向けた。
すると―
!!!
何やら驚いた様子で
ユリネ会長とミア副会長は目を丸くしながら
こちらを見つめていた。
「あ、あの・・・」
僕がそう言うと
「あなた・・・」
そう言って、ユリネ会長の手が僕の頬に近づき―
「肌がとても綺麗ね、とても男の子とは思えない美しさだわ」
そう言って、僕の左の頬に触れた。
「ユ、ユリネ会長!?」
すると次に
「ユリネ会長、私もいま同じようなことを考えていました」
と、右の頬にミア副会長の手が触れる。
「ミ、ミア副会長!?」
そんな僕の様子などお構いなしで
2人は僕の頬をさわさわと触る。
「こ、これは・・・血が・・・血が騒ぐわ!」
「ええ。 私も正直、我慢の限界です」
何だかよくわからないけど
ここにいたらいけない気がする。
「あ、あの僕、これから買出しに行かないといけないので、そろそろ」
「ロミオ君!」
「は、はい!」
ユリネ会長の声で、反射的に気を付けの姿勢をとる。
「エリオットの話、もっと聞きたくない?」
「え?」
「あんな話やこんな話、お兄さんの耳寄りな情報、たくさんそろえてますよ」
ほーれ、ほーれ、と僕を釣るように
ミア副会長もそう口にした。
だけど僕は、そんな裏の意図を読み取る以前に
エリオット兄さんの話を聞きたいという欲で
頭が埋め尽くされていた。
エリオット兄さんの話が
もっと聞ける!
「あの・・・聞きたいです」
僕がそう答えると
「そうこなくっちゃ!」
ガシッ
え?
「ゆっくりとお茶でも飲みながら、ともに語らいましょう」
ガシッ
「あ、あの・・・?」
2人はそう言って、僕の両腕を片方ずつ掴むと
「さあ、行くわよ! 我が魔法師生徒会室へ!」
「え?」
「れっつ・ごーです」
「ええええええええええええええええ」
ピューッと
僕は二人に連れられ、魔法師生徒会室へと向かった。
―数分後―
「やっぱり、とても良いわ!」
「控えめに言って最高ですね」
僕は後悔していた。
あの時、兄さんの話を聞きたいという欲を
我慢できていたならば
こんなことにはならなかった。
こんな・・・
「ロミオ君、あなた最高に可愛いわ!」
「ええ、こんなにもチャイナ服が似合う男の娘がいるなんて思いもしませんでした」
二人の着せ替え人形になんて!
「あ、あの、すごく、恥ずかしいんですけど・・・」
「大丈夫! 自信を持ちなさい! 何も恥ずかしがることなんてないわ!」
「ええ、そんじょそこらの女子よりも似合っていますよ、ロミオ君」
「次はこれよ、これを着なさい」
「いいえ、これです」
僕は二人に半場強引的に
ナース服や、ゴスロリ、白のワンピースなど
様々な服へ着替えては脱がされを繰り返した。
かなり肌が露出している服もあるけど
幸い僕が女だってことは
この二人には気づかれていないようだ。
「あー、なんてこと! 何を着ても最高じゃないの! 可愛いわ、可愛すぎるわロミオきゅん!」
「これは私も同意せざるを得ません」
二人はうっとりとした目で僕を見つめている。
「さあ、次は何を着せようかしら、こっち、それともこっち、ああもう! パトスが、パトスが止まらないわ!」
ハァー、ハァーと荒い息づかいで
服をあさるユリネ会長に
背筋がゾッと凍るような恐怖を感じた。
「あ、あわわ・・・」
「ユリネ会長、私はこっちのネコミミメイド服がよいかと」
ガクガクガクガク
「「さあロミオきゅん、次は―」」
二人は血走った眼で、僕の精神は限界に達した。
「ああああああああああああああああああああああああ」
僕はユーリに負けないくらいの絶叫を上げていた。




