99 革命の切り札
「急に呼び出すな」
髪はボサボサで、服はヨレヨレのいつもの刑事2人組が死にそうな顔で椅子に座った。
何かあったらすぐに言えと言う割に呼ぶと毎回文句を言われる。
テーブルの上に紙袋を置く。
「あんだこれ?」
桜川刑事が紙袋を開けて中を見る。
疲れていた目が、鋭くなった。
「お前、これ、何処で手に入れた?」
「伊藤淳也に渡された。この場所に行けば死体もある」
「死体……? まさか、てめえ! 撃ったのか!」
桜川刑事がテーブルを叩いた衝撃で、テーブルの上に置かれた空のコップが倒れた。
「奴が部下を撃ったんだよ。スパイらしいけど」
「チャイニーズマフィアが殺された事件があっただろ? 同じ口径だ」
「銃は結構精密で、撃てる弾は決まっているんだ」
「知ってる」
加瀬刑事は肩を落として説明をやめた。
「弾は見つからなかったが、同じ奴だろう」
桜川刑事が銃をテーブルに置いた。
「弾が1つ入って無え」
「撃ってない」
「最初から無かった……か、悪い予感しかしねえな」
「伊藤淳也、高校生でありながらなんて奴なんですかね」
「とにかく、これは預かる。何も無えと良いが……いや、今は……」
桜川刑事が立ち上がる。
「頼みがあるんだけど……」
……
「お前……マジで言ってるのか?」
桜川刑事は面倒そうな顔をしている。
「ああ、他の人にも同じ事は頼むつもりだけど、警察なら何とかしやすいだろ?」
「俺は賛成っす」
加瀬刑事は桜川刑事に叩かれた。
「行くぞ」
「私の予知した通りになったじゃないかぁ!」
ギルドハウスの前に立っていたパライソが俺の胸倉を掴んで泣きながらキレている。
「姉さんがすみません」
弟の仁である、マスラオが頭を下げて謝っている。
「予知は100%当たるのか?」
「……ぐずっ、基本的には当たる」
「例外があるのか?」
「私が、家が火事になる予知を見たとするだろ? その未来を避ける為に家を倒壊させたとする、そうしたら、火事は起きない」
「火事が起きるはずの家が無ければ火事は起きない」
「でも、対処をしない、または、対処が出来ない場合は確実に当たる」
確実と言い切る程には予知に自信があるようだ。
「予知してくれ」
「未来をか? やった所で大した意味は無いと思うぞ」
「何で?」
自身の力を否定している。
「みんな、未来を自分の物にしようと動いている今、予知した所で数秒後には未来が変わってる」
「へー」
未来が変わり続けている……
「ボーッとしてどした? あ! そうか! 私の大人なセクシーな魅力に当てられたんだろ? うふふ」
子供みたいな体型で何を言ってるんだか。
「未来を変えるって難しい?」
「ん? 私は何回も変えてるぞ」
「姉さんは嫌いな物が夜ご飯に出る未来を予知したら何が何でも変えようとしますからね」
「子供か」
「大人のレディを捕まえて、子供扱いするなぁ!」
2人と別れギルドハウスに入る。みんか、落ち着きを取り戻し、寛いでいた。
「兄助! おかえり!」
「うん、ただいま」
ソファーに座ると、みんな集まってきた。
「……それで、どうなったんや?」
「残念ながら解決法は現状無い」
「はい、解散、解散」
影月は呆れて帰ろうと数歩歩いて振り返った。
「ホンマに無いん?」
「無えっての」
手を振り、影月を追い払う。
「分かってくれたのか、兎乃君」
何処からかワープしてきた有馬が目の前に立っている。
「分かる? 何を?」
「この世界には限界が無い、求めればありとあらゆる物を手に入れられ、理不尽な苦痛も無い、楽園なんだ。これこそが人類の救済なんだ。兎乃君にもこの素晴らしさが分かると、私は信じてた」
全てはデータ故に、何でも手に入るし、病気などの苦痛も無い、それが有馬の求めた世界。
「さあな」
「……兎乃君?」
「誰にも理解なんて出来ない。どれだけ頑張ったって他人の心は完全に理解出来る事は無い」
「だが、同じ所があり共感する事もあると私は思う」
「まあな。でも、俺は、有馬さんの理想に共感出来ない」
「……それは、フィクサーと組む。という事なのかい?」
悲しそうに目を閉じた。
「それも違う」
「兄助?」
「俺は手を組む気は無い」
「残念だ。君なら私の理想に共感してくれると思っていた」
有馬は帰って行った。
「良いの? 兄助」
「ああ、良いんだ、これで」
ソファーに背を預ける。
「ここからの事は俺に任せて欲しい」
「兄弟? オレ達仲間だろ!? 何で1人になるような事を言うんだよ!」
「ヒメキチに誘われて戻って来て、ここまで戦って来た。やっと見つけたんだ。これは、どうしても俺がやりたい事なんだ」
何か言おうとしていたゼロ兄をクリスティーナが止める。
「破滅するかもしれない奴を放っておくなんて出来ないんだ。フィクサーも有馬も計画に全てを賭している。誰が勝っても、誰かが破滅する。黙って見ている事が出来るほど、俺は大人じゃ無い」
俺に出来る事は、俺の道を作る事だ。この状況をひっくり返せる、革命の道を作り上げる。
「わたし達に出来る事は?」
クリスティーナがゼロ兄を離す。
「もちろん、ある」
みんながソファーに座った。
「世界を救う訳じゃ無い。世界征服でも無い。ただの俺のお節介に手伝ってくれるか?」
みんなが様々にうなずく。
「正義とか正しいとか……」
「ザイン、早く状況を説明してくれるか? このバカが待ちきれない」
ハイドを指差しているドウジに催促される。
「誰がバカだ! 待ちきれないのはお前もだろ」
「そうだが? みんな同じだ」
ドウジは呆れながら笑っている。気が付けばみんなやる気に満ちた顔をしていた。
「分かった」
ハイドが騒ぐ前に話を始める事にする。
「なるほど……聞いた事がある。私がまだ現役でだった頃に撮影でアメリカに居たのだが、かなり大きなマフィアがたった1人に壊滅させられたとな。もしかすると、それがフィクサーなのかもしれん」
虎助さんは今は引退して隠居の身だが、元は銀幕のスターで、芸能事務所の元社長だ。何度もアメリカの賞を取っているし、アメリカの映画にも出ている。
「その事件は多くの方死傷者を出した。その中には年端のいかぬ少年や成年も居たはずだ」
「その人達が、フィクサーの仲間だったのか」
「可能性は高いだろうなぁ」
虎助さんは顎を摩っている。
「もしかして……あの坂本虎郎!?」
リノがびっくりして倒れた。
「ふむ、芸名を知っていてくれているとは、嬉しいものだな」
虎助さんが莉乃を抱き起こすが、リノは反応しない。
「リノちゃん? リノちゃーん!」
ヒメキチの声にも反応しない。
「気絶してますね。頭を打った事か、びっくりし過ぎたんだと思います」
元看護師のウィルの指示に従ってリノを寝かせる。
「ザイン君、作戦会議は明日にしましょう。もう夜も遅いです」
「分かった、ベルの言う通りだ」
それぞれギルドハウスの部屋を割り当て、休む事にした。