94 15の試練
「ソウルキャリーですね」
胸から剣が抜けて、ズルズルと倒れていった女達をダンテは見向きもしない。憎悪に支配された目で俺を睨み続けている。
スキル、ソウルキャリー、味方を手にかけた分だけ、追加のHPとバフを得るスキルだ。
今のダンテは14人の女は分とダンテ自身の分で15回倒さなければ負けなくなっている。残機を14持っているとも言える。更に攻撃防御も普段ヒメキチがかけていたバフの何倍もある。攻撃が掠っただけで確実に死ぬ。
戦力を1人に集める究極のスキル、味方を手にかける意味とその重さを問われるスキルだ。どんな仲間でも手にかければ強さを得られる。それは仲間は誰でも良いという意味にもなる。
ダンテが蛇腹剣を振る。鞭のように剣が地面を叩く。
地面が割れる……なんて事は無く、少し砂埃が上がっただけだった。
攻撃力を考えれば、闘技場を真っ二つにしてもおかしくない。不気味なほどダンテは静かで動きが遅い。
罠か余裕か、それを判断出来る材料は無い。分からない。カインドさんという知恵と知識で登り詰めて来た天才の特訓を受けている事が判断を鈍らせる。
ダンテを守るように蛇腹剣の刃が球体を描く。
「バリア……!?」
ダンテがサブマシンガンを取り出し構える。
「兄助! どうするの!?」
ダンテが引鉄を引く。
「……あのバリアは、破れない」
「ええ!?」
弾丸を回避しながら考える。
強い攻撃は球体で受け流し、弱い攻撃は蛇腹剣で打ち砕く、無敵の城塞。
「ザイン君はどうやってカインド君に勝ったんですか!?」
「それは……」
あの時、どうやっても攻撃でバリアは破壊できなかった。
「素手で掴んで止めた」
「……え?」
「前にダンテと戦った時とは話が違う。全てが桁外れだ。力を使って刃の隙間を通す事は出来ても、出力差でいずれ負ける。バリアを破壊しなければ勝ちは無い」
「兄助……!?」
ヒメキチが驚いた顔で俺を見ている。
「そこで蜂の巣になれよ。腰抜け!」
ダンテの憎悪のオーラが目に見える。
「俺はお前とは違う」
「ああ、僕とお前は違う。カインド様を見捨てたお前とは違う!」
弾丸の嵐は止まらない。一つ一つが即死級の攻撃だ。回避に慣れていないヒメキチにはキツいはずだ。
時間をかければ不利になる。
「俺があの人を見捨てた……か」
そんな事するはずが無い。そう思いたいのに、思おうとすると、何故か頭が痛む。
弾丸を潜り抜け、ダンテに近づく。
「ザイン君!」
バリアに手を突っ込んで、蛇腹剣の紐を掴む。
当然、刃が体に直撃しHPが消える。食いしばりのスキルで1だけしか残らなかった。
強烈なダメージを受け、強制的に膝をつく事になる。
「ぐぅ……」
呻き声か漏れる。
「懺悔しろ。カインド様を……何故死に追いやった!」
頭にサブマシンガンが突きつけられる。
「するわけないだろ……大事な仲間なのに」
「なら、何故カインド様は死んだ! 答えろ!」
「知ってたら答えてる!」
息を整え、掴んだ蛇腹剣にナイフを突き立てる。
「お前は近くに居て、カインド様をみすみす死なせた!」
ダンテが引鉄に指をかける。
「万死に値する罪を悔いて、消えろ!」
「兄助はやらせない!」
発砲音が聞こえた。
ダンテの手からサブマシンガンが離れ、地面に落ちた。ヒメキチがダンテのサブマシンガンを撃ち抜いていた。
「邪魔をするな!」
ダンテの怒号にヒメキチが怯んだ。ヒメキチはびっくりして、銃を落としそうになる。
「そうか……お前も、お前も、カインド様を見殺しにした仲間だった。僕が、僕だけが、カインド様の本当の仲間、僕がカインド様の意志を継ぐ」
憎悪に溺れたダンテがヒメキチとベルを睨んでいる。
「ベルさん!」
ヒメキチがウタヒメを天に掲げ、ベルにバフをする。
「はいっ!」
ベルが正面からダンテに殴り込む。
「削ぎ落とす……!」
ダンテが蛇腹剣を振り上げるが、思うように上がらず、困惑している。
「仲間をやらせはしない」
「……まさか」
蛇腹剣の紐を掴んだままにしていた。ダンテの動きを止める事が出来た。
「破っ!」
ベルの渾身の拳がダンテの鼻っ面に入る。
「あなたがどれだけ防御バフを積もうとも、関係ありません!」
ベルのスキル、防御崩壊、相手と自身の防御ステータスを強制的に0にするスキルだ。諸刃の剣だが、当たらなければ問題は無い。
ダンテの表情は変わらないが、ダンテのHPを消し飛ばした。そして、HPが0になると、最大まで回復した。
まだ後、14回分の追加HPがダンテには残っている。
ベルに抱えられ、ダンテから距離を取る。
「ヒメちゃん! ザイン君を!」
「兄助! 今回復するからね!」
ヒメキチの回復魔法をかけるが回復しなかった。
「……何で……何で回復しないの!?」
「呪い……」
考えられるのは呪いのバッドステータスだ。呪いをかけられるとHPが回復しなくなり、少しのデバフがかかる。その上、倦怠感に襲われ、動きが鈍くなる。
「ごめん、呪いはウィルウィルじゃないと解けない」
呪いを解く魔法はウィルしか持っていない。
「そうさ、全てはカインド様と僕の策通りに事が運ぶ」
勝利を確信してダンテは痛々しく笑っている。
「そんなの、絶対にさせない」
ヒメキチは銃を構え、はっきりと言い切った。