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92 化物喰らいの化物

「君の力を自分に……いや、武器持ってないんだね」

 カインド様はギルドハウスに招き入れてくださった。

「あとさ、様をつけないで欲しいんだけど」

 カインド様はメニューを開いて何か探している。

「そ、それだけ尊敬してます」

「尊敬されても困るんだけど」

 カインド様はメニューで剣を取り出し、渡してきた。

「それあげるよ。アインみたいに面倒な事はしたくないし、そもそも同じ蛇腹剣だし」

 興味なさそうに伸びをしている。

「ええ!? 良いんですか? 僕なんかに」

「良いから、どうでも」

 どうでも……

 眠そうに欠伸をしている。


 ギルドハウスのトレーニングルームのシミュレーションで力を見せる事になった。

 襲いくるモンスターのホログラムをカインド様の戦いを真似して斬り倒す。何千何万と振ってきたように、剣が手に馴染む。

 カインド様が助けてくれた時、その動きに心を奪われた。神が人を蹂躙するような美しさと冷酷さ、カインド様を見る度にあの感覚が心を支配する。

 数ミリ単位の手首の調整、体の軸の動かし方、足の向き、動きの全てが繊細なのに、立ち回りは大胆だ。

 カインド様は戦う時に笑みか欠伸を絶やさない。


「へー、凄いね。確かに自分の動きと全く同じだよ」

 カインド様が拍手をしてくれる。

「でもさ、何で自分? アインを真似した方が良いでしょ、アインはあれでも世界一だし」

「興味無いです」

「え……ごめん、自分同性愛者じゃないから、ちょっと」

 カインド様がドン引きして後ずさった。

「いや、それは僕もです」

 カインド様が戻ってきた。

「純粋に戦い方とか考え方とか尊敬してるんです。助けてくださったカインド様の凄い戦いが目に焼き付いて離れないんです」

「へー、興味無い」

 カインド様は大欠伸をしている。

 上手く思っている事を説明出来なかった。

「まあ、でも、君ならアインを倒せるかもしれない。そこは期待してるから、特訓してあげるよ」

「い、良いんですか!?」

 カインド様が特訓してくれるなんて、思いもよらなかった。

「良いよ。アインをボコボコにして泣かせてくれる人を自分も待ってたし」

 目的が歪んでいる気がするが気にしてはならない。

「よろしくね、ダンテ」

「は、はい!」


 それから何度もカインド様と特訓をした。

 カインド様は細かな所までしっかり見て、戦い方を教えてくれる。

 ある時、仲間が増えた事でアインの動きが180度変わったが、カインド様は丁寧に動きを解説してくれて、アインの動きも身につけていった。

「勝つ為に一番重要なのは意思だよ。勝ちたいと思ってない奴はどんなに努力しても有効に使えないし、奇跡も起こせない。勝ちたいと強く思う事と冷静さを保つ事は同時に出来ることだからね」

 カインド様は何度もそうおっしゃっていた。それは簡単な事じゃ無い、でも、出来れば、確かに勝てている。

 勝ちたいと思えば、どんなピンチでも勝ち筋を見つけられるし、冷静さを保っていれば、負け筋を回避する事が出来た。

 カインド様は勝ってもあまり興味無さそうにしていた。

 夢幻の(ファントム)指揮官(コンダクター)の名で知られるカインド様からしたら勝利に導くのは容易い事なのかもしれない。




 何の前触れもなくカインド様はログインしなくなった。それでも、カインド様の教えを守り、戦い続けた。いつかカインド様が目標にしていたアインを倒す為に。

 しかし、その思いも届かなかった。

 暫くぶりにログインしたカインド様は突如、引退を宣言した。

 そして、僕のもとにもカインド様は来た。

「久しぶり、ダンテ」

「カインド様……」

 カインド様は少し疲れた顔で優しい笑みを見せる。

「自分はさ、警察になろうと思うんだ」

「警察ですか?」

 いきなりの宣言に驚いて聞き返す。

「うん、警察。自分だけがダンテに目標を押し付けるだけだったら、良くないからさ」

「そ、そんな事無いです! そもそも僕はまだまだ……」

「これ以上教えられる事は、一つしか無いよ。ダンテ、信頼出来る仲間を見つける、それが最後だ」

「カインド様……」

「目標は自分自身で見つけるものだよ。まあ、引き続きアインを倒すっていうのも良いけどね。未だ負け知らずだし」

「はい……」

「うん、じゃあ、またね」

 カインド様はログアウトして2度とゲームには戻って来なかった。


 そして、カインド様の訃報をネットニュースで知った。

 自室で事故死と警察は発表しているが、そうは思えなかった。ただどうすれば良いか分からず無気力に部屋に篭るしか出来なかった。

「ダンテ、アーサーさんが来てくれたぞ?」

 部屋の外からケイの声が聞こえる。

 ドアを開けるとアーサーとケイが立っていた。

「少し話そう」

 夜の庭を散歩しながらアーサーと話す事になった。


「君の憧れるカインドは、殺された」

「え?」

「銀行を何度も止められ、金を抑えられていた。それだけじゃない」

「な、何でそんな事……」

「都庁立て籠り事件というのが日本であった。彼はそれに関わってしまったんだ」

「何でカインド様が……」

「彼はそこで殺人を犯した。殺した相手が不味かった、不破剛道、俺達と同じ進化した者だった。正当防衛とは言え、彼の娘の力を欲していた奴らからすれば、許せなかったのだろう」

「そんな……カインド様が殺人なんて」

「その場にいたアインを守る為だった。これは資料だ」

 アーサーに資料を渡され、目を通す。

「残念ながらその場にいた人物は皆口を閉ざしている。それ以上の事は分からない」


「カインド様……」

 膝から崩れ落ちた。

「知りたいか?」

 うなずく。

「君にはその力がある」

「……力」

「俺には警察という顔と、もう一つ顔がある。もう一つは、フィクサー」

「フィクサー」

 聞いた事がある。ギャングや腐敗した政治家の壊滅の裏にいつも関わっているとされている人物だ。

 そういう人物なら大きな病院とかを持っていても不思議では無い。少し若すぎる気もするが。

「俺はいずれ世界を手にする。君にはその手伝いをしてもらいたい」

「何で……?」

「君の復讐、真実を知る事は、俺の道の途中にある。必ずアインと、カインドを殺した何者かが立ち塞がる」

「僕にアインを?」

「そうだ。彼は真実を知っていながら黙っている。かつての仲間の死に何かを隠している。知りたくはないか、真実を?」

「知りたい……僕はカインド様の仇を討ちたい」

「ならば、契約だ。互いの目的の為に。俺はダンテ、お前を信頼しよう」

「黙れ……僕はカインド様の為に契約するだけだ」

 ダンテは立ち上がった。

「ふっ、いいだろう」

 ダンテの目は昏く冷たい復讐の炎に燃えていた。

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