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91 あの日の夢

 目を覚ます。見慣れた自分の病室の天井だ。

 アメリカの刑事が椅子に座って、スマホで何かしている。

「おはよう」

「……おはようございます」

 アーサーはスマホをポケットに入れてこっちを向いた。

「君にはここの事は何も教えて無かったはず、俺から説明しよう」

「え、うん……」

 曖昧な返事しか出来ない。

「ここは孤児院兼、病院だ。安心して欲しい、今までみたいな事は決して無い。みんなが君の意思を尊重してくれるはずだ」

 僕の意思……

「欲しい物があったら、ナースに言うと良い、たぶん、買ってくれる、たぶん、無茶を言わない限り」

「僕は何なんですか?」

「難しい質問だな。君はそもそも戸籍が無く、名前も無い、確実な事は人という事だけだ」

 冗談で言っているのなら、何も面白くない。

「そんなに拗ねた顔をするな、事実だ。ついでに言うと、君は両親に売られ、研究所のモルモットにされていた所を救助したという訳だ」

「研究所?」

「人の脳は90%以上が使われていない、それを使えるようにし、人に進化を促すという研究だ」

 何が何なのかわからない。

「そして、君は進化の予兆を見せている」

「え……?」

「ここに来て一度もボールを触っていない君が、リフティングをしたと聞いた。君は見たものを理解し自分のものに出来る力を得たと考えている」

「いきなり進化とか力とか、何なんですか? そもそもあなたは……」

「俺はここのオーナーだが」

 口を噤むしか無かった。

「君みたいな……運が悪かった子を保護している。俺も似たような過去がある」


「君にも名前が必要だ」

 アーサーはスマホの画面を見せる。名前が並んでいる。

「自分を卑下する事は無い。英雄や偉人と名前を同じにすれば、少しは自信になるはずだ。もちろん、全部同じにするわけでは無い、それだと君というアイデンティティが薄れるからな」

「ダンテ……ダンテが良いです」

「それは良い。地獄、煉獄を渡り、天国へと歩む者か」


「読み書きは出来るようだが、学校には行ってないのだろう?」

 アーサーの言葉に頷く。

「学校も併設されている、そこに通うと良い。大丈夫だ。ここにいる者は皆、本物の家族だ」

「……そうですか」

「それと、君には俺の連絡先も渡しておこう。同じ、力を持った者同士、いつでも相談に乗る」

 アーサーからメモを受け取る。

 そして、アーサーのスマホが鳴り、電話し始めた。

「報告ありがとう、イリヤ、すぐにそちらに向かう」

 アーサーが電話を切った。

「君なら大丈夫だ。俺はロシアに行く。いつでも電話してくれ」

 アメリカの警察がイタリアに居て、次はロシア? それも大きな施設のオーナー、何者なんだろうか。

 アーサーは部屋から出て行った。




 アーサーの言った通り、学校に通う事になった。

 意外な事にすんなりとクラスに受け入れられ、勉強する日々が始まった。

「ダンテ、凄いじゃん、テスト100点だったんだろ? 勉強教えてくれよー」

「私もー!」

 力を少し応用すれば勉強は出来たし、クラスの家族との仲も悪く無かった。でも、何かが足りなかった。


「俺も今度頼んでみようかな」

「アーサーさんが来てくれた時の方が良くない?」

「なぁ、ダンテ」

 男子の1人ケイがスマホを見せて来る。その画面には助けてくれたカインドとその仲間が映っている。

「スタートワールドオンラインって知ってる?」

 首を横に振る。

「映ってる人は?」

「ゲーム世界チャンピオン、ほらこの人、アインって言うんだけど、俺達と同じくらいなのに凄いよなー。俺もゲームやってみたいんだけど、ここの人あんまり良い顔しなくてさー。一緒に頼んで欲しいんだ」

「僕? 良いよ」

「やった! 成績優秀なダンテが一緒なら絶対OKでしょ!」


 ケイ達と頼んでみると、少し苦い顔をされたが許可してくれた。

 すぐに最新のパソコンとVRの道具が届いた。

「直接アーサーさんに掛け合ってくれたんだって! やっぱアーサーさんすげー!」

 本当に何者なんだろうか、あの人。

 嫌な思い出よりもあの人にもう一度会いたいという気持ちの方が強かった。ゲームを始めてみる。

 設定を終わらせて、早速町に出た。あの人はどこに居るんだろう。

「ダンテ、アイン達は闘技場の近くに居るんだって!」

「うん、僕も行くよ」




「え? 今日の勝因? うーん、アインの自爆」

 公式のギルド戦のヒーローインタビューがやっている。

 所々が焦げている少年がカインドに掴みかかろうとして止められている。

「ぐぐぐ……!」

「アイン君、お、落ち着いてー!」

「背中に爆弾つけて自爆特攻させるなんて、相変わらずカインドも懲りないな。それに気づかないアインもアインだけどな」

「ハイド? 何を言ってる?」

 完全に逝った目でアインはハイドを睨んでいる。怒りの矛先がハイドに向いた。

「ま、待て待て、悪いのはカインドだ。だろ? 何で剣抜いてんだ、おい、待て!?」

「まあ、自分達を倒せるギルドなんて出てこないだろうし、紅白戦の方が面白いかもね。まあ、誰もこの狂犬を止められないんじゃない?」

 伸びをしながら悠々自適に味方まで煽り散らしている。

「凄いよなぁ、あのアインを煽ってるんだから、下手するとボコボコにされるだろ」

 インタビューが終わり、駆け寄る。ケイは逃げるハイドを追うアインを追って行った。


「あれ? この前助けた子やん?」

「この前?」

 カインドは大欠伸している。

「お、お礼言えなかったから」

「仕事だから」

「うわっ、素っ気な、わざわざお礼を言いに来てくれるなんて、良い子やん?」

「そうかもね。アインに爪の垢を煎じて飲ませたいよ」

「いや、まず自分で飲み」

「それで、何か用?」

「ぼ、僕、力があるらしくて、同じ事が出来るんです」

 非常識な事を言っているのに2人の顔が真剣になる。

「そういう事、あんまり外で言ったらあかんで。おかしな奴に見られるし、悪い奴にまた狙われるで?」

 ハッとして口を押さえる。

「まあ、見せに来たんでしょ? 良いよ、見てあげよう」

「ふぅん? あの性根のひん曲がったカインドはんが珍しい」

「もしも、アインみたいな力があるのなら、アインを倒せるかもしれないしね」

「うわ、性格悪っ。ま、そういう事ならギルドハウス行こか」

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