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9 荒刃の剣

「ちょっと! ウィルウィル! 兄助を横取りするなんてウィルウィルでもダメだからね!」

 ヒメキチが何処かから出てきた。

「別に俺は誰の物でも無い」


「あなたがギルドマスターのヒメキチさんですね」

 カレンがヒメキチの前に歩み出る。

「凛聖女協会のカレンさんですね」

 ヒメキチは普段はあれだが、かなり出来る女だ。

「単刀直入に言います。私のギルドに入って頂けませんか? 全員で」

 ヒメキチはすぐ首を横に振った。


「私は、ザインと一緒にやりたいだけなの。だから、何を言われても入る気はありません」

 ヒメキチは毅然とした態度で断った。

「どいつもこいつも、姉様の厚意を踏みにじって!」

 遂にリノの怒りが爆発した。

「リノ」

 カレンも毅然とした態度でリノを止める。

「なら、ギルド戦をしませんか? ザインさんにも言いましたが、戦えば気が変わると思います」

 自信のある表情のカレンにヒメキチは困った顔をする。


「では、今日はこれで、後で詳細をメールで送りますので」

 カレンとリノはワープで消えた。

「あ、ザイン君! 私ね、ザイン君の家の近くに引っ越したの!」

 ウィルの言葉に戸惑う。

「年齢的にもう少しだよね! 私、ザイン君を養う準備出来てるから! だから、その、結婚……や、やっぱりまた今度ね!」

 ウィルもワープした。


「はぁ、ウィルウィルもカレン先輩も……私の兄助なのに。絶対に奪わせない……」

 狂気じみた声色でヒメキチが呟いている。

「どうした?」

「え!? 兄助が一人でやってたから私も手伝おうかなぁって」

 ヒメキチは一瞬ビックリした顔になってからいつもの満開の笑顔に戻る。

「そうなのか。今から剣をボスドロするらしい死神騎士を倒しに行くところなんだが」

「行く行く! ついて行くから!」

「分かった。援護頼むな」

「うん!」




「壊された聖堂の死神騎士が、ウタヒメという剣をドロするらしい」

「ん~? 聞いたこと無いかも?」

「だろうな。弱いらしい」

「え? どういうこと?」

「強化段階があって、ドロした奴は弱いらしい。強化するのも素材が面倒らしくて、強化後を誰も知らないってさ」

「剣ならドラゴン倒した方がそのまま使えて楽だもんね」

「まあ、そういうことで、行くか」




 壊された聖堂。設定的には、戦争が起こり敵国に破壊され焼け落ちた聖堂だそうだ。地下に墳墓がある。アンデッドの巣窟になっているらしい。

 黒魔の杖はアンデッドと相性が悪いので置いてきた。闇属性的にあいつはこのダンジョンについていけない。


 屋根も無く、柱とボロボロの床だけが残っている。上を向けば怪しく光る満月が見える。

「この地下なんだよね?」

「そうだな」

 地下に続く階段が石像の下に見える。

「行くか」

 階段に一歩踏み出す。

「え!?」

 ヒメキチは続かない。

「どうした?」

「いやぁ、そのぉ……」

「別に、お前は俺が必ず守るから怖いことは何も無いだろ」

 ヒメキチの顔が真っ赤になる。

「うん。また、守ってね」




 地下に降りると通路にうようよとゾンビにスケルトンが湧いている。

 これは確かに気持ち悪い。

「俺が先行して全部倒す。補助頼む」

「分かった!」

 ヒメキチが杖を振ると、魔法の光に包まれる。

 攻撃力2倍、破格の補助性能だ。これなら斧でもすぐ終わる。


「さて、おい! こっちだ!」

 スキル、ウォークライにより、このフロアのモンスターのターゲットが全部俺になる。

 そして、アンデッド達の中心に飛び込む。

 うめき声を上げながら襲い掛かって来るアンデッドの首を狙って斧を振る。


 攻撃力2倍バフの効果でアンデッドが一撃で倒れていく。

 斧をぶん回し、一撃で数体に当てるように意識しながら、殲滅していく。


 ヒメキチの所までアンデッドが行く前に殲滅することが出来た。

「ありがと、兄助」

「いつものことだろ?」

「そーだけど! そーだけど!」

 駄々っ子みたいだ。

「行くぞ」


 一本道を進み、最奥の部屋の扉を開ける。

 大きな部屋だ。何本もの柱の先に大きな棺が横たわっている。天井に開いた穴から月の光が漏れている。

 棺の前で剣を抱き座っているスケルトンが居る。


「あれが死神騎士?」

「そうっぽいな」

 死神騎士が立ち上がる。ボロボロの剣を引きずりながら走りだす。

「来るよ! 兄助!」


 死神騎士が跳び落下と共に剣を振り下ろす。

 斧の柄で剣を受け止め、蹴り飛ばし距離を開ける。

 中々楽しめる相手のようだ。


「バフ行くよ! ひゃあ!?」

 ヒメキチの悲鳴が聞こえる。いつの間にかアンデッドにヒメキチが囲まれている。

 お供として召喚されたのか。


 ゾンビの爪がヒメキチを切り裂く、微々たるものだが、ヒメキチにダメージが入り、その上、押し倒された。

 そのままアンデッド達がヒメキチになだれ込む。

 ヒメキチはどうすることも出来ない。恐怖に支配された顔がアンデッドの間から見えた。


 死神騎士を回し蹴りで、転がし、斧を投げる。

 斧はゾンビの頭に突き刺さり、ゾンビが倒れる。

 そして、斧を引き抜き、何度もゾンビの頭に振り下ろす。

 消える最後の一瞬まで何度も斧を振り下ろす。


 スケルトンがヒメキチに弓を射るのが見えた。

 飛んで来る矢を掴む。

 スケルトンの首を斧でへし折る。スケルトンの頭蓋骨が何処かに飛んでいった。




「声すら上げる間も与えず、逃げることもさせず、無慈悲に、残虐に、敵を屠り続ける破壊者、一閃の破壊者(デスロイヤーワン)、アイン」

 管理者はモニターでその様子を見ている。

「ヒメキチが攻撃されることでスイッチが入り、その異名通りの存在となる。考えて破壊する、質の悪い獣」

 ザインは黙々とアンデッドを殲滅し、管理者はそこにアンデッドを追加していく。

「ヒメキチの為に、彼女に仇為すものを破壊するだけの化け物へと変わる」

 管理者の顔が悲嘆に歪む。




 少しだけ冷静さを取り戻した。アンデッドを倒しても倒しても無限に湧き続ける。

 よくあるボスを倒すまでは無限湧きということか。

 右腕でヒメキチを抱き上げる。

「兄助……」

「少し我慢してくれ」

「我慢なんて……今バフするから!」

 全能力が2倍まで上がる。


 死神騎士もヒメキチを執拗に狙って剣で攻撃を仕掛けてくる。

 ウォークライのタゲ集中を無視してヒメキチにタゲが集まっている。

 バグなのか?


 ヤクザキックで死神騎士の体勢を崩す。流石にヒメキチを抱えた状態で派手なことは出来ない。

 斧を投げて死神騎士の頭にぶつける。

 死神騎士がバランスを崩し倒れた。死神騎士の剣を奪い取り、死神騎士の胸に剣を突き刺す。


 死神騎士は体力が0になり消滅し宝箱が落ちてきた。


「大丈夫か?」

 ヒメキチを降ろす。

「うん……」

 ヒメキチの頭を撫でる。

「悪かった、守れなかった」

「そんなことないよ。いつだって私の為に必死になってくれる兄助には感謝しか無いんだよ?」


「それにね、約束したでしょ? 私は兎乃の物」

「俺は姫花の物、だろ?」

「うん。ずっと、ずーっと、それが続けば私はそれで良いの」

 ヒメキチが宝箱を開けて、中の剣を持つ。

 跪いて剣を受け取る体勢になる。

「私の、私だけの騎士様。これからも守ってくださいね、なーんて、えへへ」

 ヒメキチは愛らしい笑顔でお姫様の真似をして剣を渡した。

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