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89 2つの行末

「メタトロン・システム、準備はどうかな?」

 リスタートワールドオンラインの中枢である管理室に有馬が珍しく姿を現した。

「完了しています。後は命令次第で実行できます」

「そうか。それは素晴らしい」

 有馬はホログラムで出来たワールドマップの前に立つ。

「有馬の悲願がついに叶う時が来た」

「社長」

 端正な顔の白髪に褐色の青年が精悍な顔の中年男性を案内してきた。

「これはこれは、安住総理でしたか」

 有馬は恭しくお辞儀をする。

「有馬社長、計画の方は如何かな?」

 安住実数(さねかず)、現総理大臣だ。都庁立て籠り事件の時の都知事で、犯人以外に死人を出さず事件を解決したという事もあり、国民から人気がある。

「私はハチマンが日本の企業という事に誇りを持っている。そして、君の計画も素晴らしいと私は思っている。秘書のマルク君も素晴らしい。後はあの憎きガキさえ始末出来れば言う事は無いが」

 白髪の青年が頭を下げる。

 あのガキとはザインの事だ。安住とザインには因縁があるらしい。

「計画は実行に移すだけです。あと、彼はこの計画の中心です。あなたが憎しみを捨てなければ計画は完璧に成功したとは言えません。これは人類の救済ですから」

「ふん、まあ良い、計画さえ成功すればあんなガキもどうでも良くなる。頼むぞ、この計画に私がどれだけ尽力したと思っている。アメリカやロシア連中の何倍も尽くしたのだからな」

 この計画には各国の首相が便宜を図っている、もちろん、見返りを求めての事だが。

「分かってますよ」

「私は帰ろう、マルク君、案内を頼む」

 マルクが安住を案内して部屋を出て行った。

「メタトロン・システム、実行は明日だ。準決勝の最中、最も盛り上がりを見せたタイミングが良いだろう」

「しかし、それでは、全人類の救済にはならないのでは?」

「7割、いや、5割救済すれば、残りの人々も自主的に救済に来てくれる。そうなれば全人類救済出来る」

「分かりました」

「それにこうしておけば、誰にも止められない」




「負けたか」

「はい、申し訳ありません、フィクサー様」

 画面の中でイリヤが頭を下げている。

「良い、アレに勝てないのは普通の事だ。それにお前を処断するのなら、まずシューベルトから処断しなければならなくなる」

「ありがとうございます」

「まだ役割は残っている。期待している」

「はい、今度こそ、役に立って見せますわ」

 イリヤは高笑いをしようとして椅子から倒れた。

「ダンテ」

 黙り続けていたダンテをフィクサーは見る。

「僕は好きにさせてもらいます」

「ああ、好きにしろ。それで良い」

「……今度こそ、奴を」

 ダンテはぶつぶつと呟いている。

「良いのですか?」

 演奏を終えたシューベルトがフィクサーの前の席に座る。

「ああ、ダンテの怨讐は止まらない、その思いのままに好きにやるべきだ」

「こちらは現状有馬の出方次第です」

「シューベルト、いつもすまない、引き続き頼む」

「はい」

 シューベルトはノートパソコンを立ち上げ、何かを打ち込んでいる。

「日本大会の時とは全くの別人ですね」

 軽蔑したダンテの声が聞こえる。

「私ですか? ええ、あれは演技ですから」

「奴にはある程度こちらを匂わせ、かつ、シューベルトとの関係を薄く見せたかった。だが、あの誘拐により、それも無意味にはなったが」

 フィクサーがワインを飲みながら補足する。

「心酔する相手くらい選んだ方が良いですよ」

「御忠告どうも」

 シューベルトは素っ気なく返事をしパソコンと睨み合いをしている。

「手厳しいな」

「僕とあなたは契約上の関係、他の連中と違い、お互いに利用するだけの間柄です。僕は復讐、あなたは世界を手に入れる。それが終わればどうでも良いんです」

「別に俺は構わない」

「僕も構いません。カインド様の居ない世界に価値なんてありませんから。そういう事で」

 ダンテが通信を切った。

「良いんですか?」

「確かにダンテの力は惜しいが、無理強いした所で無駄だ。あの目にはカインドとザインしか写ってない」

「それはそれで悲しいですわね」

 椅子の調整をしなおしたイリヤが画面に戻ってきた。

「復讐の終わりに何を思うか、それは自分自身次第だ。前を向くか、終わりを見るか、それはその時にしか分からない」

「うぅ、復讐、本当に嫌ですわ」

 イリヤは両親をギャングの抗争に巻き込まれ、失っている。復讐しようとした所をフィクサーに拾われている。ギャングはフィクサーが壊滅させたが、残党の復讐に怯える状況は続いている。

「だが、俺が世界を取れば、それも終わる」

「わたくしも頑張りますわ」

「期待している」

 イリヤがまた椅子から倒れた。

「イリヤ」

「は、はい、何でしょうか?」

「椅子が合わないのなら新しい物を送る。日本製の奴で良いか?」

「申し訳ありません、ありがとうございます」

 イリヤは頭を下げ、また倒れた。

「シューベルト、良い店を探してくれ、明日の試合前に行く」

「お供します」

 シューベルトは作業を中断し、ネットで店を探し始めた。

「……試合前にそこまでして頂かなくても良いのですわ」

 椅子探しを楽しんでいる2人にイリヤの声は届かなかった。

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