88 最後の写真
「相変わらず暇そうで良いですねー」
イリヤ戦が終わった翌日。
学校からの帰り道のコンビニでばったり桜川刑事と加瀬刑事に会ってしまった。
「暇ってのは……いや、何でもねぇ」
頭を掻いてため息を吐いた。
「試合見たよ」
対照的に加瀬刑事は元気いっぱいだ。
「それで、捕まえられました?」
桜川刑事が首を横に振る。
「どっちも手掛かりが無い。誘拐に至っては犯行現場がもう無いからな」
姫花が誘拐された場所は家、その家は有馬によって修理され、事件の面影は無い。
「マフィアの奴は?」
「相変わらずだ。凶器が分からない、監視カメラにも映って無い、足跡とかの証拠も無い。今は目撃情報待ちだ」
言葉とは裏腹に、目は獲物を狙う鷹のように鋭い。
「何かあるのか?」
「ああ、監視カメラに映らなかったんだ。つまり、監視カメラの場所は知っていたって事だ。素人で事前にカメラの場所を調べていたのなら、調べていた時に映っていてもおかしくないだろ? 警察なら監視カメラの場所は分かるんだがな。まあ、後一つくらい切り崩す手が欲しい」
桜川刑事が言うに犯人は警察内部なのか。
「それにしても嫌な空気だ」
桜川刑事が腕を組む。
「フィクサーの件で何か分かった事は?」
その時、パンパンの袋を持ったアーサーがコンビニから出てきた。
「……ねーよ。動いてない奴を追える程警察は万能じゃない」
「捜査情報を一般人に流して良いのですか?」
「こいつは被害者だから特別だ。何か情報が出てくるかもしれないだろ」
アーサーの袋から大量のコンビニスイーツが見える。
「なるほど……これですか? 日本では有名とお聞きしたので」
アーサーがエクレアの袋を開けた。
「一つ頼みがある」
「ああ?」
「絶対にゲームをしないで欲しい」
アーサーがエクレアをちょっと齧る。
「やらねぇよ。そんなに暇じゃねぇ」
「それが上司の命令でもか?」
「は? どう言う事だよ?」
アーサーが凄く美味しそうな顔になった。どうしても目が行ってしまう。
「何を企んでいるのかは分からないが、有馬は全人類にゲームをやらせたいらしい。圧力をかけてくるかもしれない」
「金になるからだろ、そんな事で圧力かけるか?」
「誘拐の事もある。用心しておきたいんだ」
アーサーがエクレアを食べ終え、シュークリームに手を出す。
「分かった」
あっさり引き下がった。
「もしかして、生で決勝見れない……」
加瀬刑事が肩を落とした。そして、桜川刑事に叩かれた。
「コンビニスイーツ……これは素晴らしい」
アーサーは感激した顔で袋のスイーツを見ている。
俺も食べたい。
「加恋先輩、準備は良い?」
「はい、もちろんです」
姫花がドアノブに手を伸ばす。
「私は付き合わないからなー」
莉乃は部屋から遠ざかっていく。
姫花がドアを開けた。
兎乃の部屋に2人は入る。
「ここが、兎乃君の……」
加恋は顔を赤くして部屋の中を観察している。
「物が少ないからって兄助掃除しないんだよ! でも、今日は加恋先輩も手伝ってくれるから早く済みそう」
「私で役に立てるか分かりませんけど、頑張ります」
「大丈夫だよ。物少ないし」
「加恋先輩! 加恋先輩!」
「どうしたんですか?」
「これ見てください!」
フローリングの雑巾掛けをしていた加恋に姫花がある物を見せる。
「まあ! これもしかして」
「はい、兄助ですよ!」
写真立ての中には幼い兎乃と男女が写っている。
「まあ、可愛い、この頃から、目がちょっと死にかけてたんですね」
「それも絆創膏だらけだし」
「ですね」
「にしても、この写真……」
「兎乃君のお父様とお母様ですよね?」
「あ、うん、だから、いつ撮ったんだろうって」
「何処で撮ったんでしょう、服は普通ですし」
2人は写真と睨めっこしている。
「4歳の時、何処だったか忘れたけど、大きい公園で撮った奴だ」
「うわぁ!?」
「ご、ごめんなさい!?」
声をかけると2人はびっくりしてピョンと跳ね上がりベッドに飛び込んだ。
「人の部屋で何やってんだ」
「も、もう、兄助かぁ」
「ごめんなさい、兎乃君、ごめんなさい、兎乃君」
加恋は延々と同じ言葉を口走っている。
「掃除だよ、掃除」
「掃除なんかしなくても……」
「ダメだよー、埃は溜まるんだから」
姫花が頬を膨らませて怒っている。
「分かったよ」
「お帰り、遅かったね」
桜川刑事達を発見した所で姫花達と別れ、姫花達は先に帰っていた。
「まあ、色々話したから」
「ふーん?」
「それにしても、その写真」
「机の後ろにあったんだけど」
「そうか」
唯一、家族で写っていて記憶にある最後の写真だ。
「偶然、休みが取れたとかで出かけたんだ。それがこの写真。この後はもう帰って来なくなったから」
「そうだったんだ」
「兎乃君」
ベッドから起き上がった加恋の顔が暗い。
「加恋には言ってなかった? 2人はまだ生きてるよ」
「え、あ、そうなんですか!?」
加恋の顔が明るくなった。
「まあ、もう人間じゃないっぽいけど」
加恋の顔からはてなマークが溢れている。
「高性能AIの生体ユニットになった」
「えっと、その」
「リスタートワールドオンラインの管理者って居るだろ? あれ」
「確かに聞いたことはありますけど、そんな事法律上良いんですか?」
「少なくともハチマンなら法律くらいねじ曲げる事ができそうだけどな」
「それは、確かに」
「それに、給料は全部俺に流れてくるから、生活は困ってないしな」
「良いんですか?」
「いざとなったら加恋が居てくれるんだろ?」
「私は?」
「姫花は何を言っても離れないだろ」
「まあ、そうだけどさー」
姫花が照れている。
「兎乃君、姫花さん、いつでも私に頼ってくださいね」
加恋が胸を張っている。
「兎乃君が望むなら、いつだって一緒に居ますから」
「わーたーしーもー!」
「はいはい、所で、ある男のせいで大量にスイーツ買ったんだけど」
アーサーにつられて結局大量にコンビニスイーツを買ってしまったが、こんなに食べられない事に気づいてしまった。
「食べるー!」
「私も頂きます!」