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87 無言、無呼吸、無音の暴虐

 呆気に取られているイリヤを嘲笑う。

「どうした? 全部説明した方が良いか?」

 イリヤがコクリとうなずいた。

「どうやって背後を取ったんですの?」

「少し違うな。俺は背後を取ったわけじゃない」

「はぁ? 何ですの? 余裕だからそんなふざけたことを言ってるんですの? 畜生ですわー!」

 畜生とまで罵られる覚えは無いんだが……

「お前は俺達の罠にかかって見事に俺の前まで誘導されたんだ」

「罠なんて、あ、ありえませんわー!?」

 イリヤがハイテンションでお先真っ暗な顔で驚いてくれるのでちょっと楽しくなってきた。

「ありえないなんてさ、俺達を甘く見過ぎなんじゃ無い?」

「むぐぐぅーっ」

 リスみたいに頬が膨らんでいる。

「単純な話さ。お前は知らず知らずのうちに、俺が待っているポイントまで誘導されてたんだよ」

 イリヤは疑っている。

「桁外れの聴力。それが力だろ?」

 イリヤは魂が抜けたように動かなくなる。

「2メートル先が見えないような吹雪の中で、声を聞き取り場所を把握していた。だから、喋った奴から狙われてたわけだ」

「あ、あ、あ、あ」

「ドラゴンになったゼロ兄を撃てなかったのは見えてなかったから」

「ドラゴン!?」

 天変地異が起こったみたいな絶望な顔になっている。

「羽ばたきと高笑いで他の音はかき消され、俺達が喋っていても、お前には聞こえなかった」

「ありえませんわ……」

「お前の力に気付いた奴はもう1人居た。さっきやられた奴だ」

「それがなんですの? もうやられているじゃありませんか」

「そうだな。だが、あいつはしっかり役目を果たした、お前を俺の所まで誘導したんだから」




「ザイン君! 虎助さん! 影月さんから伝言です」

 影月と虎助さんとバラバラに行動し始めた所でウィルから通信魔法が入った。

「とにかく音を出さないようにと、あと、全て私を通して連絡して欲しいって言ってました」

「分かった」

「あと、ナビーゲートするので、そこで待ち伏せしてください」

「それも影月から?」

「はい、誘導するって言ってました」

「へー」

「相分かった。ザインよ、行くぞー」

「はいはい、やってやろう」

 呼吸を止め、無言で、足音も消して、指定された場所で待機する。

 微かに影月の声と戦闘音が聞こえる。そして、雪を踏む音と息を切らす音が聞こえる。

 そして、少し離れた場所で止まった。イリヤだ。

 イリヤは対物ライフルを取り出し、伏せて、狙撃の準備をしている。

「絶対にまだ動かないでください、だそうですけど」

 ウィルの指示を聞き待機し、様子を見る。

 そして、影月が倒された。

「ザイン君、虎助さんも準備出来たので行ってください」

 そして、現在に至る。




「た、確かに誘導されてますわ!?」

「今頃、虎助さんがあんたからの指示が来なくて困っているガスマスクの奴らと狙撃担当の2人を倒しに行ってる頃だ」

 イリヤは格ゲーでガードを崩されクラクラしているキャラみたいに頭を揺らして、目を回している。

「影月1人で勝利が得られるのなら安いものだ」

「く、くぅ〜……」

「さあ、やろうぜ。何にしても俺を倒せなければ確実に負けなんだ」

「わたくし達の野望の為、フィクサー様の為にあなたくらい道連れにしていきますわ!」

 イリヤが対物ライフルを構える。影月を撃っている所を見たが、消音スキルと反動無効化スキルが付いているのが分かる。


「良いぜ。楽しもう、これはゲームなんだから」

 イリヤの対物ライフルを蹴り上げた。かなり重いらしく、イリヤの手から離れない。しかし、銃口は逸らせた。弾丸が吹雪に吸い込まれていった。

 そのまま踏み込み水晶突剣でイリヤの心臓を狙って突く。

「おーっほっほっほっ、ケーキよりも甘い攻撃ですわね」

 イリヤに手首を掴まれ止められた。

「システマを極めているわたくしに接近戦など無意味ですわ!」

 イリヤに股間を蹴り上げられる。力が入らず膝をつく。

 システマ、ロシアの格闘技だったか、ベルいわく、軍にも取り入れられる一番現実的な格闘技らしい。

「ザイン君のザイン君が!」

「ま、マジでそれはお嬢様キャラがやって良いやつじゃないだろ……」

 ライフルの銃口が頭に着く。

「呆気ないものですわね」

 引鉄を引く為にイリヤが手首から手を離した。


 ライフルの銃身を掴みイリヤに頭突きする。

「痛いですわぁ!?」

 イリヤはよろよろと下がっていった。

「こっちはその数千倍痛かったっての!」

 芋砂だと思って完全に不意を突かれた。まさか、ベル並にインファイトも出来るとは思わなかった、イリヤは吹雪で今までの戦いを隠していたから見れるわけもなかったのだが。

 もう一つ分かった事がある。イリヤは雪を蹴る音や心臓の音で行動を読んでいる。相手の動きを読める者同士の戦いという事か、面白い。


 深呼吸をして痛みを鎮めながら、力を発動させる。

 天から降り注ぐ雪がスローモーションになる。

 イリヤは全く動かない。迎撃姿勢を取り、俺の攻撃を待っている。

 剣を構え走る。

「また同じ手なんて、おバカさんですわね」

 イリヤに剣を突き出す。当然、手首を掴まれ止められた。

 イリヤの足が上がる。また股間を蹴り上げる気だ。

「そっちこそ、同じ手が決まると思うなよ」

 イリヤの肩を掴んで、跳ぶ。イリヤの蹴りは外れ、俺を掴んでいた手が離れた。

 イリヤはすぐにライフルをこっちに向けようとしている。だが、もう遅い。

 跳んだ勢いを利用してイリヤに蹴りを入れる。イリヤはライフルでガードしたがライフルが弾き飛ばされる。

 イリヤはライフルを拾おうとしている。

 剣を投げて、地面に落ちたライフルにぶつける。イリヤからライフルが遠ざかる。

 冥月の大鎌を取り出し、イリヤの首に刃を突きつける。

「……確かにあなたは強いですわ。それは認めて差し上げますわ」

「それはどうも」

「ですが、フィクサー様には絶対に勝てませんわ。だって、あなたの天敵ですもの」

「天敵?」

「そうですわ。フィクサー様の力はあなたという最強の武を潰す為の力なのですわ」

「それでも負けるつもりは無いけどな」

 イリヤは苦笑いをしている。


「最後に一言だけ言ってもよろしいかしら?」

「まさか、死ぬつもりか?」

「違いますわ! ゲームで負けて没落するなんて恥でしかありませんわ。この試合の感想を言うだけですわ」

「それなら良いんだけど」

「えぇ、おっほん。ああー! 悔しいですわー!」

 落ち着いた表情から一転して悔しさ全開の顔になり、地団駄を踏んでいる。心底悔しいのが伝わってくる。

 イリヤの首を刎ねる。これで勝ちも同然だ。

「ウィル、虎助さんの方は?」

「ザイン君、お疲れ様〜、虎助さんの方もおわりましたよ〜」

 吹雪と黒炎に包まれていたフィールドが元に戻って行く。勝ちが決まったのだ。

「みんな、お疲れ様」

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